第39話 報告と緊急事態


「って事があってな」

「偽物の聖剣の勇者ですか……」


 アカネの固有領域の中、ルークの報告会が終わるとセレスティアは少し顔を俯いた。

 自分は決して信心深い方ではなかったが、聖剣の精霊を見て少なからずショックを受けるくらいには聖堂教会に染まっていた。

 今、それらが自分たちから教義の中心たる人物の偽物を仕立て上げている。

 しかも恐らく主導は大司教と枢機卿だろう。

 セレスティアはルークの説明を聞き終わって、何とも言えないくらい不快な想いを感じていた。


「その場に聖女様はおられなかったのですか?」

「ん?そう言えばそうだな。女の姿は見えなかったな」

「あの子が偽物なんかの傍に立つなんて想像できないわ。そもそも、偽物の勇者を作るだなんて馬鹿げた話に乗るとも思えないし……どうなってんの?」


 リインフォースの言葉にセレスティアが反応する。


「あのリインフォースさん、その聖女ってエクレ……エクリュベージュですよね?」

「ええ、そうだけど。え、知り合いだったの?」

「はい。騎士になってこの街に来る前は修道女として過ごしていましたから。その時の幼馴染です。あの子が聖女になった時に私は騎士に転向したのでもう六年以上会ってませんが」

「へぇ、世間は狭いわね」


 と、リインフォースが相づちを打った所でルークが立ち上がる。


「ま、あーだこーだ考えても仕方が無いだろ。とりあえず、飯にしよう」

「確かにそうですな。手配書の内容変更にも違和感はありますが、判断するための情報が少なすぎます」

「主様の英断は見ていて気持ちが良いのぅ。確かに下らぬことに気を揉む必要はない」


 アカネとウィーカの言葉にセレスティアは苦笑い気味に、リインフォースはあからさまに顔をしかめた。

 しかし、レオナが立ってルークの傍に近寄り、ルークを見上げながら口を開く。


「れお、おにく、たべたい!」

「そうだな。昨日と一昨日が魚メインだったし、なんか肉捕りに行くか」

「ん!」


 レオナの純真な振る舞いに毒気を抜かれた二人はやれやれと立ち上がる。

 そしてセレスティアはグッと腕に力を入れて、笑顔を浮かべた。


「じゃあ、今日も頑張っちゃいますよ!」

「ホント頼りにしてる」

「頑張ってください!」

「意外な特技よね」

「人は見た目に寄らず…じゃな」


 アカネが森への出口を作り、そこに向かってセレスティアが歩き出す。

 その後ろに付いて行くようにルークとレオナ。

 さらに後ろにリインフォースが付いて行った。


「よろしいのですか?」

「何がだ?」


 アカネはウィーカと二人っきりになってから声を出した。


「せっかく魔剣の主様にお会いしたのに、魔剣を拙が持っているので」

「構わぬよ。あの女が得意げに主様へと寄り添っているのは腸が煮えくり返るほどムカツクが、時間の問題じゃ」

「と、言いますと?」

「いずれわかる。あの女がどういうモノなのか……」


 アカネはウィーカの言葉に息を呑む。

 いつもの嫉妬から来る言葉とは思えなかった。

 長年戦ってきた相手だからわかっている事があるのだろう。


「さて……。巫女よ、我らも行こうぞ」

「あ、はいです!」


 ウィーカに促されるままにアカネは自身の固有領域を出る。

 いつものような足取りで、全く警戒心のないままに……。


「お?」


 森の中に出た瞬間、アカネの目の前には理解のできない光景が広がっていた。

 地面に倒れている見知らぬ男性五人。

 ルークは聖剣を構えて応戦しており、レオナは木の上で法術を構築している。

 そして、セレスティアが事も無げに襲い来る男性を地面へと転がしていた。


「どういう状況ですかな?」

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