第40話 アトランザ旅行②

新婚生活二週間目。

いい加減に学校に戻って勉強すべきじゃね? 

と、ふと思い出した俺だが、とっくに人間社会は崩壊し、今じゃスキルの有無でダンジョン攻略をやれる奴が偉いみたいな風潮が罷り通っている。


正直こうやって純粋なファンタジー世界で息抜きしてなきゃやってられないくらいだ。


って言うか全員エルフ化した時点で高校とか言ってどうするの? 

みたいな状況。

寿命が短いからこそ、子供の時にどんな教育を受けてきたかで今後の人生が変わるのだが、なまじ寿命が1000年規模になってくると話が変わってくるわけで。


「美玲、そういえば今学校ってどうなってんだろ? 高2の二学期から地球からクラセリアに引っ越してから激動の数ヶ月だったけど、いまだに高校生活やってる人達って居るのかな?」

「気になるの?」

「気になるっていうか、俺達は適応したけど。適応できなかった子たちはどうしてるんだろと思って」

「エルフ化した時点で色々変わったこともあるからね。あー赤ちゃん、赤城参さんとか大学に進学したらしいよ?」

「待て……俺たち今高3だったよな? どうして大学なんて話が出てくるんだ?」

「うん、あの子頭いいから飛び級でって話だよ」

「へえ、なんて大学?」

「私立エルフ学院」

「なんて?」


予想の斜め上のフレーズが出てきた。

なんか嫌な予感するけどその私立、エルフ幼稚園とかエルフ小学校、エルフ中学校とかありそうだな。

エルフになってまだ半年しか経ってねーのに適応率高すぎんだろ。


まぁ新しい環境で生きていくって意味ではいいのか?

よくわからんけど、いいことにしよう。

美玲のベッドに潜って昨晩の続きをしようとしたら手を払われた。

どうやら今はダメらしい。


「あっくん、そろそろお金稼がないと宿代もなくなるよ? 続きはお金を稼いでからにしよ。ね?」

「え、もうそんな時間たった? 体感3日くらいだけど」


ちなみに宿を借りた時、10日間の借り入れで支払い済みである。

だがあまり多くの資金を持たずにきたので、冒険者での稼ぎ以外は美玲の歌で日銭を稼いでいた。俺は魔石とかの補充を美玲に任せて、それを売り捌くことで生計を立てている。

ちなみに大量に捌き過ぎて値崩れを起こしてしまったのは言うに及ばず、今では捨て値で取り扱われている。

完全に需要を供給が上回ってしまったのである。


「ちなみに残りのお金は銅貨二枚です」

「明日の宿代もない!?」


宿代は一泊銅貨五枚。なお二人で泊まれば一泊10枚求められる。


「長くダラダラし過ぎたね? あたしももっとのんびりしておきたいところだけど、いい加減体を起こそうよ。ね?」

「お、おう」


エルフになってから特に時間の感覚が曖昧になっている。

長寿による影響なのか、一日の経過が早い早い。


「あら、アークさんにミレーさん。随分とお久しぶりですね?」


開口一番受付のお姉さんから皮肉が飛んでくる。

アークは俺。ミレーは美玲。

どっちも偽名だけど、異世界用の名前だ。

木村とか岡戸も違う名前を持っている。


「何も会うたびにそんな言わんでもいいじゃんよ。それで、俺たちでも可能なクエストとかある?」

「そうですねー、北の大陸から大量の移民がこちらに受け入れを求めてるというお話はご存知ですか?」

「知らん。というか、これ商人の俺に有用な情報か?」

「もう一つの職業に対するクエストです」

「そっちか。そっちの仕事は特に引き受けてないんだよなぁ、俺たちは宿代が稼げればいいわけだよ。お分かり?」

「そういうと思ってました。ですができる人に話を通しておくのもお仕事ですので」

「またぞろ俺たちに厄介ごとを解決させるつもりだろう? そうは問屋が卸さんからな?」

「また訳の分からない慣用句を。エルフのジョークは我々人類には高尚過ぎます」


ギルドに来る度、こんな対応。

ちなみに俺のスキルの転移はバレてるので、たまにこんな無茶振りがされる。なんせ採取クエストや討伐クエストに転移を使っているからな。直接俺専用の納品場所に送るので、ギルド側もそれで対応していた。


今日のクエストは増え過ぎたモンスターの駆除である。

当然、例の移民問題も関わっているのだろう。

何によって追われることになったのか?

モンスターの生態系が乱れたこととも関係がありそうなんだよなぁ。


「はい、おしまいっと。あっくん、解体お願い」

「オッケー」


解体も何も転移先に皮、骨、肉、魔核みたいに分けて送り届けるだけである。シュレッダーのように手で触れるだけで新鮮なモンスターの素材がギルドに送られた。


「こんなところかな?」

「相変わらず魔法みたいな手際で狩っていくねぇ、お二人さん」

「よ! グエイサー。あんたらもこのクエストを?」

「ギルド側からどうしてもってな。何やら裏がありそうだが、あんたら何か知らんか?」


グエイサー。トカゲの鱗を持つ半獣の種族。

ハーフリザードマンで、人の骨格にトカゲの肌を持つ、アトランザ特有の亜人だ。

エルフにも種類があって、エルダーエルフやハイエルフ、ハーフエルフ、ダークエルフなど多岐にわたる。

俺たちはなぜか一般のエルフより魔力が大きいことからエルダーエルフ扱いされてる。


一般のエルフよりも長寿で、時間の概念も違うことからエルダーエルフとはパーティを組みにくいとは専らの噂。

まぁ冒頭からあんなジョークが飛んでくるくらいには怠け者という印象を受けてるよ。


いざ仕事をし始めると高い魔力で敵を一網打尽にするのだが、同時に浪費家でもあるのでエルダーエルフ同士以外での結婚は推奨されてないらしい。


それでもうちの美玲は綺麗だからよく声をかけられるんだよな。

そんなに俺が夫っぽくないか?

くそぅ、今すぐにワイルドさが欲しい! グエイサーのような荒々しさがあれば俺だって!


「なんでも北側から移民が受け入れて欲しいらしいぞ? 今回の件と関係があるかは知らんが。なんの因果もなしにこのクエストを進めてくるとも思えんしなぁ?」

「移民だぁ? 北って帝国領だろ? どうしてウチに流れてくる?」


グエイサーがそのような疑問を浮かべるのも確かだ。

今俺たちが世話になってる大陸は、半年前に持ってきたオーストラリアの一部。

規模だけやたら広くて、土地は余ってるから移民受け入れには好条件に思われてるらしい。

実際はオーストラリアの人たちが暮らしてるし、野生化したカンガルーやコアラがレアモンスター化してSランクモンスターとして君臨してるので軍事国家だろうとやっていけるか怪しい魔境と化している。


当然グエイサーもSランク直前のAランクで、Cランクの癖に当たり前のようにこの街で暮らしてクエストを受けてる俺たちの方がおかしいのだ。

しかしギルドから認められてることから、真の実力を隠してるともっぱらの噂だ。


要らん要らん、そんな噂。

俺たちは新婚旅行が適度にできればいいんだよ。

世界の命運をかけた戦いはよそでやってくれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る