第32話 聖都ヴィヴィアン
「はぁ~!ここが聖都ヴィヴィアン。遥か昔に聖剣が神よりもたらされ、今もなお保管されている文字通りの聖地!」
アカネは聖都ヴィヴィアンを満喫していた。
街路はすべてが白灰色の石畳で舗装されており、街の中心には大きな川が流れている。
今まで通った大きな街でもこれほど全体的な色が統一され、ゴミが歩道の端に投げ捨てられていない光景は無かった。
聖地であり、観光地であり、信仰の象徴という事もある。それらの理由で、街中の清潔感を保ってきた聖堂教会の政策は正しく機能していた。
特にアカネのような観光客には覿面(てきめん)だ。アカネが魔族でなければ信仰心が芽生えていたかもしれない。
「嬢ちゃん、巡礼かい?」
「はい?」
声をかけてきたのはパッとしない印象の男性。
浮かべた笑顔から商人っぽくも見えた。
「朝一に随分と嬉しそうに街中に歩いて行ったと思ったら、またここにいたんでな。ずいぶん時間をかけてたみたいだから、街を一周してきたんだろ?」
「アハハ、そういえばいつの間にか街の入り口に戻っておりましたな」
確かにアカネは夢中で歩き、街並みや服飾、食事などを見て楽しんでいた。
ただそれは周りにいる観光客も同じだ。まさかそんな大勢の中の一人を覚えている人間がいるとは思っていなかった。
「エレイナ聖堂には行ったのかい?」
「あ、いえ。そこは最後にしようかと思っておりまして。先に周辺の街並みや露店を楽しんでおりました」
「アハハハ!そうかいそうかい。ま~。確かに聖堂を後回しにするって気持ちもわからんでもないな。あそこは他の街の聖堂よりも豪華だから目ン玉飛び出るぞ」
「それは楽しみですな」
「あと、500Gで聖剣を引き抜くのにも挑戦できる。もしかしたら、嬢ちゃんも聖剣の勇者になれるかもだぜ?」
おじさんの言葉にアカネはごまかし混じりに口角を上げる。
「そうですな。一度は挑戦してみても良いかもしれません。ありがとうございます」
「おう!アンタに聖剣のご加護がある事を」
「オジ様にも、聖剣のご加護があるよう祈っております」
おじさんと別れたアカネにウィーカが少しだけ愚痴をこぼす。
「アレの本拠地とはいえ、聖剣の加護などと聞くと気分がそがれるのぅ。街中に溶け込むためとわかっておるが不快じゃ」
「申し訳ありません。ですが、聖剣は一目見てみたいので、もうしばらくお付き合い願います」
「まぁ良い。それよりも、どうやら主様もこの街にいるようじゃ。もし近くなったら知らせる故」
「承知しております。その時はお役目優先で動きますので」
音を遮断する魔導具を発動していたため、周りからはアカネが歩きながら口パクしているようにしか見えない。
だが、そんなアカネの配慮もむなしく、アカネとすれ違った多くの人は彼女が口パクをしているなどと気付きもしなかった。
アカネはそのままウィーカの愚痴を聞きつつ、エレイナ聖堂へと入る。
法力の満ちた聖堂内は1000年前から変わらぬ荘厳な佇まい。
歴史的建造物・道具などが大好きなアカネはその石壁に目を輝かせていた。
「はぁ~~~。これは法術ではなく、楔でくり抜いた岩ですな。青みがかった色合い的にもカリヴァヌス山の物。この街までおおよそ600km。法術も未だ整備されていない時代にどうやって運び込んだのか気になりますな」
聖堂入り口の壁に向かって独り言を発する不審者(アカネ)に一人の勇気ある神官が近づいてきた。
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