第37話 少しの変化
ルークたちが逃亡生活を始めて早十日。
もっと盗賊らしい生活に戻るかとルークは思っていたが、それは最初の数日だけ。
セレスティアが街へ入れないことによるストレスの発散も兼ねて狩猟採集を始めてからは、それらを卸売りの商人に売りさばくことで金が手に入る様になった。
とは言っても、相変わらずコソコソと隠れながらの生活は続いている。
街中での警戒網は「セレスティアがヴィヴィアンから脱出した」という事実のおかげでだいぶ薄くなっている。
それでもフォグの店には見張りの騎士が常駐しているし、街中では平時よりも騎士の姿が残っている。
そのせいでセレスティアの胸当ても引き取るのに苦労したのだが、それは一旦置いておく。
この日もルークがセレスティアの加工した肉や魚をフォグに紹介してもらった商人に卸しに来ていた。
「んじゃあ、今日の分だ」
「ん。サンキュ、グリン」
フォグと同程度の体格をした商人グリン。
強面、筋肉質に大きな体は商人と言うよりも騎士に近い。
まだやり取りをし始めて五日と経っていないが、ルークの他人と壁を作らない雰囲気に好感を持ち、親子ほどに年が離れているものの友人のように接している。
「そういやぁ、なんか賑やかだけど祭りとかあんの?」
「ん?あぁ、なんでも盗まれていた聖剣を取り返したとかで」
グリンの言葉にルークは僅かに目を開く。
そんなルークの反応を気にも留めることなく、グリンは言葉を続けた。
「その聖剣の勇者が出てきたそうだ」
「あれ、犯人は?」
「セレスティアや他の犯人連中は取り逃がしたって言っててまだ指名手配中。んで、たまたま来ていたっていう国の第一皇子が戻ってきた聖剣の試しをやって、クリアしたらしいんだ」
「んと……。前に見た手配書関連の掲示板に眼鏡をかけた幸薄そうな少女が聖剣の勇者候補って書いてたと思ったんだけど???」
「詳しい事はわかんねぇよ。あ、でも確か」
と、グリンはカウンターの下から一枚の紙を取り出す。
「ほら。新しい手配書さ」
「へぇ~」
ルークは紙を受け取ると、一枚一枚に目を通す。
自分とレオナの情報に更新はない。
だが、セレスティアの手配書からは“生死問わず”という言葉が抜けていた。
そして肝心のアカネは勇者候補が別の文字に書き換わっていた。
「聖女候補?」
「らしいぞ。聖剣に触れんのは聖女か勇者だけなんだと」
「聖剣を抜けるのは勇者だけなんじゃ?」
「んなことオレに言われてもわかんねぇよ。あれじゃねぇか?女は聖女で、男は勇者とかそういうんだよ」
「ふぅん?」
ルークはそのまま手配書をグリンに返す。
「ま、それで新しい勇者が誕生したってんで、凱旋するらしくてな。急な祭りムードで商工組合連中はピリピリしてるよ」
二日前に飾り付け指示が飛び、商工組合の若者たちは東奔西走し、準備に取り掛かった。
どこの世界でも鶴の一声で苦しむのは作業を担う若者たちだった。
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