第36話 地球滅亡

それは突然現れた。

白い、天まで届く塔が世界中に。

当然ニュースになって連日その存在について語られる。


これがダンジョンと明確に違うのは異世界送りにしてもいつのまにか増え続けるという点だった。


そして特に何も被害がないという点。

ダンジョンの時とは大きく異なる。


ただ、その塔は実態がないのか手で触れてもすり抜けてしまう。

特に実害がないのなら、と無視をしたのがそもそもの間違いだと気がつくのが人間の悪いところかもしれない。


目に見えないところで着実に地球に対して被害が起きていた。


それは地面の奥深く、その塔の出現と同時に奪われ続けているものがある。熱源。マントルが少しづつ抜き取られていた。

暑さに苦しむ地球人は最初こそ「涼しくなった? 白い塔のおかげかな?」だなんて場違いな発想に至った。


しかしそれが度を超えて寒くなり出してから焦りだす。

9月中旬。本来なら残暑によって暖かさが残る地球は、熱源を奪われ続けることで真冬より寒くなっていた。


気温-10°


明らかにおかしい。今からこれでは今後生活に支障が出る。

冬になった時いったいどれほどの寒さになるのか想像もできない。


人々は異世界に拠点を置き換え始めた俺たちに一枚噛ませてくれと願い出た。

地球を捨てる、とも言えるような発言だ。

打開策の見込めぬ今のところは、と言っているが、新しい生活区域の提供という呼びかけだった。


とは言え、地球の人口がいっせいにお引越ししたら流石に異世界も受け入れてくれないのではないか?

国はあり、生活区域はあっても難民には頭を抱えている。


いっそエルフにでもなる?

エルフなら割とこの寒い環境でも平気だぜ?

そんな提案をしたら「ふざけないでいただきたい」とマジトーンで返された。


ふざけてるように聞こえたのかな?

生き延びるために“人類”である事を捨てるのが我慢ならないみたいな見解。

いや、種の存続という意味ではなんも間違っちゃいないけど。

なんだったら異世界から熱源を持ってくるか?


そう思ってもあの塔によって奪われるかもしれないと考えればやるだけ無駄だろう。


ちなみにお偉いさんからの提案は地球と同じくらい生活できる環境の提供だ。

そんな場所ねーよと突き返してやったら「多少の害的存在も認める」と焦り出したので、スキルが獲得できる惑星クラセリアを紹介してやった。


とはいえ、一度に大勢持っていけない(持っていけるけど難民=奴隷扱いされる未来が見える)ので地域規模での出立とさせてもらう。


木村がいる限りは地球と同じようにネット環境が使えるが、他の惑星に興味を示して転移すると途端に文明レベルが落ちることに目を瞑れば、と注釈がつく。


それでも生活させてもらえればなんでもいいとなりふり構ってられない態度でこられたので。まずは日本列島ごと『異世界クラセリア(スキル獲得)』に組み込んだ。


新しく現れた列島に現地人は困惑するが、すぐにモンスターが現れないのならば適応して見せると人々は頑張りを見せた。


しかしそれは長く続かず、日本列島ごとやってきたものだからモンスターが現れない限りは普段通り過ごしてしまった。


それを見過ごすモンスター達ではない。

新しい獲物がやってきたといろめき立つ。

最初にやってきたのは有翼種。

空を飛ぶことに長けたモンスターだ。


その中でも最大級のワイバーンが「なんや見慣れん場所がある、いっちょ唾つけておくか」くらいの認識で襲撃。

たちまちニュースとして報道された。


そのニュースが取り残された地球へも流れる。

それこそが異世界の日常。そんな化け物がいる場所だなんて聞いてないぞと焦り出したのは、次に大陸ごと飛ぶことが決定していたユーラシア大陸の人々だった。


彼らの飛ばす場所は『クラセリア(スキル獲得)』じゃなく『ストリーム(古代文明)』なんだが。


あの規模の大陸を召喚させても受け入れてくれる惑星って超サバイバル環境で島々が無人なストリームぐらいしかないんだよね。

それでもモンゴルとかロシアとか戦うのが大好きな人たちがたくさんいるから、大丈夫かなって。


非戦闘員はクラセリアに派遣してもいいが、それでも受け入れ体制次第では奴隷落ち待ったなしなので注意して欲しいところ。

日常=安全じゃねーもん、ここ。


じゃあ大陸ごと飛ばすなって?

あの白い塔をなんとかするために来てる事を忘れちゃダメだぜ?

ここで武器を入手して、あの塔を撤去する。それぐらいの気概を持ってくれなきゃ。


今現在俺の力に頼りきりで、その後もなんとかしてくれって言われたら「切る」自信しかない。

正直、俺も政府からの要請を切っても良かったんだ。


一応この歳まで育ててもらった恩もあるから要請を飲んだだけで、種の存続と言う「ワガママ」を通すなら切る。

そう言えば向こうも押し黙った。


まさか自分たちの願いが「ワガママ」と切って捨てられるとは思いもしなかったのだろう。

日々熱を奪われ続ける地球。そうなったのも自分たちは大丈夫だろうと言う慢心からできている。


自分たちは被害者だと思ってる限り、奪われ続けるだけだぜ?

被害者だからこそ、祈るより先に行動しないとな。


生活空間を切り開いてきたのは“今よりいい暮らしがしたいと言う”人の知恵だ。今生き延びられても、地球に帰った時に生き延びられなければ意味がないと俺は考えている。


その為の能力確保。その為の種の存続。

そこを履き違えてくれるなよ?


それだけを吐き捨て、ユーラシア大陸を惑星ストリームへ転移させた。

たまに様子を見に行くから、頑張って生き延びてくださいね。


でもこっちの環境、アメリカの人とか好きそうだよな、とぼんやり思った。

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