ジョブ世界で商人やってます!

第39話 アトランザ旅行①

美玲と一線を超えてから、今まで見えていた気になっていたものが幻で、見逃していたものが明確に形を持って襲ってきた。

突然立っている足元が不安定になり、誰も信用ができなくなる。


それは今まで自分さえ守っていれば良いと言う安心感に、もう一人守る対象が増えたと言う責任感だ。


守る対象の存在が大きくなればなるほど、あの時他人事で対応した岡戸への申し訳なさが溢れ出る。


あいつの失った一週間には、あいつの青春の全てが詰まっていた。

愛する人と一線を越え、それを奪われ、傀儡として過ごした。

どんな濃厚な時間だったんだろう?


あまり深く考えなかったけど、その人相の変わり具合からもう少し労ってやればよかったと思っている。


「美玲、もし俺が岡戸と同じように誰かに操られたら……」

「それ以上はやめて」

「……悪い」

「ううん、そういう場合もある。最悪の事態を考えておくのは大事だよ。もし立場が逆だったら、あっくんだったらあたしを絶対に助けてくれるってわかってるもん。だからあたしはそんな可能性の話なんてしないもん」

「そっか」

「それにね、あっくんももう少しあたしを信じてくれてもいいんだよ? いつまでも弱いままのあたしじゃないもん」

「そうだな。つい俺が守んなきゃって気持ちばかりが強くなってた。悪い、ステータス上では美玲の方が強いもんな?」

「そうだよ、ドンと任せて!」


以前木村が飛ばされたあたりの異世界。

ステータスが与えられ、職業の有無で優劣が決まる世界アトランザ。

そこで俺たちは新婚旅行をしてきた。


襲いくるモンスターをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

たまに転移でズルして冒険者の真似事なんかもした。

それでもCランクくらいが丁度良くて、周囲からもバカップルエルフだなんて揶揄われた。


ステータスには成長限界がある。

そこにまつわるのが素質だ。

素質がFだと100が上限。

F=100

E =150

D=200

C=250

B=300

A=350

S=400

ひとつ繰り上がるごとに50ptづつ増えていき

FとSでは能力に300ptの差が出る。


その差は職業によって覚えるスキルの明確な差が出るので、まず第一に職業、次に素質が選ばれる。


優秀な職業に就いても、素質が低いというだけで冒険者をやらざるを得ない人もいたりと、割と過酷な世界だが、もっと過酷な世界を見てきている俺たちにとって理想郷のようなゆるさだった。


なんせ俺たちにはスキルがある。

ジョブやジョブスキルに頼らずとも生きていけるのだ。

まぁ世界を渡れる時点でここにこだわる必要性は皆無だ。

なので


アキラ・イソガイ

職業:商人

LV18

STR:B INT:A

VIT:C  MEN:B

DEX:S LUC:S

ジョブスキル:交渉Ⅶ、値切りⅢ

スキル:転移


ミレイ・イソガイ

職業:吟遊詩人

LV20

STR:B INT:S

VIT:C  MEN:S

DEX:S LUC:S

ジョブスキル:演奏Ⅱ、歌唱Ⅴ

スキル:補填


STRは筋力。敵を攻撃する時、敵から攻撃を受けた時に拮抗する力に影響を及ぼす。VITが高ければそもそもダメージを受けないが、服は無事では済まないので押し返す力が必要だ。そういう時はSTRに振るといいと聞いた。


VITは耐久。ゲーム的に言えば防御力に影響する。

HPなんかは無いが、VIT上げとけばモンスターの攻撃が痛くなくなると言うことから冒険者をするならVITの適正C以上が生命線になってるという話は聞いたな。


INTは知力。この世界においてのマナと、それを扱う資質だ。

エルフの時点で無条件でA。美玲は補填の関係でSになったようだ。


MENは精神。メンタルだな。ひどい言葉を言われた時にショックを受ける体制を挙げる。落ち込みやすい俺ですらB、Sの彼女はどれほど強メンタルなのだろう?


DEXは器用さと敏捷を兼ね備える。要は瞬発力だな。

射的などの命中率、攻撃された時の回避力に影響を与える。

二人して逃げ足が速いのでこれは問題ない。

俺がSなのはわかるが、美玲がSなのは魔導具がそっちに特化してるからだ。


LUCは幸運。何かを発見したり、攻撃された時ニ致命傷を防ぐ。

同時にクリティカルを誘発し、会心の一撃を与えたりする。

俺の幸運がSなのは美玲に出会えたことで全部消費されちまった。

向こうもそう守ってくれてたらいいけど、笑って誤魔化しそうだな。


そんなこんなで俺たち夫婦の職業はどちらかと言えばハズレに該当するので今日も今日とて日銭稼ぎ。

本当は日銭なんて稼がなくても暮らしていけるが、要は思い出作りだ。

なまじ長寿なんて得てしまったせいで、どの時代のどんな事に懐かしさを覚えるなんて事になりかねない。


ぼーっとしてるだけで一年が経過していたなんてままあるので、節度を持って行動しようと心がけている。


「お捻りありがとうございます!」

「最高だった。まだこの街にはいるかい?」

「そうですね、流れてきたばかりですからいますよ。ね、あなた?」

「おう」

「夫婦だったのか! てっきり兄弟かと思ったぜ!」

「よく言われるんですよ〜。ね、あなた?」

「そうだぞ。俺の奥さん取ったらバチが当たるからな?」

「そんな事しないって。悪い、さっきの話は聞かなかったことにしてくれ」


どうやら普通にナンパの類だったようだ。

エルフの吟遊詩人なんて珍しくないのか、それともそういう狙いでしてるもんだと思ってるのか? どうも良く声をかけられる。


ちなみにバチとはダンジョン送りにする事である。

ある日突然自分の体が右も左も分からない所に置かれる恐怖。


もちろんすぐに帰すが、俺はしつこいので毎晩やる。

怒りのままに制裁を加えるのだ。

今まで美玲に色目を使ってきた男たちにやってきたが効果は覿面だった。

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