第20話 異世界の現実

ダンジョンを異世界送りにした翌日、伊藤たち冒険者組から街の人は助けたいだなんて呼びかけがあった。

別にアレくらいの野犬なら向こうの人でも余裕じゃない?

そう尋ねたら、どうも違う要素での救援要請だった。


「あの国はさ、魔法適正のない国民は奴隷扱いなんだよ」

「え、そうなの?」


それは知らなかった。

確かに岡戸以外のクラスメイトは殆ど追放されたって聞くし。

でもだからって同じ国で生まれた人間を奴隷にするか?

そんな話題で盛り上がっていると、そこにかつてのエース岡戸が割って入る。


「何の話?」

「レグゼル王国の魔法適正のない国民の話」

「ああ、それか。俺も何とかしたいとは思ってたんだ。ナターシャも、奴隷でな」

「あれ? 王女様経由で送り込まれたんじゃ?」


以前語っていた内容と違うぞ?

岡戸は苦笑いし、当時つけられていた腕輪について触れた。


「あの当時の僕はおかしくなってただろ? ナターシャから貰ったのは本当なんだけど、どうもナターシャは誰かに命令されてこの腕輪を渡すように言われたらしいんだ。元奴隷が逆らえない相手なんてどんな相手かわかるだろ?」

「王族?」

「それか配下の貴族だろうね」

「じゃあその彼女が殺されたのは?」

「見せしめだと思う。きっと僕を孤立させるのが目的だ。あの王女様は、それだけ僕の素質を買ってたんだ」

「だからって懐いてた子を容赦なく切り捨てるのか?」

「そう言う方なんだよ、あの子は。僕達の前では猫をかぶっていたのさ」


確かに直接接してみた感じと、岡戸の受けた仕打ちは明らかに乖離し過ぎている。

絵本から飛び出したようなお姫様。

その存在に浮かれすぎてて、多分本質を見抜けなかったんだろうな。

クラスの全員がそうで、ただ一人城島さんだけが見抜いていた。


本人を前にそれを咎める意味もない。

ずっとこちらにいるかどうかもわからず、誰にも言えずまま苦しい思いをさせてしまったか。


「じゃあ一時的に避難する形で?」

「そうしてくれると助かるよ」


伊藤は、実はその街に片想い中の相手がいる事を明かした。

嫌いじゃないぜ、そう言うの。

青春してるよな、羨ましい限りだぜ。


「磯っちだって、モテモテじゃない?」

「あんなあからさまにスキル目当ての子ら、どれだけ言い寄られたって嬉しくないんだが?」

「ほんとぉ?」


笹島さんがやけにつっかかってくる。

確かに全校生徒にスキルを大盤振る舞いしてからやたらと恋文をもらったりしてるが、絶対転移目当てだと分かるくらい露骨だ。

なんせ今の今までそんなそぶりをみせてこない相手からまで来てるのだ。悪戯に違いないと俺の童貞メンタルが囁いている。


別に付き合ったって良いんだけど、最初くらいはちゃんと俺をみてくれる相手がいいよな。笹島さんとか、どう?

僅かな希望を添えて申告してみると苦笑いされた。


「友達としてはありだけど、彼氏とかはまだ考えられないかなって」

「がーん!」

「元気出せよ磯貝。街の女の子紹介してやっから」

「そのためにもいっちょ転移頼むぜ?」

「くっそー、どうせ俺なんて一生独り身だよ!」

「お前の場合は理想が高すぎるだけだと思うんだがなぁ?」

「うるさぁい! 顔面偏差値平均以下を舐めんなよ!」


クラスカーストトップ組のイケメン軍団に慰められたら余計に凹むんだよ。

もうこうなったら街の人たちに慰めてもらうしかない。


そんな思いで俺はレグゼル王国城下町と、夏場のゴミ処理場を丸々転移で取り替えっこした。

この時期の生ゴミは鼻を摘んでもツーンとする匂いがつきまとう。

せいぜい苦しむが良いと最大限の嫌がらせをして俺は溜飲を下すのだった。



◇◇◇



<sideエミリー>


レグゼル城では国民の命を生贄に地獄の門番ケルベロスを呼ぶための儀式が行われている。

何も知らずにのんびりと暮らす人々を一度殺す過程の為、エミリーは込めた魔力を一気に解放し、広範囲の極大雷撃魔法を展開し、待ちに落とした。


と同時、人を殺した時の焼けるような匂いよりも鼻に突く異臭がエミリーに届く。

異臭というより腐臭だ。

生ゴミの発酵した酸味が、街のあった場所から漂っているのだ。

そもそも白から一望できる優雅な風景は一瞬で破壊し、何だったら瓦礫の山以上に抉れ落ちていた。


まるで山をスプーンでくり抜いたように窪み、そこへ異臭の原因が山ほど積まれていた。


そして一度発動させた魔術式は止まらない。

人の命どころか産業廃棄物を生贄に召喚されたのは意思を持ったゴミの巨人だった。


そのあまりの異臭に城内はパニックに陥り、あろう事か胃の内容物を吐き出す始末。

エミリーは倒れるも、それを介抱すべき存在はいなかった。

何と従者やメイド、他の貴族までもがその強烈な匂いに意識を持っていかれ、ゴミの巨人は制御不能のまま各国を徘徊して戦争はままならなくなったとかなんとか。


そのゴミの巨人は通った街に疫病を流行らせ、召喚者のエミリーは過去最悪の召喚師として歴史に名を刻んだ。


なお、知り合いの通った街、桂木先生の商売を行った街は同様にごみ収集場と置き換え済みであった。


ゴミの巨人はその収集場でゴミを獲得し、より大きな災害を世界に刻みつけたのは記憶に新しい。

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