第63話 自由時間②

「取り敢えず今日はよろしくな!」

「お願いします!」


俺はギルドでまだランクがEになったばかりのパーティ『ガーランド』のサポーターとして雇われた。

エルフでサポーターというのが珍しかったのと、ハーフエルフの子が居たのが誘われた理由だ。


つっても俺は似非エルフなので俺にエルフらしさを求められても困るんだが。なんせ人間として17年過ごしてきてるからな! エルフ歴の方が短いくらいだ。


リーダーのガガーランは大剣を背負う大柄な男。

まだ15だが、それでもこの道はそれなりに通してる様でソロの方がランクが高いと変わった経歴を持つ。


「俺も剣一本でやってけるんならそうしときたかったんだが、やっぱ上に行くには連携が必要でな。パーティ組むことにしたんだ。出発したばっかだからランクは低いが、これでも成長株だぜ?」

「ウチのリーダーは猪突猛進だから」


快活に笑う少女はリサ。

初めてパーティを組んだガガーランとはよく喧嘩をしあう魔法使いだ。喧嘩の理由は射線に入ってはまとめて焼き払う事にあるから。

もう連携もクソもないな。誰か伝令とかしないの?


「んだよ、お前らが俺に会わせろよな? 俺がリーダーだぞ?」

「なるほど、ガガーランのワンマンなのね」

「そうでもないですよ。戦闘以外では僕達をあれこれとサポートしてくれてますし」

「コルトは俺の行動をよくみてくれてるよな。しかしリサ達ときたら悪い面しか持ち上げない。これだから女は嫌いなんだ」


コルトはガガーランをヨイショしてポジションを得ている様だ。

スネ夫ポジかな?

しかし性別で相手を卑下するのはパーティの不和を招きかねない。

実際もう一人のメンバーであるオリヴィア(神官)は先ほどからガガーランに向ける視線が氷点下にまで達している。

自業自得とはいえ、こうもメンバーと不和が続くと先行きも怪しいな。


「まぁまぁ、みんな仲良く。せっかく雇用してもらったのに途中で空中分解とか困るぞ? 俺も稼がなきゃいけないんだから」


俺は雇用契約を結んだ相手にそれなりにやる気を出してもらいつつご機嫌を取った。

ガガーランは15だが、それ以外の年齢は18〜100歳と幅広い。

最年長はハーフエルフのコルト。


ハーフなのに最年長なのかよと突っ込みたいが、数千年生きるエルフに比べたら断然寿命は短いと言われてるだけで人間よりは長生きらしい。

この世界のエルフの基準どうなってんだ?

ツッコミどころが満載すぎやしないだろうか?


その見た目たるやショタと言わんほどだが、こう見えて長い時を生きる錬金術師の卵らしい。

100年やってまだ卵とか錬金術も奥が深い。

闇が深いというべきか。

理想を求めたら天井知らずに金がかかるというのも聞いたな。


下野の合成が頭おかしいレベルでヤバイと気が付いたのはつい最近のことだ。

俺に言われたくないとは下野談。

話が脱線したな。


ともかく、俺はこの四人と共にポーターとして一緒に行動することにした。

一晩経過する度にクラセリアに戻って時間の経過を書き留め、すぐに戻って再開。これでなんとかならないだろうかと思いつつ、設定していたカウンター転移に反応がある。


武器持ちの設定が複数反応。

今頃武器屋に獲物が奪われて泣きを見ていることだろう。


「ボス、山賊か何かが此処通るって情報は?」

「いや、聞いてないが」

「では武器を持つ知恵あるものの存在は?」

「武器持ちのモンスター? ウルフとかではなさそうね」

「ゴブリン、はここら辺には湧かないし」

「コボルド? 生息地はもっと奥よ?」

「アーク、何を察知した? 俺たちのスキルはまだ何も拾ってない」


なんと説明したものか。

取り敢えず耳が良いと誤魔化した。

武器の音を拾った、そう言っておいた。

そして接敵した相手は、リサのセリフにあった様にコボルドだ。

しかし武器の他部位は持ち合わせていない。


「コボルド! どうしてこんな浅瀬に!?」

「言ってる場合か、数が多い。蹴散らすぞ!」


ガガーランが大剣を抜く。

リサが杖を構えて詠唱を唱える隙を縫って雑木林をコボルドが疾走する。


「雷撃符!」


そこへコルトが術式が付与されたスクロール(符?)を発動させてリサ狙いのコボルドを射抜く。


「オォラァ!」


大剣一閃。大振りから繰り出された一撃が木々を薙ぎ倒しながらコボルドの体を上下で分つ。豪快な剣技だ。

だがその分隙も多い。


迫るコボルド。

握った拳がガガーランの脇腹を抉ろうとしたする場所へ俺が【入れ替え】を使って転移する。


「アーク!? 何を!」

「よせ、アーク! お前の勝てる相手ではない!」

「舐めてもらっては困るな。俺はこういうこともできるんだ!」


矢面に立つことでヘイトを一心に引き受けて。

そしてそれは同時に起こる。


「消えた!?」

「何が!」

「アーク、あんた一体……」

「俺はただのポーターだよ。ただ少し、変わった特技を持つだけだ。転移は俺のスキルの一部に過ぎない。人と人を入れ替えるスキルや、相手の敵意に反応するスキルもある」


いつボロが出てバレるか分からないので最初にバラした。

すると俺をみる目が変わり始める。


「俺たちに嘘をついていたのか?」

「誰にだって秘密はあるだろ? それに窮地を救った相手に向ける態度じゃないぞ、それは」

「悪い、だが非戦闘員と聞いてたのに戦えてるからおかしいと思ったんだよ」

「それって悪いことなのか?」

「攻略のために買い込んだ消耗品がパアになりました」

「そいつは悪いことをした」

「いや、消耗品は使わなきゃ持ち越せるからな。けど、もう少し俺たちを信用して欲しいもんだぜ?」

「今日会ったばっかでそこまで信用できるか?」

「無理ね」

「ガガーランさんはガサツだから」

「あはは。それよりもアークさんのスキルは凄いですけど獲物の死体が残らないので割りに合わないですね」


コルトに痛いところを突かれた。

そこなんだよなぁ。俺の能力は戦闘を回避するのに向くが、ハクスラとはすこぶる相性が悪かった。

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