第70話 エルフの暮らし方

「あっくん、元気良すぎぃ♡」

「なんか今日の美玲さんが可愛すぎて」


結局あの後自由時間は全て夫婦の時間に当てた俺たち。周囲にイチャイチャを見せつけつつ目覚めのいい朝を迎えた。


「嬉しいけどこれ以上はダメだよ? お祈りに回す分も残しとかないと。ね?」

「分かってる。俺たちエルフのマナは有限だ。でも美玲さんと一緒にいるとなぜか漲ってしまうんだよなぁ。なんでか分かる?」

「あっくんがすけべだからじゃないの?」

「お、そんなこと言うんだ? だったらこうしてやる」

「いやーん」


だなんて、朝から奥さんの艶の声をある言葉を頂き満更ではない。


ここでの仕事は主に朝飯前の仕事に、世界樹様へのお祈り。

朝食を頂いてからの大仕事。

男と女で割り振られる仕事が異なり、男なら体力仕事。女なら炊事洗濯などの家事を全員でこなす訳だ。


中でも世界樹様へのお祈りが必要不可欠で、これは厳密にはマナの譲渡になる。

しかしエレメントツリーの成長とそれなりの見返りがあるので苦ではない。人は成長過程が見えると嬉しくなってやりがいを見出していくものなのだ。


それを搾取されてきた大人達は、特に決められた仕事をこなせば夕方から自由時間を貰えるジャキンガルへの人気が集まっている。

俺たちの様に夫婦水入らずで過ごすのもいいし、熟年夫婦が第二の人生を過ごすのには最適すぎた。

とーちゃんやかーちゃん達もこっちに旅行に来ればよかったのにな。

まぁまだ時間はあるのでのんびりと過ごす。


ホムンクルスの娘である“あーちゃん”の迎え入れ準備も着々と進んでいる。

いや、全然進んでないけどこの居住区に暮らしてる間は連れて来れないのは自明の理。


少しでも里に貢献してエレメントツリーを成長させ、それに見合った居住区に引っ越し申請をしてもらわねば。


「全く、お前らときたら懲りもせず。若い身でその行為にうつつを抜かしすぎるのは感心せんぞ? 非常時にマナ不足で大変なことになるからな。私も若い時によくやったので強くは言えんが」


呼び出しに来たカレンさんが頬を染めながらそう呟いた。

なるほど、やることはきちんとやってるわけだ。だからあまり深くは責めてこないと? ほうほう。


しかし里のルール上黙っているわけにもいかずの通達と言うわけだ。

行為のしすぎはご法度。これはここの独自ルール。

マナの肉体間譲渡は別に禁止されていないが、度を越す譲渡は世界樹様の成長を見守る守り手たるエルフとして相応しくない、だなんて思想を持つお方も少なくないらしい。


そして最低一回の世界樹様への祈りは里全体に課せられたルールである。逆に言えばこれだけ守ってさえいれば特に咎められることはないときている。


待遇は悪くなるだろうが、引き止めないのは長寿の肉体を持て余すが故にだろうな。


「カレンさんには誰か素敵なお相手は居ないんですか?」

「居るぞ。昔はよく行為にうつつを抜かして怒られたものだが、いい加減大人になったのだ。今はそれぞれ役職について里に貢献しているな」


なるほど、立派なお考えだ。


「まあお前達が来てからアテられたものも多くてな。久しぶりに肉体間でのマナ譲渡をするカップルが多かったな。その、久しぶりなので私たちも随分と燃え上がったよ」


なんだよ、やっぱりやる事はやってるんじゃないか。


「それゆえに午後の祈りの分が厳しくてな。別に責めるつもりはないんだが、そういうことだと察して欲しい」


そう言うことね。なんだか微笑ましいセリフを引き出せて満更でもない。オーケーオーケー。俺たちは遠慮なくイチャついておこうと思う。


「じゃあ俺たちは労働と行きますか、下野シーマ?」

「だね」

「あたしたちは食事の準備だよ。頑張ろ、姫りんリンセス?」

「ええ」


姫りん呼びで嫌な顔はするが、撤回せよとの言及はない。

学生時代の時は鬼の様に撤回を求めてたのに、遂に折れたか。

しっかし食事なー。朝食って基本的に野菜中心なんだよなー。

肉が食えるのは午後の労働の後だったりする。

その野菜のための畑を任された俺たちは、えっさほいさと耕した場所にタネを撒いて水やりに努める。


体力は使うけど、意外と野菜の成長を見守るのってやりがいあるんだよ。

下野は如何に俺の“カウンター転移”を使い倒すかで悩んでいるようだが、そのうち事件を引き起こしそうな顔つきもしている。

これは適度に距離をおくべきか?

そう思わざるを得ない。


それよりもエルフになってから俺は特に野菜嫌いが治った気がする。


いや、肉やコーラなどの体に悪影響を与えるものは総じて大好きであるのだが、こっちで食う野菜の旨さと来たらそれに並ぶほどなのだ。

これが世界樹様の恩恵?

だなんて勘違いしてしまうほど朝食で振る舞われる野菜が体に良くあった。


最初見た時はこれっぽっちかよ、と憤慨したものだが満足度が肉以上にあった時は驚いた。それを監督役の益荒男エルフに聞いたら、エルフはマナの宿る野菜を中心に体に留めておくことで世界樹様への寵愛を受けているのだそうな。

マナとは俺たちの肉体を形成する血肉であり、動物からも摂取できるが野菜と比べれば微々たるものだそうだ。


なるほどな、菜食主義のエルフって栄養特化の意識高い系だったと言うわけだ。しかし肉を禁止してないのはいいな。

やはり日本人は肉を食うことで体力の回復を図っていた。

それを奪いあげられて納得できるだろうか?

いや、ない。


朝飯前の運動を終えたら世界樹様へのお祈りだ。

これが楽しみで運動しているまである。


と、無事祈りを完了させた所で頭にメッセージが入った。


───────────────

❗️ エレメントツリーが成長した

───────────────

アーク:エルフ♂

タイプ:サポート

マ ナ:9,000/100,000

属 性:土

妖 精:コボルド/能力:毒検知(消費マナ10)

   :該当なし

   :該当なし

精 霊:該当なし

   :該当なし

┏寵愛━???

┃  ┏放射━種まき━???

耐久━╋開墾━採掘━???

┃  ┗???

┣忍耐

┗???

───────────────


お、なんか増えてる。

放射の延長線上に種まきとかさぁ、そっち系と思われちまうだろ?

やめろよ。俺の清楚なイメージが壊れるじゃんよ。


そして俺にも遂に妖精がついたぜ!

益荒男エルフは“宿なし”だなんて不名誉な呼び名をつけるもんだから内心不安だったんだよな。

しっかし毒検知ね。これはあれだな、採掘への道待ったなしだ。

貴金属加工とかも手にしてマイホームも豪華に盛ってやりたいよな。

こっちには加工ならお任せの下野がいる。その分マナを大量に持っていかれるが、そこには心強い奥さんが補填でお手伝いしてくれるだろう。


後、俺のマナ量も見れる様になってる。

減り方の著しさは行為のせい?

いや、お祈りもしてるしそればっかりってわけでもないだろう。


「お、磯貝くん浮かれてるね? 何か成長した?」

「ふふん、分かってしまうか? どうやら俺にも妖精がついた様なんだよ」

「どんなの?」

「コボルドって奴だ。毒を検知したらワンワン鳴いて教えてくれるらしい。コボルド、ご挨拶してやれ」

「ワンワン!」


俺の言葉に引き寄せられてコボルドが顕現化する。

それはもふもふからは程遠いツルツルお肌の人型で、犬とは程遠いシルエットをしている。どこか小生意気そうな緑の肌をした鷲鼻のクソガキ(手乗りサイズ)だ。耳も長い。


ワンワンじゃねーんだよ、泣き真似か? お?

俺がメンチを切ると体を縮こまらせて震え上がった。


ヨシヨシ分かればいいんだ。次からは気をつけろよ?

コボルドを再び虚空にしまって仕切り直すも、下野は今の茶番に対して微妙な顔をしていた。


「僕は一体何を見せられてるのやら」

「初めて手に入れた妖精を見せびらかしただけだぞ?」

「いや、妖精って宿り主にしか姿を見せないもんだよ? 僕のシルキーはずっと目の前にいるけど、君には見えないでしょ?」

「え、マジ?」

「マジ寄りのマジ」

「しかしコボルドとはな。ゴブリンに次ぐワースト妖精の代表格だぞ? まぁ気を落とすな。ゴブリンよりはマシだ。あいつは悪戯するだけして、その上でマナも持っていくからな」


下野に続いて益荒男エルフからも慰められる様な声をかけられた。

なんなら宿なしだった方がまだマシと言わんばかりである。

ちなみに今のやり取りでも俺のマナは減少していた。

おい、毒を感知したらマナが減るんじゃねーのかよ!


実際のところは俺に呼ばれて表に出た秒数でマナを持ってく様だ。

さすがワーストの代表格。

つーかお前ゴブリンの親戚なのかよぉ!

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