第49話 ハーレム勇者とモブ④

ステータスとジョブが決まると、お姫様に次いで王子様が説明してくれる。今まで出てこなかったのが気になるが、その気にさせるまでの役割をお姫様が引き受けてたってところだろう。


たしかにか弱い存在から助けを求められたら、男としては引き受けないわけにもいかない。理にかなったやり方だ。

しかしそんなやり方を用いる国が、果たして困窮しているのだろうかと言う疑問。


一夜を過ごした時に出てきた夕飯も、割と豪華だ。

どこかで破綻するだろうことは請け合い。


話半分で聞いてると足を掬われかねない。

まぁ危なくなったら転移で逃げればいいか。

暇つぶしで命までかけるのは馬鹿らしいし。


「ではここからは我らが王国の誇る軍部と、そして立ち向かうべき相手の話を進める。よろしいか?」


甘いマスクで女性陣の視線を一手に引き受ける王子様。

男より女が多いからこっちに作戦変更したとかじゃないよな?

俺はエイジの脇腹を小突いた。


「お前んとこの幼馴染、王子様に熱視線送ってるけどいいのかよ?」

「彼は僕から見たって魅力的だからね。仕方ないと思うよ。君だって結婚してるとはいえ、魅力的な女性が現れたら目を奪われるだろう?」


なるほど納得な返事が来た。

微動だにしないと言い切りたいところだが、目は確かに奪われるな。

気持ちは動かないが、成る程。この器の大きさがこいつの持ち味か。

ハーレム主人公の要素って鈍感以外にも必須なものがあるんだな。


「あっくんも負けてられないね?」

「俺は他のスペックで勝ってるからいーの。それ以前に俺ほどの愛妻家もそうそういないぞ? 別れたら絶対後悔する! その努力はしてるつもりだ!」

「ふふ、そうでした。そもそもあっくん以外であたしが頼れる人も居なかったんだ。ごめんね、あっくん?」

「別ればいいってことよ」

「君の所は恋人がぞっこんで羨ましい限りだよ」

「お前もさっさと誰と付き合うか決めればいいのにさ。まさか全員とだなんて言わないだろ?」


そう促してやると、エイジの目が泳いだ。

あ、こいつ。地球で重婚が認められないからってこっちで活躍すればワンチャンあるかもって腹づもりだな!

いーけないんだ。


誰も話すをまともに聞かない一同にしびれを切らすのかと思いきや、王子様は柔和な笑みを讃えるばかりだ。

場慣れしてるな、こいつ。どこかでストレス発散してるのかもしれんね。取り敢えずさっきからこの場所を出て行きたそうにしてる木村を室外に『入れ替え』る。

あいつは元々召喚された一員じゃねぇ。本当ならここで話を聞く必要もないんだが、場内に何か見られちゃまずいもんでもあるのか俺たち全員を逃さないように厳重な警備が敷かれていた。


「おや、一人見当たらないがどちらにいかれたのかな?」

「あ、お腹が痛いらしいのでトイレに。何か問題でもありましたでしょうか?」

「ああ、いや。案内を手配しようか思ったのだが、手配する前に向かわれた様なのでな」

「それでしたらこちらで既にトイレに直接転移したのでご心配なさらず。ささ、お話の続きをどうぞ」

「今聞き流せないフレーズを聞いたのだが……『転移』といったか?」

「エルフジョークです。古代文明のテレポートを物にしようとする我々は、迅速に物事を片付けたい時に『転移する』と言う動詞を使うんです。な?」

「うん、あるあるだよね」


美玲さんが相槌を打つことにより、王子様が納得いかないが理解したと話を掘り返すことはなかった。


話をまとめると、この世界は大きな一つの大陸の中にある弱小国の一つ。常日頃から隣国にちょっかい出されて疲弊している状態。

そこに新しい脅威である魔王がダンジョンを通じて人間界に侵略を始めたと言う。


なんか聞いたことのある内容に、ダンジョンの侵攻が上手いこと合致する。

スキルの入手できる世界クラセリア。

そこに侵略戦を仕掛けてきた部隊もたしか魔王郡と名乗っていた。

うちの地元の探索者たちが陰湿なリスポーンキルを繰り返したおかげで侵略の手をやめてどこに行ったのか心配してたのだが、どうやらこっちにきているらしい。


クラセリアに比べてぬるいアトランザ。

その下位互換のこの世界なら、たしかに赤子の手を捻る様に侵略も容易だろう。だからこそ思う。


「あいつらも懲りないな」

「ダンジョンてあのダンジョンなのかな?」


俺と奥さんの会話に、王子様が目を細める。


「心当たりがあるので?」

「我々の因縁の相手でもある。乗り気ではなかったが、此度の戦、本腰を入れて手をお貸ししよう」


そんで地元にいくつか送り込む。

探索者は増えども、ダンジョンの数が減って他の世界に武者修行いってる様な修羅しかいないんだよ、地元。

地元の景気回復のために、いっちょ役立たせてもらうぜ!


「アキラが乗り気なのは嬉しいけど、僕たちの獲物も残しておいてくれよ?」

「そこは早いもん勝ちだろ。それで、王子様。ダンジョンの攻略の報酬は何をしてもらえる感じだ? 金をもらっても俺はあんまり嬉しくないんだ。そうだな、この世界の特産品で手を打とうか。俺はこう見えても商人をしていてな。元の世界の手土産にしたいんだがどうだい?」

「成功報酬というわけか。分かった、報酬はこちらで見繕っておく。では本日の伝令はこれまで。まだ聞きたいことがあるのならメイドを呼んで伝えてくれ。私自らが対応することはできないが、なるべく目を通す様に尽力させてもらおう。私からは以上だ」


席を立ち、王子様が踵を返す。

その一挙手一頭足に至るまで流麗で無駄がない。

女子たちの視線が釘付けになるのもわかる気がした。


それにしたってハーレムメンバー全員が王子様に釘付けなんてあるか? うちの美玲さんも流されかけたが、よもや魅了の類じゃないだろうな? ちょっと気になるので後で吉田さんを呼んでおこうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る