第86話 中ボスエリアに人を入れたい

 ダンジョンでのレベルを上げていくうち、魔法生物のゴーレムなどの製作図なるものを入手した。

 本来ダンジョンポイントを貯めて消費する事でその知識を増やしていく我々ダンジョンマスターだが、俺はモンスターの都合を転移で簡易的に解放して出口も入口も作らずに都合をつけてしまうのでこれらに頼ることがなかったのだ。


 他のダンジョンマスター曰く、簡単な作業をさせる駒使いみたいな役割なのだとか。

 しかし俺はそれすら自前。


 自前というよりは“カウンター転移”の設定で終わってしまうので頼らずにきてしまった。

 そして触ったら触ったで無限の可能性があることに気がついてしまったのだ。


 例えば単純作業を繰り返す。

 これは何もかも転移につなげてしまう“カウンター転移”の下位互換だ。

 しかし転移しない分あらゆることができてしまう。

 こいつは特定のコアを用意すればあとは放っておいても勝手に動くし、皆さんに迷惑をかけない。


「と、いうわけで中ボスのゴーレムを作った」

「突然言われてもわからないよ、あっくん」

「では説明も兼ねて用途の披露をしようと思う。あ、名前はネール君な?」

「ネール君……爪?」

「ネイル、ではないぞ? まぁ本来の用途とネーミングに全く意味はない。直感的なニュアンスでつけたので名前の意味を問われたら困るな。うちのあーちゃんだってそうだろう?」

「あーちゃんは略称で、正式名称は亜音あのんちゃんだよ? 男の子だったら章人あきと

「なるほど」


 美玲さんのネーム談義を軽く聞き流しつつ、俺はネール君の紹介に取り掛かった。

 場所はダンジョンの炭鉱エリア。

 採掘などが主流で、ここも“カウンター転移”での採掘が主流になっている。


「ではネール君、お前の力を見せてやれ」

「グォ!」


 ゴーレムの巨軀を使った両腕からのたたき潰し攻撃。

 けれで着弾点に“採掘”の魔道具を仕込む事で攻撃の後に素材がゴロゴロ落ちる。

 ちなみにこれには攻撃判定があるので当たれば痛かったりする。

 あとは足払いで薬草類がポロポロ落ちるのも忘れてはいけない。

 薬草類はマナが多いところの方がよく育つからな。

 伐採機能も入れて希少な木材も仕入れようか?

 ダンジョンマスターから見て当たり前の素材でも、地球換算で未知の素材の可能性もあるしな。


 素材が見つかる度の下野にも見せてるが、あいつ自分の能力が高いって自覚ないからこっちの地球で高値をつけてる素材でもボロクソ言うんだもん。どれがどれほど使えるのか正当な評価を得られなくて悔しい限りだ。


「凄いじゃん! でもなんで鉱石がボロボロ落ちるの?」


 狙い通りの賞賛をくれる美玲さん。


「攻撃動作にスキルを乗せたんだ。でも攻撃スキルじゃなくて採取系のスキルだな。今度中ボスとしてネール君を設置しようと思うんだけど、そのお披露目エリア用にこういった採掘場と採取場も併設しようと思うんだ」

「でもそれってネコババされない?」

「ネコババさせるのが目的だな。このダンジョンの旨味の一端をネール君に担ってもらう。攻撃する度にそこら辺からドロップ品がわんさか出るんだぞ? あとは転移チケットで持ち帰れば万々歳。チケットも売れるし、Win-Winだろ?」

「あっくんて考え方が姑息だよね」


 悪いか。誰だって楽して稼ぎたいだろう?

 俺はどちらかといえばシーカーの味方だぞ?

 ただ悪を裁いて溜め込んだマナをもらって殺しはしないだけだ。

 一度高ランクになったやつはノウハウができてるからランクアップも早い。

 殺して産ませて、成長させる手間を考えたらこっちの方が効率的じゃないか。なんでこう非効率的なやり方を知るんだか俺にはわからないな。


「鉱石だって細かい換金額は詳しく知らないが、協会の方でいろいろ協議してくれるだろう。それをみて設置する鉱石を決めるか、旨みの強いエリアを覚えて誘導するんじゃないか? あいつら自分が儲かることには積極的には知恵を働かせるから」

「そっか。今のところ中ボス部屋にまで踏み込んでくるシーカーなんて居ないもんね。その起爆剤にするんだ?」

「そんな感じ」


 以前まではまだコア討伐派居たけど、すっかりうちの仕様に慣れたシーカーは甘えグセがついてるからな。まぁお陰様でランキングの上位をキープできてるわけだが。


 以前まで。つまりは俺がダンジョンのマスターとして君臨するまでは、ダンジョンはシーカーが攻略する事で新しい能力が解放する場所という認識だった。

 ただそれは誤解で、単純にボスを倒す。またはコアを破壊する事で溜め込んでいたマナを放出、受け取ったシーカーがレベルアップするから能力が開放されるって仕掛けだ。


 実際のところダンジョンそのものが餌で、コアを破壊するとシーカーを乗っ取ってダンジョンマスターにする二段構えの策なんだけどな。


 なお、そのダンジョンがクリアされるとマスターを交代してダンジョンは延命する。

 前のマスターはダンジョンに吸収されて、なんだったらダンジョンの養分にされる。完全に飼い殺し状態だ。

 使い魔のシャマルはそこまで教えてくれない。


 知らないのか、飼ってるペットにそこまで教える意味はないのか。

 ダンマリを決めてるってことは後者だろうな。

 俺は詳しいんだ。


 結果、ネール君は大人気になった。

 人間界のSNSではもっぱらダンジョン内で使えるチャット機能でのやり取りは一般的。

 しかし俺のダンジョンでしか入手できない異世界スマホでのやり取りなので世界中のシーカー達から羨まれているみたいだ。


 俺もスマホから覗いてみたが、BBS形式の掲示板で大層取り上げられてるらしく、ダンジョン協会でも入場するのに予約待ちだそうだ。

 俺は直接転移してるので知らなかったが、シーカー以外には入場料取ってるらしいぞ?


 まだ一度も攻略されてないのに、それ以上の旨味を出すから人気スポットなのだそうだ。

 他のダンジョンマスターは、俺に追いつくために必死に殺伐としたダンジョンを作ってるようで安心するね。


 正直俺のダンジョンて人死に出ないから人数が飽和して行けないんだよ。そのおかげで数ヶ月待ちの予約が必要になっているのだが、流石にそれは俺のせいじゃないよなぁ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る