第48話 ハーレム勇者とモブ③

奥さんとあてがわれた部屋で一晩過ごして翌日。

再び王宮に呼ばれた俺たちは、独り身の木村とハーレム組からすごい形相で睨まれた。

どうやら昨晩の逢瀬が激しかったらしく、隣の部屋まで聴こえてしまったのが原因なようだ。

いやー、だって。好きあってる者同士が一つ屋根の下。

するだろう? 

え、しないの?

お互いを大切に思ってるから出来ない?

それはそれで相手が可哀想だろ。


まぁ、俺も? 付き合い始めた当初はそういう時期もあったよ?

でも今なら言えるね。我慢のし過ぎは体に毒だって。

あと美玲さん、くっつき過ぎ。

昨日もたくさんハッスルしてしまったので好評ラブラブ中である。


「このバカップルが!」

「お前ら……程度というものを知らないのか? お陰でこっちはお互いを意識し過ぎて眠れぬ夜を過ごしたんだぞ?」

「そんなん、こっちに言われたって困る。それに最初に言ったろ? 俺たちは夫婦だって。それも新婚ほやほや。事業も軌道に乗ってきたし、向こう100年は養っていける蓄えもあるんだ。それに俺の能力で彼女は安全な場所に匿える。実家暮らしで母親との関係もバッチリ。両親からのサポートも万全だ。子作りに励むのになんの不安要素がある?」

「ぐっ……何も間違ってないのが悔しい! そうだよ、まだ僕たちは学生だ。だから養われてる状況で手を出して責任を取れるのかと言われたらぐうの音も出ない!」

「負けないでエイジ! こっちで立身出世すればワンチャンあるわ!」


正妻ポジの幼馴染がエイジを促す。

それは逆に元の世界に帰るとチャンスが消えることを示しているのでは?


「そうよ、エイジ。ここにくる前の能力は秀でていたもの。強い力を得れば、きっと誰も貴方に刃向かえなくなるわ。私のお父様だって、もうここには居ないもの!」


何やら事情を抱える海外留学生ポジのクラスメイト1が幼馴染に被せた。こりゃ親御さんと一悶着あったな?

どうせ身分が釣り合わないから別れてくれとか言われたんだろう。

賎民意識が高いやつってどこにでも居るよね?


「それにエイジの敵は私の敵。寄らば斬って捨てるのみ。何も心配することなどない。今まで通り行けばだいじょうぶ。案ずる必要もなし」


物騒なことを言い切るクラスメイト2がエイジを駆り立てた。

それでようやく復帰するあたり、この男にとってこの三人はなくてはならない存在のようだ。

そりゃここまで惚れられてればな。男冥利に尽きるってもんだ。


ただ、それとは別に責任の重さもつきまとう。

相当稼がないと大変そうだ。

流石に俺はそこまで手を貸さんぞ?


まぁこの国にとって俺たち(木村含む)はイレギュラーだ。

一緒にいられるのは今日くらいであとは別行動させられるだろ。

良いところ追放だろうな?


「それでは皆様、こちらの水晶版の前に手をかざしてください」


来たな、お決まりのやつが。

エイジ達は案の定「勇者」「聖女」「賢者」「凶戦士」の当たりを引く。凶戦士が果たして当たりかどうかは端に置いといて、あの男がヒロイン候補を切り捨てる未来は見えないのでこのメンバーでパーティーを組むのは決定だろう。


ただ、問題は俺たちの方だ。


「神域の射手」ってなんだこれ?

俺達地球生まれのエルフは揃ってこれで、ステータスは9999で埋め尽くされていた。

あーはいはい。要はアトランザよりも下位互換の世界なのね? ここは。

どうやらチーレム無双が始まってしまいそうな予感に身を震わせた。

いまさら最強になったところで全然嬉しくないが、うちの顧客からの人気は出そうだ。

ヌルゲーのアトランザですら不満は出るもんな。

予約殺到と仕事の手間での武者振るいである。

とーちゃんも言ってたように、俺の能力は莫大な金を産む金の卵だった。


んで、取得した職業の固有能力は。

放出系の魔法と物理攻撃に超強力補正といったところ。

そもそも俺は弓とか使わんけど。

奥さんは、オーパーツ的なもので一応放出系だが、そういや木村の攻撃方法も知らなかった。


「木村って弓とか使うのか?」

「おい、さらっと俺を戦闘員に混ぜるな。俺の武器はこれ一本よ!」


カメラとマイクを掲げる木村。

そしてお姫様に直撃インタビューだ。

国にとって大当たりのジョブを引いたお気持ち表明をいただきにいった。こんな無礼千万な行為、いつもなら大臣なり騎士団長が止めてくれるが、今は絶賛サバイバル中である。


でも、こっちである程度の実力者でも上位互換のアトランザよりハードなストリームでやっていけるか甚だ疑問だった。

折を見てアトランザに移してやるか。今頃野生化したパンダに袋叩きにされてそうだ。

ストリームからアトランザに移っても、袋叩きにされる相手がパンダからコアラに変わるだけだがな!


「これは、一体なんでしょうか? わたくし忙しいので、突然そのようなことを言われても困りますわ。おほほほほ」


木村がどのタイミングでカメラを回していたか非常に気になるが、昨日から回してたんなら、きっと俺たちに対してぼろくそコメントで叩かれてそうだ。俺たち夫婦のメンタルはそんなに強くないのであえて見てないが、同接視聴者数は結構な人数を誇る木村。

今頃「この女、お高く止まり過ぎ」だのボロクソに叩かれてることだろう。

木村のところのリスナーは民度低いからな。

自分を棚に上げて叩くのが流行のようだ。それで飯食ってるこいつはいっつも炎上してるが。


「だめだ、あの姫さんガード硬いわ」

「でもあと一押しって感じだったよ〜?」


木村のコメントに、美玲さんが便乗する。

コメントは見るに堪えないが、彼女は基本ノリがいいからな。


「いや、あれはまだ心の拠り所が残ってるから、それを崩さなきゃだめだな。情報は集める。実行犯、あとは頼むぜ?」

「その今までお前の悪事の片棒を担いできたみたいな言い方はやめろ」

「事実じゃねーか、相棒!」


今朝まで不機嫌だったのに、自分の利になると思ったら手のひらを返すこいつはまぁ扱いやすいやつだよ。


ただな……当たりを引いたはずの勇者パーティーが、俺たちとのステータスの差を見てビビっていた。


向こうは高くても1500〜2000。LV1でだ。

同様にLV1で既に9999と上限突破してる俺たちを見てちょっと不安な顔。

心配すんなよ、お前達の獲物はとらねぇって。

どうせ俺たちは長居しないんだ。

そう伝えてやると、ようやく安堵の吐息をついた。


問題があるとすれば俺たちがいなくなってからの方だといつ気づくかな?

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