第47話 ハーレム勇者とモブ②

「と、言うわけでこいつが木村だ」

「どう言うわけで喚んだのか謎すぎるが、相手の意思を無視して喚び出せるというのは大体わかった」


俺が強制召喚で呼び出した木村を紹介すると、エイジが引き攣った笑みで俺たちの関係を指摘する。

それに続いてマイブラザーの木村までもが食ってかかってきた。


「おい、そこ二人。特に磯貝だよお前。なに勝手に人様のチャンネル乗っ取ってくるわけ? 収録中にこんな勝手な真似されても困るわけ」

「そんな……俺と木村の仲じゃないか。俺はさ、新しく招待いただいた異世界に、いの一番にお前を紹介してやろうと思って……いや、お前が全く見知らぬ世界よりも、手垢のつきまくった世界の方がいいんだって言うなら余計なことだったな。さっきの場所に戻すよ。リスナーのみんなもすまん! 俺の手違いだ」

「オーケーブラザー、概ね状況は理解したよ。俺のためを思ってだってんなら謝る事はない。俺の名前は木村。木村翔吾だ。よろしく頼むぜ。あ、これ名刺」

「あ、じゃあ俺も渡しとこ」


木村に続いて俺も名刺を手渡す。

お互いに高校生のノリで扱われると面倒な肩書きを持っているからな。


それを見てエイジが怪訝な表情を浮かべた。

人物と経歴が合致しない。そんな顔だ。


「そっちのウェーイ系はTotube? 聞かない配信サイトだが似たようなものがこっちにもあるのでそれでなんとかイメージできるが……アキラって実はすごいやつなのか?」


異世界トラベル代表取締兼社長、それが俺の持つ肩書きだ。

実際のところ俺が社長も従業員もこなしてて、事務員がとーちゃんで、経理がかーちゃんの家族経営だ。

取り扱ってる商品がワールドワイドなだけで、でかい会社でもなんでもない。

なんせ事務所が実家だしな。


「そうだぞ。だから俺に頼むより、こっちのURLから発注してくれた方が俺は動くと思ってくれていい」

「なるほど……って八ヶ月待ちと出たんだが!?」

「あっくんの転移サービスはワールドワイドだからね。なのでごめんなさーい」


そんなやりとりを経て、勘のいい幼馴染が気がついた。


「ちょっと待ってエイジ。ネット、通じるの? ここ異世界よね」

「あれ? そう言えば」

「そこで再び紹介しよう、この木村君。実はこいつ自体がWi-Fiの役割をこなしてるので俺の世界のネットワークが使えるのだ! もしかしてそっちのネットワークにも介入できるかもと思って喚んだんだが迷惑だった?」

「ああ、いや。すごい助かるよ。え、普通に有能じゃない?」

「でもWi-Fiだけじゃバッテリーは持たないわよ?」

「そこでご紹介しますは我が嫁、美玲さん。彼女がいればたちまちバッテリー切れを起こしそうなスマホもフルゲージ!」

「むふん! 褒めていいよ!」

「わっ、ほんとだ! いつのまにか100%」

「え、すごくない?」

「これなら私達無理に前の世界戻る必要ないわね!」


さもありなん。やはり帰りたい理由はそこか。

娯楽の少ない異世界で、スマホに生活の半分預けてるやつはだいたいそこに行き着くよな。

勇者? 最強の能力? 権力?

リア充には魅力薄なんだよそこら辺。


「改めて歓迎するわ、お二人ともよくきてくれました」

「紹介のされ方が雑だったのはさておき、ここはなんの能力が得られるんだ?」


食い気味の木村に、俺は木村の肩に手を回して背中をぽんぽんと叩いた。


「それを今から検証するんだよ。お前そういうの好きだろ? お前の配信で人気が出たら俺の会社も儲かる。そんで俺がまたどこかの世界に拉致られた時、次にまたお前を呼ぶ。お互いWin-Winな訳だ。分かるな?」

「お前はそういう奴だったよ。まぁ、こっちでも問題なくネットが通じたので俺は言う事ないけどな」

「そうそう、並行世界の地球だって話だ。もし連れてってくれたなら俺たちとは違う未来の地球が観れるかもしれないぜ? 地球に帰りたいリスナーとかも居るかもだろ?」

「いやー、どうかな? 今を楽しんでる勢は思ってるよりも多いぜ? まぁ需要のあるなしは俺が決める事じゃないさ。ワンチャン、知らないゲームが出てくるかもって期待はしとく」

「つーわけでエイジも検証よろしくな? きっとこの国は人間以外を勇者様と認めない風潮だ。俺たちはそこらへんで野宿してるから、たまに顔合わせしようぜ。話したくなったら勝手に呼ぶから」

「なんて迷惑な奴なんだ。まぁ、助けてくれるだけありがたい」

「ちなみにこの世界にいるうちは頼ってもいいけど、俺も木村も嫁の美玲もずっとはこの世界に居ないからそこを気をつけてくれ」

「ん?」


俺の言葉に疑問を抱くエイジ。

あ、もしかして。こっちの言葉を拡大解釈してるっぽいな?

一度や二度は助けるが、それが永続的につながると思い込んでいるらしい。困るんだよなー、そういう解釈は。


「助ける、とは言ったが。今は暇だから助けるけど、暇じゃなくなったら当然手を差し伸べる事はできなくなるわけだ」

「ああ」

「そんで俺は数多の異世界を股にかけて大勢の人員を転移させる事業に関わっている」

「素晴らしい仕事だと思うよ、でも俺たちの方を優先してくれるんだよな?」

「いや、普通にお仕事優先するに決まってるじゃん。俺社長よ?」

「そうだけど……」

「でも多分木村は謎が解けるまで居てくれると思うぜ?」


ネットが使えると知って満足する一同。

しかし不安要素はまだある。

バッテリーの件だ。

今回は特別に美玲がフルチャージにしてくれた。

でもそれが切れたら?


そんなお悩みを解決すべく木村が動き出す。

それが魔石バッテリーチャージャー。

マナ、又はMPを消費して電力に変換する。地球エルフの新技術だ。


「美玲ちゃんも主婦業の合間にこっち気にしてくれると思うから、それまではこれで間に合わせてくれ。あ、こっち魔法は使える系?」

「まだ能力の開示もされてないから教えてくれるのは明日以降だな。あと美玲は最近アルバイトを始めた。下野んとこだ」

「あー、じゃあ当分はこれで間に合わせるしかないな。ほんとこいついい奥さんもらって羨ましい限りだぜ!」

「妬くな妬くな。お前の人力Wi-Fiだって絶対人気出るのに、どうしていまだに独身なのか未だに分からん」

「俺はこの喋りで距離取られちまってるからなー」

「人気取りが仇になったのか……まぁドンマイ。100年後には理解者が生まれてくるって!」

「今世は諦めろって慰めは懲り懲りだ!」


俺以外にも言われたことがあるのか、木村の嘆きは堂に入っていた。


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