第38話 地球エルフの生き様

「ゲーム的要素だぁ?」


俺が思わず唸りをあげたのは、すっかりエルフの里になった日本で、異世界クラセリアに日本の特産物であるアニメ、ゲームの要素を加味した遊びを広めたいというモノだった。


電化製品が使えぬ昨今。

代わりにレグゼルの魔導具技術を魔改造し、そこに日本特有の技術を載せて世界、クラセリアに発信しようという試みを聞かされたのである。


地球エルフの野心は、異世界であろうと変わらぬ姿勢で取り組むようだ。まぁ別に好きにすればいいんじゃない?

それで態度を改めるとは思えないけど、ダメ元でやればいいと思う。

そもそも外交とかお偉いさんのお仕事だしね?


ちなみに美玲のご家族は今ではすっかり家族大好きになった。

一番先にエルフ化したのもあり、その溢れんばかりのマナ量に恐れ慄いている。


地球にいた頃の学歴が消え去った現在において、魔法技術の発展。それに伴うマナ保有者の歴史舞台への台登が記憶に新しい。

人げだった頃はちっぽけなプライドにしがみついていたけど、エルフになってからは溢れるマナの全能感に浸れてなんて狭い世界にしがみついていたんだと心を入れ替えてくれたよ。


そしてマナ至上主義になった途端美玲への態度を改めた。

本当に今更遅いし、もっと労ってもらいたい限りだが結婚の許可をもらえたのが大きな前身だと思う。


俺たちも18歳。

日本が異世界クラセリアに引っ越して半年が過ぎ去ろうとしている。

大ダンジョン時代もすっかり日常になり、魔道具を扱う探索者も日常的に見るようになった。


そして俺たちの立ち上げた会社も世界に認められ始めている。

もうここいらで子供を作ってもいいんじゃないだろうか?


俺の転移や、美玲の補填は家にいながらできる作業になりつつある。

ある意味で俺じゃなきゃ、世界的に求められてる美玲のスキルを十全に取り扱うことができないほどだ。


だからなのか?

自身のスキルの危険性についてわかっていたから俺に近づいた?

いや、そもそも俺の力だって取扱注意の類。

それこそ世界中から求められてる。


俺の力を欲しようと世界中から嫁を名乗る少女が送り込まれてきた。

俺のスキル、その後に過ごす余生しか見えてない存在がひしめき合った。


そんな中、美玲だけは俺を『転移スキル持ち』以外の磯貝章として見てくれる。

俺も、彼女が愛おしい。彼女のスキルなんて二の次で、彼女のことをもっと知りたいと思った。


そこから先のことはよく覚えておらず、ベッドについたシミから一線を超えた事だけが後からやってくる。

すぐ隣ではすやすやと眠る彼女、美玲の姿があった。


俺が守ってやるべき存在だ。

男はよくハーレムを求めたがるけど、それってただの浮気性なのではないかと思うのだ。


結婚は人生の墓場だなんてよく揶揄されてるが、うちの両親はそんな気配を見せないし、それを間近で見てきた俺だからこそ、その考え方はほんの一部の人間の戯言ではないかと思っている。


「んっ、ふあー。おはようあっくん、早起きさんだね?」


寝起きの美玲が俺を見ながら微笑んだ。


「ん、おはよ」

「あれ、もしかして緊張してる?」

「そ、そんなことないぞ?」

「えー、顔赤いよ? もしかして昨日の事、後悔してる?」


その顔は非常にずるい。

俺の我慢が限界を迎えそうだ。


「ごめんごめん、嘘だよ。あっくんには感謝してるんだ。お父さんやお母さん、お姉ちゃんとも仲良くやれてるのはあっくんがそばにいてくれてたからだもん」

「俺は……美玲が居てくれたらそれだけでもよかった。けど、それは美玲の気持ちを無視してるって思ったからな」

「うん、そういう心配りができるのは、あたしを大切に思ってくれてるからだよね? だからあたしも許したんだよ?」


何を? ナニをだ。言わせんな恥ずかしい。

正直今でも気持ち良かったぐらいしか思い出せない。

夢現から抜け出せないでいる。


「また、元気になってるね。どうする?」


続きをするか? そんな提案に、俺は頭を下げてお願いしていた。

これから夫になろうという男が、妻に対してしっかり尻に敷かれてしまっている。


「あはは、あっくんてばもっとしっかりしてよー」

「そんな急に言われたって俺は俺だぜ?」


変わりようがない、変えられようもない。

そんな俺を好きになってくれた相手に変えてしまうのは裏切りのように思えてならなくて。


「そんなあっくんが好きなの。だから無理して変わらなくていいからね?」


そんな言葉に抱かれて、やっぱり俺が叶わないと思った。

二度目の行為の後は妙に晴れやかな気分だった。


シャワーを浴びに風呂場に行けば、キッチンからかーちゃんが出てきて「昨晩はお楽しみでしたね」なんて茶化す。


「やめろよ、その言い方」

「でも、美玲ちゃんも喜んでたし、及第点をあげましょうかね」

「とーちゃんは?」


そういえば昨日から見てないな。

居たらかーちゃんと一緒になって揶揄ってくるに違いないのに。


「あの人は仕事で外に出て貰ってるわ」

「いや、別に外行かなくたってできる仕事じゃん」


そう言ったら肘で突かれた。

強烈な一撃で廊下の壁に叩きつけられそうになる。


「痛って! なにすんだよかーちゃん」

「あんまり詮索しないの。息子が男になろうって時に親が家にいたら色々決心が鈍るでしょ?」

「母親は居てもいいのかよ?」

「お母さんだって今帰ってきたところよ。ただね、ここら辺の住宅って結構間取りが狭いじゃない? お隣さんのお部屋まで聞こえてきた時点でお察しよ。ずいぶんお盛んなのねなんて言われて冷や汗しかかかなかったわよ」

「ちょ、ストーップ! それ、近所で言いふらしたりしてないよな?」

「さぁどうかしら? お母さんの口は硬いけど、ご近所さんはそういうゴシップに飢えてるから?」


最早誰の耳に入ってるかわからないと、そう諭された。

行為に耽る以上に汗かいたじゃねーか。

俺はサッとシャワーを浴びて美玲と交代し、すぐに着替えて別の世界に飛んだ。


飛んだところで噂が収まることはないが、心の安全だけは買えるので転移にはこれからも世話になると思う。


「どうしたの、あっくん。急に飛び出して」

「いや、ちょっと。ご近所さんの噂のタネにされそうな情報を小耳に挟んでさ。なので安全地帯でやり過ごすべくこっちにきた感じだ」

「あたしを守ってくれたんだ?」

「そうとも言う」

「でもあたしは噂されても全然平気だったよ? あっくんは嫌だった?」


それは……そこまで嫌じゃない。

ただし下世話な話に美玲が晒されるのが嫌と言うか、そう言う目ってわかるじゃん? 俺だけの美玲で居てほしいって言うか……何言わせるんだよ。


「そこまででもない」

「だよね? むしろラブラブっぷりを世間に見せつけちゃおうよ?」

「美玲はその……いいのか? 変な噂たっても」

「あっくんが守ってくれるって信じてるからね」


その返しに俺はノックダウン。

男としての不甲斐なさを痛感した俺は、開き直って実家に戻ることにした。

まぁ、あれだ。気持ち一つで些細な噂も気にならなくなるってやつだな。


俺の愛した女性は俺よりも強かにご近所さんに適応して見せたわけである。男の俺が負けられないよなぁ?

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