第37話 全日本人エルフ化計画

「あっくん、ユーラシア大陸の皆さんにオーパーツ配ってきたよー」

「ありがとう美玲。エネルギーが切れたらウチのとーちゃんの名刺に書いてるURLに連絡くれたら補填しに行くことも伝えた?」

「それがあんまりよく分かってなかったみたいで、もらえるもんはもらうって感じだったんだよね」

「なんじゃそら」


アフリカ・ユーラシア大陸。

地球上で最も最大規模の大陸塊であり、人口規模も最大。

アフリカ大陸とユーラシア大陸は分けて考えらるが、海峡によって隔てられてるだけで地続きである説が流れている。

大陸ごと転移では、どうもユーラシアの一部としてアフリカ大陸まで来ちゃったみたいだ。


一応入手可能なオーパーツの見本と取扱説明書、現地人との交流は不可能である事をそれぞれの言語で翻訳して渡してある。

とーちゃんの『マネジメント』がよもやこんな場所で役に立つなんてね。翻訳も可能とかますます有能さに磨きかかってない?

えっ元から優秀だったって?

ほんとぉ?

家でくつろぐ父親の姿はどこのご家庭でも見られるダメ親父そのもので、なんだったら妹か弟ができる気配を匂わせつつも、できないまま現在に至るオシドリ夫婦だ。


ちなみに地球にはそれぞれの地域にもともとあった大陸を置き換えてある。変に野生化してないといいけどな。

ワンチャン、あの白い塔をなんとかしてくれたらラッキーくらいには思っとくか。


そしてアメリカ大陸、北アメリカ大陸に日本やユーラシア大陸の状況がニュースで放映される。

それはアフリカ大陸にとって日常的に見られる光景だった。


──まーた戦争してるよ、あの国

──相手どこ?

──よく分からない部族

──何それ?

──て言うかアフリカ軍もよく分からない武器使ってない?

──宗教戦争?

──かもね


話題に登るのはだいたいこの程度。

日常的に宗教の違いで諍いを起こす国が、異世界でも同じ事をしている程度の認識。

実際に違うのは己の生活圏を死守する為の戦いだ。


凄惨極まる日本との違いは、まだそう思わせる。

ところ変わって日本は異世界と繋がった事で生活空間がまるっと変わった。


クラセリアに押し付けたダンジョンの一部(攻略済み)を持ってきて、小説によくあるダンジョン時代が幕を開けた。


人々は対モンスター兵器を開発し、女子供も交えて情報の交換をし合う。

手に入れたスキルによっては、配属先が変わり、直接戦闘を行うのはエリート部隊だった。


ちなみに俺は割とエリートの方に食い込んでる。

ただ人間ではないので協力者という形でだ。

地球人換算されないのは悲しいことだが、まぁ人の意識なんてその時々で変わるしな。


「あっくん、地球上の大陸を転移させ終えたらどうする?」

「地球が住めるようになれば、また転移かなぁ?」

「いつになるんだろうね?」

「分からんけど、俺たちが生きてる間にはやっておきたいよな。まぁ長寿なわけなんですが」

「それって、年取ってまであの人たちに付き合うって意味?」

「忘れてなければ、かな? なんの理由でこの地に住むことになったのか、教育者の腕の見せ所だ」

「もう、すっかり他人事じゃない」

「正直、美玲の負担を考えると地球に帰るのを忘れてほしいとさえ思う時もあるよ」

「うん、でも……」


美玲のスキルは常に肉体の内側から溢れてるのだ。

ただ生活しているだけで魔石が補填され、電力問題も解決。

政府からは毎日のように感謝の言葉が送られてくる。


逆に言えば美玲をモノとして扱ってるようで気に食わない。

今後とも我々をお助けください。みたいに言ってるが、頼り切る気満々だ。

地球から持ってきた電力開発施設がまるで役に立たないからな。

科学技術と魔法技術の相入れなさ。

これが日本の技術衰退を招いていた。

なので美玲の『補填』を利用してるのだ。


親御さんも、そのことに鼻を高くしているようだ。

「あの役立たずがようやく人様の役に立ったぞ」と、そう触れ回っている。

それを聞いた時、俺は我慢の限界を迎えそうになっていた。

あんな人達でも美玲の家族だからと黙って見ていた。


俺が守っていればいいと、そう思っていたけど変わらないんだ、あの人達は。だから俺は行動に出ることにした。


「よし、美玲、今度おばさん達を呼んでバーベキューするぞ」

「え、あの人達と? でも毎日毎日忙しいって家にいないよ?」

「何が忙しいんだ?」

「お父さんとお母さん、病院関係者だから。毎日怪我人や体調不良の人を見て回ってるの」


そうやって聞くと世の為人の為っぽく聞こえるのに、実の娘にしている事がネグレクトなのがその家庭の闇を見せている。


「お姉ちゃんもこの星の成り立ちについて研究してるから忙しいって」

「理由つけて呼び込めないか?」

「無理だと思う」

「じゃあ、やり方を変えるしかないか」

「悪い顔してる……何をする気なの?」

「なーに、いい事をするだけさ」


シャリッと千年樹の果実を齧り、それを咀嚼する。

一口食べればエルフ化し、二口食べれば持ってるスキルを超強化。

三口以上は寿命の延長。


「日本人にエルフになってもらう。ダンジョンの報酬に千年樹の実を加えるぞ!」


今現在、ダンジョンの運営は俺の学校の事業になりつつある。

そもそもダンジョンそのものが凶悪で、人を殺すのに特化している為、人々に解放するのに悉く向かないのだ。


しかしエルフ化したスキル持ちなら話が別で。

ダンジョンのエキスパートである探索者はエルフ化する事を受け入れた。

次にダンジョン関係者も魔法を巧みに操れるならとそれを口にし、日本中にエルフが増えていく。


やがて人口の80%をエルフが締める頃になると、まだ人間である人たちを「かわいそう」だなんて揶揄されるようになっていく。

出遅れた人間、権力にしがみつく人。そう蔑まれた。


それでも己を高潔な種族だと開き直る人が多いのもまた事実。

特に権力者ほどその傾向がある。


弱者のほとんどは環境を乗り越えるために人を捨てることに躊躇わなかった。

その結果、日本はエルフの里としてクラセリア内で有名になっていく。


原住民のエルフとは違って独特の思想を持つ我々は、地球エルフと名乗るようになった。

なお、特産物はアニメや玩具など、変にこだわった商品が国で受けているらしい。


種族が変わっても日本人の気質までは変わらなかったようだ。

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