第71話 危機感のない日常

使えないと噂のコボルドを引き当てた俺は、午後から畑の続きをすべくせっせと水撒きをしていた。


「つーか、昨日植えたのになんでもう芽が出てんの?」


なんなら支柱を突き刺してやらねば蔓が明後日の方に伸びてしまいそうだ。

下野に頼んで突貫で支柱をセット。

なお、これも“カウンター転移”で施設からセットする事でオート化する。芽が出たら自動で射出する仕組みだ。収穫後は天井裏に再転移する仕掛けもしたので、撤収後も問題ない。


その後益荒男エルフからアドバイスを貰った。


「何やらまたパワーアップしてる様だが、随分とここの畑は生育率が高いな。一体どれだけ世界樹様にお祈りしているのやらわからんが、倒れてしまっては元も子もないぞ?」

「捧げる祈りの量によって畑の生育率って上がるんですか?」

「うむ、我らが世界樹様を支えている様に、世界樹様も我々を見守ってくださっている。特に祈り手のマナ譲渡量によってはそのお力で生育率を高めてくれたりするのだが、この生育率は少し異常だな。普段なら開花時期が早まったり、収穫物の甘みが増したりとかそんな程度だ」

「ほへー、そうなんですね。俺たちまだどれくらい譲渡したらいいかわからず全力で祈ってるのでその影響かもしれませんね。エレメントツリーもやたら成長してますし」

「ふむ? アークはまだここに来て3日目であったな。今ツリースキルはいくつある?」

「えーと、根っこも含めて7つ。ついでに妖精の枠が3、精霊の枠が2つっすね」

「え、僕まだ3つしかないよ? 妖精と精霊の枠もひとつづつだし、磯貝君アークばかりズルくない?」


一緒に仕事していた下野がすごく驚いている。

そして益荒男エルフもまた信じられないって顔をしていた。

それと言うのも下野が示す通り、毎日のお祈りと仕事に応じてツリースキルは成長するのだそうだ。

それに比べると俺の成長率はおかしいらしい。


明らかにバグってるし、なんなら妖精や精霊は一人につき一体づつ。

最悪妖精だけなんてこともザラにあるのに俺だけ超優遇されてる様だ。その可能性から、俺が一回のお祈りで譲渡しているマナ量がとんでもないのではないかとの指摘を受ける。


「いや、俺もよく分かってないんすけど、残り9,000ですね」

「ふむマナ量が1,000を超える同胞は割といるが、10,000を超えるものはそうそう見かけない。もしかしてお前達は拾い物どころか大当たりの類なのかもしれんな」


大当たりと言われて満更でもない俺達。


「そう言えば俺たちを案内してくれたカレンさんのマナ量って幾つなんですか?」

「彼女は我々の中でも最強だぞ? 張り合ったって落ち込むのが目に見えている。長寿の我々でも長老に次いで最年長であるからな。そのマナ量は10万を超えるとも言われている。負けたとしても落ち込む事はないぞ? 私だって5万だ。だが3,000年生きての総量だ。彼女は6000年以上生きている。まだまだ年若いお前達が背伸びしてしても届くものではないぞ?」


総量5万でも十分自慢できる範囲なんだな。

益荒男エルフのドヤ顔に需要があるかは知らないが、少し自慢げだった。

下野の魔力量は10,000。

まだ年若いエルフでそのマナ量はエリートクラスだとして恐れ慄いていた。3,000年生きたエルフの1/5持ってれば脅威に感じても仕方ないか。


とはいえ、マナ総量ばかり多くたってそれに伴うツリースキルが成長してなければ意味がないらしい。

教官としてモノを教える様になるには最低30個以上。

仕事を一通り覚える必要があるんだって。


そういう意味では俺はマナ量こそ追い抜いてるものの、仕事は点でできないので上に立つものの道は果てしなく遠く感じた。


収穫まではまだまだ長い道のりだが、成長しすぎても野菜は美味しくないらしい。増えすぎない様に適度に間引いて、一つの実を大きく育てるのも農家に求められる技量だとかなんとか。


早速支柱に巻きついて、さらに横に伸びようとする蔓を根元から取り除いた。直射日光をいっぱい浴びさせて、乾燥に応じてシャワーが農作物へと降り注ぐ。


ジャキンガルでの生活でここまで長閑な生活を送れるとはここにくるまで思いもよらなかった。

だって危険度★4なんだよ、ジャキンガルって。


危険度と言うのは生まれ育った場所を基準に難易度分けして生存のしやすさを示すものだ。

一番最初に転移したクラセリアを基準に、

真新しいエスペルエムは★1

それよりは厳しいアトランザは★2

クラセリアは★3

ダンジョンのあるエムベスはクラセリアより格上だけど、クラセリアで暮らしてる日本人が普通に攻略できてるから同等としている。


で、その上に来るのがジャキンガルの★4


下野の両親が“種族変更”しに行ったクミンに至っては★5とジャキンガルの上を行く危険地帯。

その上に野生化した種族しか住まない★6のヴィオスがあり、お仕置き世界として有名な蛮族同士が命のやりとりをバチバチにしあってるストリームが圧倒的★7として君臨している。


地球でも最大規模のユーラシア大陸を送ってそれなりに攻略は進んでるが、アトランザで多少揉んだからってすぐにその地で無双できると思ってはいけない。

そう言う意味での危険度表示。


なお、現時点で近づけない地球は★10の扱いを受けている。

いつか帰りたいと思う一方で、帰還できる日は叶うのかとここで暮らしながらぼんやりと思っている。


その日のうちに流石に収穫はなかったが、襲撃とかもなかった。

なんだよ、全然平和じゃんジャキンガル。


「って事でさ、美玲さんはツリースキル何個くらい増えてる?」

「藪から棒にどうしたの、あっくん?」


午後のお仕事を終えて自由時間。

支給された家屋で、俺は美玲さんと今後のことを語り合う。

今でこそのほほんと過ごせているが、ここって普通に危険地帯だから覚悟の準備はしておいた方がいい。そう語りかける。


しかし美玲さんは言いにくそうで、


「もしかしてすごい数値だったりする?」

「あー、えーと……はい」

「じゃあ俺から言うな? 実は俺のマナ、何故か10万くらいあるんだ」

「そうなの!? 姫りんの5倍だよ!」


と言う事は下野の倍あるのか、姫路さん。

もしかして女性の方が総マナ量が多かったりするのだろうか?


「もしかして女子は男の倍くらいあったりするのか? ウチの教官様は男より女の方がマナ量が多い様なことを言ってたんだ」

「そこはわかんないけど、あっくんよりは多いよ。充填のスキルの影響で、実はよくわからないの」

「って、俺も美玲さんとイチャイチャしてるだけでマナがぐんぐん回復するんだけど」

「それは肉体相性いいからって、何を言わせるのよー」


頬をむにむにされたのでやり返すと、抵抗せず受け入れてくれる。

こう言うところがたまらなく可愛いのだ。


じゃあつまり、その手の行為をすればするほど総マナ量って増えたりすんのかな?


普通は体力的な問題もあるけど、マナさえ保っとけばエルフは生活できる。賢者タイムというものが俺にはそもそもないのは若いからだと思っていたが、実は違うのだろうか?


他のエルフ達もそう言うことを特にしてないのはマナの確保が目的だ。

じゃあそれすら無視してエッチなことしてる俺たちが他のエルフよりマナ量でマウント取れてるって言うのはそう言うこと?


流石に10万はマナ的に多すぎる気もするけど、それが美玲さん効果なら俺は嬉しいよ。なので今日も彼女を愛し尽くそうと俺はベッドに体重をかけた。


でも下野夫婦達はなんで俺たちより少ないんだろ?

かなりマニアックな性癖持ってるのにおかしいな。


そこが一番の謎である。

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