第50話 ハーレム勇者とモブ⑤
自室に戻る前、心ここにあらずなハーレム達を引っ張り歩くエイジに呼びかける。
これからの活動を決める上での相談だ。
「それで、相談とは?」
「うん、まあその前に。お前はこの国をどう思う?」
「唐突だな。確かに、話を真に受けるのは危ないとは思う」
勇者様もそれなりに警戒している様だ。
しかし初手でハーレムメンバーが手籠にされかけてることにまでは気がついてないか。
「で、お前の彼女達」
「彼女じゃない! ……とも言い切れないが」
「あーあー、そこら辺をいちいち探りはしねーよ。問題は今の彼女達の状態だ。イケメン王子様に熱視線を向けるのは構わねーと言っていたが、その王子様が居ないのに今もお前に見向きもしねえ。流石にこれはおかしくないか?」
「確かに……いつもは鬱陶しいくらいに僕にべったりなのに、これはおかしいね」
おいおい、ハーレム主さんよ。それは流石に女子に失礼過ぎんでしょ。
好いてくれてる相手にそんな態度取り続けてたら飽きられちゃうぞ?
「と、そこで新しいお友達を紹介する。でもその子を呼ぶ前に、説明だけはしておくか。木村の時は突然だったが、それはお前達がどの様な反応を示すか見ていたんだ」
「確かに、君が自在に世界を移動できるという術を聞かされて疑心暗鬼に陥っていたのは確かだ。一人目の奥さん? はまあ身近な存在なのでそういうことも可能だとは思っていた。しかし二人目は……」
木村は友達という枠でくくれるほど優しい存在じゃない。
初手罵り合い。そして利益が見えたら手のひら返し。
自分の命を優先する俺が手元に一番置いておきたくないタイプだ。
これで俺が知り合った相手ならば“誰でも”転移させられることが可能だと気がついてくれたと思う。
「その通りだ。俺は関わった相手に関係なく、相手を指定して送り届けることができる。だが俺の知ってる世界にのみ限定される。これが俺のスキルのルールだ。一人二人だなんてチャチな枠じゃ収まらない。世界ごとの転移も可能だ」
「アキラ……君は……いや、そうでもなきゃそんな荒唐無稽な会社を立ち上げられないというわけか? 僕たちの世界も手がかりさえ掴めれば?」
「ああ、帰るのは可能だ。行くか行かないかはそっちに任せる。さっきの名刺のURLに連絡くれたら友達特典で優先してやってもいい。ただし一回限りだ。まだ知り合ってそんな経ってないからな」
「今はそれで十分だ。ただしその回数、増やすことはできるのか?」
なんでそう欲をかくのかねぇ?
一回でも融通してもらえれば御の字でしょ。
これは誰かに何かをしてもらうのに慣れてる連中だな?
全く嫌になるね。
感謝する姿勢が微塵も見えねえ。
まずはありがとうと咽び泣いて感謝することから始めようぜ?
「ま、そこは今後のお前次第だぜ? さて。今回呼ぶのは吉田さん、女子だ。が、彼女はいるだけで筋肉疲労や、毒物、呪い、洗脳の類を解除する」
「もうその子さえいればいい様な気がするが……」
「流石にクラスメイトをお前のハーレムメンバーに入れる気はないぞ? すごく便利な子だが、彼女にだって生活がある。それを捨ててついて行くか決めるのは彼女に権利がある」
「確かに一理ある」
一理以前になんでお前の仲間になる前提で話するんだろうこいつ?
「今回はお前らのハーレムメンバーが頭くるくるパーになってるのを解除して貰うためだな。そしてもしそれが彼女の登場で解除された場合、この国は真っ黒だったって事になる。ここまでは良いか?」
「くるくるパーは心外だが、おかしくなってるのは確かだな」
「あたしから連絡入れとくね? 木村っち居るとこういう時便利だねー」
ピポピポと手元の板を操る美玲。
そして快活なトークで数分無駄話を終えた後に本題に入る。
女子はどうして高無駄話が好きなんだろうね?
ま、俺が直接呼び出すより100倍了承を得られるので奥様パワーは侮れない。
「吉りんオッケーだって。あ、でも30分だけって約束」
「オッケー、むしろ一瞬でカタが付く。召喚!」
「ヤッホー笹島さん」
「ヤッホー吉りん。あ、でも今は磯貝だからそこ気をつけて?」
毎回やるのか、この下り?
まあ俺の苗字を大切に扱ってくれてる分には嬉しいが。
と、同時。
さっきまで心ここに在らずだったメンバーが正気に返った。
全員が一斉にだ。これはビンゴだな。
「あれ? 私は……確かさっき、ダメだわ思い出せない。凄く楽しい夢を見ていたの。エイジ、あなたのことを思い出せないほど。これじゃあ彼女失格ね」
「そんな事ないさ」
幼馴染を抱きとめ、その指に力が入っている。
さっきまでどこか信じきれなかった気持ちは今、確かな疑いに代わっていた。
自分を慕っていた相手が、根こそぎ奪われかけていた。
一体どんな手段で?
分からぬが、異性に効果覿面な妖術の類いだろうな。
「痛っ、痛いよエイジ」
「ごめん、ごめん雪乃。君を失う一歩手前だったのに気づけずにいた僕が悪いんだ」
「エイジさん、それはいったいどういう事ですの?」
「エイジ! 状況を教えてくれ!」
ハーレムメンバーがようやく一丸となった。
そして闖入者である吉田さんは去っていく。
さっきまで元気に語らっていた彼女達も、どんどんとさっきと同じ様に意識が曖昧になっていった。
どうやら、この術式は一度かけたら終わりではなく、この城全域にかけられた、謂わば永続式の結界。
どうやらその術式を見つけられると厄介だから出入りを封じたんだろうな?
さて、木村よ。捕まってくれるなよ?
死なれたら俺たちも困るし。ってステータスさで物理じゃ殺せないか。だが呪いの類は聞くからなぁ。
城の連中に気付かれずに、それらを飛ばすには?
情報が足りんな。
さて、相手はどう出てくるか?
まぁ一旦この城から出れば良い話だが。
「と、いうわけで少しお散歩に行くか」
俺は手を叩き、立ち上がる。
「お散歩?」
「そうだ。この国の目的がなんなのかも知れずに行動するのは危険じゃん? 城下町への直通ゲートも欲しいし」
「本当に出鱈目だよなぁ、君は。僕はまず彼女達をどうにかしないと」
「その為の散歩だよ。多分この城にいる限り術中にハマりっぱなしだ。なら外に出れば良い」
「どうやって?」
「その為に木村を泳がせていたのさ。召喚!」
「ナイスだぜ、相棒。やっぱ城内は監視の目がきついわ。だが俺は怪しい部屋を見つけた! これは得ダネの予感だぜ!」
まぁそうだよな。
木村ならそっちの方に導かれるのは当たり前だ。
だが、こいつはそれだけじゃねぇ。
基本逃走ルートを確保してから無茶をするやつだ。
「で、だ。木村、出口はもちろん確保したよな? ここから向かってどっちの方角だ?」
「それならさっき上げたアーカイブに載せたぞ? 徹底解剖! 初見王城マップ検証って奴だ」
「ナイス!」
本当に頼りになる男だよ、こいつは。
ただし奴のターゲットになったら最後。殺したいくらい憎たらしいやつになるがな!
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