第24話 ダンジョン調査隊④

ダンジョンの一階層はアリの巣のように入り組んだマップになっていた。

出てくるモンスターはゴブリン。

緑色の肌をした鷲鼻の妖精だ。

子供くらいの大きさで……まぁ俺らも子供だが、小学生低学年くらいと言えばいいか?

性格は狡猾で近所の生意気なクソガキを彷彿とさせる。

ウチがニュースで取り上げられた時に真っ先に垂れ込みをした家族である。絶対に許さんからな!


それはともかく、貴金属が好きでカラスのような習性を持つ。


武器を扱う知恵はあるが、武器を作るまでの知識は持たない。

要は買ったものを捨てられない貧乏思考の人間という認識だった。


先ほど道具を使う知恵はあると言ったが、魔道具は別で魔法も使える様子も見せない。

ただしトラップの類はゴブリンが用意したらしく、いやらしい場所に設置されていた。


毒が塗り込まれた矢が飛び出してくるトラップが頻繁に作動する。

誰が発動させてるか?

俺だよ。さっきから俺が罠を片っぱしから踏んでいる。

ただこれはあえて作動して、俺とゴブリンの位置を『入れ替え』することによって撃破する作戦だった。


周囲が暗く、不意打ちを打たれたら仕方ない。

特に夜目が効くゴブリン達は団子になって襲いかかってくる。

アニメや小説と違って、女性を性的に襲うことはないが、遠慮なく命を奪ってくるので怖いんだ。


「これでゴブリンはあらかた片付いたか?」

「磯っち、後ろ!」

「はい、ドーン」


そんな余裕をかましていた時である。

一際巨大な人影が飛び出ると、俺に向かって棍棒を振り下ろした。

笹島さんの呼びかけで俺は先程発見した落とし穴に飛び降り、襲撃者と位置を取り替えることによって窮地を脱する。


襲撃者はゴブリンより肌が薄黄色いホブゴブリンだそうだ。

太っちょで、ゴブリンより一回り大きい。

成人男性くらいの体格で筋肉質だったが、ついさっき猛毒が塗られた落とし穴に飛び込んであえなく撃沈。

ゴブリンより図体はでかいが、そこまで賢くはないようだ。


「磯貝のそれ、もはや反則だよな」

「いや、便利じゃん?」

「自分から罠にかかりに行って、何事かと思ったらいきなり立場が入れ替わるんだぞ? 心臓に悪いったらない」

「ゴブリンなら高確率で引っかかってくれるぞ?」


ちなみにこの作戦、提案者は城島さんだ。

マジ、血も涙もない女である。

決行直前前までビビり散らかしていたのは言うまでもない。

もし自分が転移を手にしていたら、そういう行動を取っているってことだろ? それだけ自分の命を軽んじてるんだって話。


え、城島さんなら危なげなくやれてる?

いちいちビビるのは俺くらいだって? うるせーよ。


「どうやらここから先は大きい奴らの根城のようね」


城島さんがマップの先に現れた個体を見据えてつぶやいた。

なお、ダンジョンの空洞はゴブリンがいた時とサイズが変わらないのでホブゴブリンにとっては窮屈そうだ。

ここで冷静の城島さんの作戦行動はこうである。


「ここまで釣って各自撃破でどう?」

「MMO的にはそれが正解だな?」

「いっそ入り口で火を焚いてガス欠にさせるのが最善じゃ?」


そこで麻生が余計なことを言う。

確かにこんな穴蔵で非人道的行為、効果は覿面だろう。


「だめよ。受付があったように、ここには上位冒険者の先遣隊が入っているの。その人達ごと葬る気? それと相手が生きているなら情報も引き出せるのよ。面倒くさがらないで」

「そうだな、どうしても回りくどくて効率を考えちまった」


厳しい物言いをする城島さんに、麻生は謙る。

言わんとすることはわかる。

ゲームや小説のようなダンジョンと違い、この空間からはずっと息が詰まるような、そんな気が滅入ってしまう状況が続いた。

まるで出口のない泥沼みたいな感じである。

ダンジョンという餌で釣って、実質トラップなんじゃないかって誰もが思っているだろう。

実際俺もそう思うもん。


そもそも未だにお土産らしいお土産ひとつ貰えてない。

なんせダンジョンでモンスターが死ぬと、その肉体まで消滅してしまうのだ。

まるで死体を外に持ち出させない為と感じさせるが、考えすぎだろうか?


「どうするの? このまま探索を続ける?」


笹島さんがスマホの時刻を見せてくる。

時間は午後五時を回っていた。

学校の授業はとっくに終わっている。

冒険者になったりと回り道が多かったからな。


それと準備不足を痛感させられた。

俺たちは取り敢えずここをセーブポイントとして一度地球の学校に戻ることにした。


教室に戻ると部活動にいそしむ生徒以外はとっくに下校していた。

ただ校長と担任の桂木先生だけが残っていて、成果を聞いてくる。


「いや、ダメっすねあのダンジョン。今んところ殺意高くて夢も希望もないっすわ」

「それと現地では冒険者の銀級に就くことが推奨されていました。つまりそれぐらいの難易度を誇るとみていいでしょう」


俺の言葉に続いて、向こうで冒険者をしている伊藤が口を開く。


「銀級と言うと?」

「小説的に言うとFから数えてCランクっす」

「随分と高いな」


話についていけぬ校長に変わり、冒険者ではなく商人として異世界に関わっている桂木先生が受け取った。


「先生のランクは?」

「まだDになったばかりだよ。つまりはアイアンだ。伊藤達もそれくらいだったろ?」


先生の目は、どんなズルをすればランクを誤魔化せるんだと聞きたげだ。なんせ現地で一ヶ月、汗水流してその程度の昇格。

言ったばかりの俺らが立ったの一日でシルバーになったと聞けば疑いたい気持ちもわかる。


その説明を城島さんが引き受けて、その内容を聞いた桂木先生が食いついた。あ、目がお金になってる。

これは姫路さんを巻き込んでランクアップ事業が捗りそうだ。


俺は一抜けた〜と笹島さんと一緒に帰宅した。

伊藤達もそれぞれ帰路についている。

パパラッチは気にならないのかって?


女子と一緒の帰り道に襲撃してくる奴の運命なんて気にしてたって仕方ないだろ?

ゴブリントラップ作戦と同じさ。

全員ゴミ箱に頭から突っ込んでミッションコンプリート。

俺は青春を謳歌した。

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