第85話 ダンジョン案内

「ただいま、シャルマ」

「おかえりなさいませ、マスター」


 シャマルは使い魔としてダンジョンに紐付けされている。

 普通ならダンジョンマスターと一心同体である筈なのに、彼女はここから離れることができなかった。

 まるでダンジョンの裏の支配者の様だ。

 なんのために使い魔がいるか?

 俺はそこに当たりをつけ始めている。

 こいつらは……


「ダンジョンの状況は?」

「ほどほどという感じです。見た目は普通にCランクダンジョンで偽装してますね。扉の一切ないお仕置き部屋の意味合いがわかりかねますが」

「わからなくたっていいんだよ。転移対策だ」

「それを使えるのはマスターくらいでしょう?」

「いや、俺のダンジョンに群がるシーカー達も使えるぞ?」

「そういえばそうでした。なんでまたそんな面倒なことを?」

「ダンジョンマスターに関わる気なんてなかったからだ。そもそも俺をダンジョンマスターに任命したのはお前だろ?」

「何の事やら」


 カマをかけても箸にも棒にもかからない。

 だが俺の持論はこうだ。

 この使い魔がダンジョンコアそのものである可能性。

 ダンジョンとは彼女にとっての巣穴であり、ステータスだ。


 それを評価される身としては俺にあれこれ動けと言いたくなる気持ちもわかる。

 そもそもの話、使い魔ということは誰かに使役されている者。

 だがダンジョンマスターに忠誠は誓っておらず、えらくダンジョン贔屓だ。

 だからこそ腑に落ちなかった。

 一体誰の命令でダンジョンマスターを突き動かしているのか?


 答えは簡単だ。


 ダンジョンが何のためにシーカーを育て、溜め込んだマナをその内に溜め込むのか。

 それは献上する相手がいるからだ。

 つまりはその相手こそが使い魔の主人にして、ダンジョンの元を作った張本人。

 人かどうかは怪しいが、異世界エムベスと比較して魔王としておこう。


 で、その魔王は芳醇なマナを欲している。

 ダンジョンはシーカーを殺して蜜を溜め込み、王に捧げる蜜蜂制度を採用している。

 働き蜂は、モンスターを倒させることによってレベルアップという蜜を溜め込むシーカー。

 そしてそのシーカーをうまく育てて回収するのが俺達ダンジョンマスターに与えられた使命。


 上手いこと考えられてる。

 よくできてると思うよ。けど、人の命を食い物にするクソ野郎の思考だ。相容れない奴には違いない。

 だから俺は開幕宣戦布告をし、ダンジョンに誘い込んだ。


 そのトラップを踏んだ侵入者、新たなダンジョンマスターが飛ばされるのは別世界。

 献上する王がいない世界でせっせと蜜を溜め込ませる。

 そんな絵図を思い描く。あとは溜め込んだタイミングで奪いにいけば一石二鳥だ。

 そう唆してやれば、シャマルも悪い気はしないだろう。

 とは言っても、俺もずっとはこの世界にはいないからな。

 暇を見つけてくるようにはするよ。

 だからそう睨むな。


「マスター、入口に反応。シーカーじゃない、マスターです!」

「ようやくきたか、誰だ?」

「ポイントは累計で発表されてるけど使えば手持ちは減るもの。マスターと違ってその実を見せないでしょうね」

「お前も俺をズルだと思うか?」

「いいえ、問題はそのポイントをシーカーなんかに分け与える愚行を見直していただければ、私も思うところはありません」

「すぐ回収できるものをそうやって摘み取ろうとするからダメなんだ。そこから旨みが消えたら人は寄り付かないぞ? そういう意味ではチケット作戦は良かった。今ではそう思っているよ」

「災い転じて、と言う奴ですか?」

「難しい諺を知っているな。そら、早速ゴブリンふれあいランドに飛び込んだぞ?」


 シャマルとの雑談を取りやめ、巨大モニターに視線を向ける。

 そこには【餌を与えすぎないでください】との注意書きと【ドロップした魔石買い取ります】の看板が。


 そしてこのエリアの本領はここからだ。

 ゴブリンが越えられない柵の上から投石、あるいは魔法を使って優越感を得るためのエリアである。


 よくあるパワーレベリングゾーンだな。

 ゴブリンは弱いが、シーカーになる前の一般人には驚異だ。

 投石用の礫は無料だが、有料で弓矢やボウガンなどの武器が貸出されている。


 ここでは自動販売機にゴブリンの餌なるものが売っていて、与えるとレベルが上がって凶暴になるのだ。

 【餌を与えすぎないでください】はその布石。

 与えすぎるとエンチャント武器ですらダメージが通らなくなるのでこの看板がある。

 この仕掛けはレベルの停滞を緩和するためだけに置いてある。

 次に行くのが怖い人っているじゃん?

 そんな人のための配慮だ。


 そこを素通りする一行は、取るに足らないと思ったのだろう。

 そこで俺のダンジョンが違う姿を見せる。

 一つのマップをスルーすると、一転してふれあい要素は消え、逆に狩猟モードが解禁されるのだ。

 それが立場の逆転による窮地からのスタート。


 さっき人間がゴブリンにしていたように、高所からゴブリンが魔法でエンチャントされた武器を用いて人間ハンティングしにくる高難易度エリアへと変貌する。


 とは言っても相手はゴブリンだ。

 ダンジョンマスターになった過程でその攻撃を受けたことで痛くも痒くもない。

 なお、このエリアをスルーすると似たような仕掛けが働くのだ。


 場所は一転し、惑星ストリーム。

 一面がひらけた視界で、前後左右から蛮族が襲いかかるアトラクションが開催される。

 厳密にはダンジョンでもなければダンジョンモンスターでもない。

 消耗させるだけさせて入り口に戻される仕掛け。

 一向に進んでいる気さえしなくなり、ようやく諦めてくれた。


 討伐したらしたで、お迎えグレードは上がっていくんだが、下限ですらわくわくストリーム広場に通される仕様。

 最終的に入り口に戻される安心設計なので、聡いシーカー達は奥に進まずお金稼ぎしてるのが現状だ。


 ゴブリンふれあいランドでレベルを上げてから次のエリアに入ると、ホブゴブリン、コボルト、ワーウルフとどんどん討伐ランクが上がっていき、最終的にシーカーランクがCまで保証されている。


 しかしそこから先は地獄なので素直にチケットを使って入り口に戻るのだ。

 こうして俺のダンジョンは安易にランクが上げられるスポットとして人気が高い。

 そして楽して成長した奴らは高確率で悪事に手を染める。

 チケットの偽造、売買なんかがその最たるものだ。


 違法ダメ、絶対。

 少しでも他のダンジョンの攻略に役立ててもらいたいと言う気持ちを悪用されるのは不本意である。

 なのであのポイントは俺が欲しくて手に入れたものではないのだと理解して欲しい。


 とにかくズルする奴が多いんだ、うちのダンジョンて。

 さっぱり意味がわからないものだ。

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