第80話 ダンジョン協会

田中が銃刀法違反で捕まってから数日後。

レベルアップの噂の検証を確かめるために政府が軍隊を派遣した。

俺のおかげでこちらは平和そのものだが、軍隊は大きな被害を負って帰還する羽目になった。


ゴブリンなどの群れで行動させると厄介なモンスターに集団で暗闇の中襲われる事実。如何にプロテクターで全身を隈なく覆っていても、それ以上の能力の体現者の登場でたちまち瓦解。

どうにか持ち帰った魔石と呼ばれる新しいエネルギー源を媒介に、魔道具を製作。


勿論それらは異世界のプロフェッショナルのお手製。

日本語訳もしっかりこなせると言う意味では下野ほど打って付けの人物もいなかったので俺からオファーを出した。


そうして発足したダンジョン協会。

人々の新たな職業に探索者シーカーが誕生した瞬間だった。

それでも日常を憂う人々はダンジョンを魔道具で覆い、安全に備える。

ダンジョンの周りをダンジョン協会で確保するまで、俺は現地に居続けた。

正直ダンジョンを他の異世界に押し付ける事だってできる。

その方が手っ取り早いし、確実だ。


では何故そうしなかったのか?

いや、違うな。

そうした結果を知っているからこそしなかった。


人々は俺を恐れ慄き、興味の対象とし『知る権利』を行使した。

自分達を助けてくれた相手に攻撃したのだ。

それでもう懲りていると言うのが本音。


きっとこの世界もそれをしたらしたで有る事無い事騒ぎ立てて俺を追い詰めるだろう。

見捨てたっていいのに、人の命を盾にして責め立てる。

そうされるのが嫌だからそっちの方法を選ばなかった。

怪我を負ったら俺のせいではなく、怪我を負う様な真似をした自分のせいだと改めて認識してほしいもんだ。


異世界の人間が何でもかんでもやってくれると思ったら大間違いだぞ?

正直お前達なんてどうでもいいんだ。これが俺の本音。

でも一応ビジネスだから協力してるだけ。

そこを履き違えちゃダメだぜ?


「と、新しい風物詩の登場に世間はダンジョンアタックに非常に前向きになってる現状だけど俺たちはどうするべきかね?」

「何もしなくていいと思うよ?」


カウンター転移は解いた。

お陰様で熟練度は軒並み上がってセットできる個数が100を超える。それをあえて言わないのは人の善意を利用して搾取する考えの人間が少なからずいるからだ。


俺はビジネスでここにいる。うまい思いをしたいんなら出すもん出してもらわないとな?

ぶっちゃけ元の世界に帰ったっていいんだぜ?

そういうとマスコミはすぐに黙った。

自分がここで無理を通せばそのせいで帰ったと今度は自分がやる様にあげられるからだ。


被害者から加害者に。

まぁマスコミが被害者かどうかはともかく、ダンジョンと融合を選んだ世界が面白くなりそうなので現状維持に努めておく。


どうしても倒せないモンスターが出てきたらうちのシーカーを派遣したっていいし。

元ガチMMO廃人だからマナーもあったもんじゃないけどな。

基本的に獲得したものが現地に届けられることはない。

それでもいいなら、の条件を呑むのはダンジョン協会としては相当にきついだろう。

なんせその目的がダンジョンから入手した素材の研究で資金を集めているからだ。

同じシーカーだからと言う情に訴える方法は通用しない。

異世界のことなんて知った事じゃないのは俺に限らず、向こうの地球人も同様だった。


◇◇◇


ダンジョンがこの世界と適合して三ヶ月が経った。

俺たちは高校を卒業し、もっぱら大学に行くか就職先に赴くかで忙しい日々を送ってる。


俺? 俺はほら、もうとっくに起業してる社長でそれなりに稼いでるから。

フリーターの真似事してたってなんの問題もないわけよ。


たまにあーちゃんを起動させて家族ごっこも堪能してるしな。

ゆりかご型の充電システムで寝かすのが本来の使用用途だと後から下野に説明を聞いた時はぶん殴ってやろうかと思ったが、実際のところ美玲さんがいれば充電器が必要ないので握った拳は引っこめた。


田中はレベルアップした事がきっかけでシーカーになっていた。

クラスの中で唯一、ともいかないが。

特に進学先が絶望的でフリーターとして生きていくよりかはまだ希望があると言う意味で。


俺は何をしたもんかなーと冒険者教会へと赴く。


「ようこそダンジョン協会へ磯貝様。本日はどの様なご用件でしょうか?」

「いや、ちょっと異世界のアイテムをダンジョンの中で売買してみようかなって」

「流石にそれは……でしたらシーカーとして登録していただいた方が」

「いや、俺こっちの出身じゃないから混ざって動くとやっかみを生むじゃん? じゃあ他に何かで貢献をしようと思ったら他の世界に行ったことある経験を生かして、アイテムを売り捌こうと思ってさ。ダメ?」

「販売していただく前に、どのようなものを売るかをこちらで検証させていただいてもよろしいでしょうか?」

「勿論」


俺がダンジョンで販売しようと提案したのは、ダンジョン入り口を陣取ってるダンジョン協会(安全地帯)への転移ポータル。つまりは帰りたいと思って握りしめると戻ってこれる、どんな仕組みのものを売る予定だ。


「これは画期的ですね。これ、売れますよ」

「だろうね。でも転売はできない」

「何故でしょう?」

「このアイテムはコピーが効かないからだ。そしてこのチケットの材質が非常に希少な金属でできている。もし似たように加工をするとしても労力に見合わない。何故だと思う?」

「わかりません」

「素直で結構。単純な話だ。俺のスキルに紐付けしてるから、俺がダンジョンで店を開いてる時間でしか利用できない。いざという時に利用できないかもしれない。そんな時、スマホで時刻を確認しようにもダンジョン内は強力な磁場で精密機器は高確率で壊れてしまうだろう?」

「ええ、それでも我々は代わりになる時計を製作中です。もしかして磯貝様は代替え品をお持ちで?」

「ああ。これは俺の世界で生み出したスマホでね。魔力で充電可能な充電器付きだ」

「買います!」


客でもないのに食いつく受付嬢。

ノリのいい人は嫌いじゃないよ。


「待って待って。これは単品じゃ売らないよ」

「残念です」

「でもこれをつけるって言ったらチケットは売れそうじゃない? 勿論一回使うと手元から消えて、俺の元に戻ってくる。傷もつかず、油性マジックペンなどで印もつかない。自分のものだって言い聞かせて使い回すのは不可能だよ。それを使い回すのは俺の権利だ」

「尤もです。他には何か?」

「きっと怪我人も多いだろうと思ってね。ポーションとかドロップする?」

「そうですねぇ、まだ擦り傷などの回復薬が多く、大怪我などした時の回復薬は揃ってません……まさか?」


俺は頷いた。こうしてダンジョン協会と癒着した俺は、大手を振ってダンジョン内で商売を始めるに至った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る