第83話 マスター会議

 ダンジョンの力を手にしてから、やたらと頭の中が騒がしくなる。

 やれ、人間を殺せだの。モンスターを強化しろだの。

 どうにも命令口調でいけない。

 俺は自由にやりたいんだ。お小言は嫌だと。

 謎のメッセージを既読無視する事数週間。


 しびれを切らして向こうのほうから現れる。


「いい加減にしろ! いるのはわかってるんだぞ、マスター!」


 それはコボルドとは比べるのも烏滸がましいほどの愛らしいフォルム。女の子型の使い魔だ。

 だがいかんせん、その瞳は暗黒に染まっており、瞳の赤さが特徴的。


「はいはい、聞こえてますよ。しかしどうしてそんな焦ってるんだよ。ゆっくり生きようぜ? 時間はまだあるんだ」

「どうしてプレイヤーってのはこうして短絡的思考をしてるんでしょうかね、まるで意味がわかりません。貴方は選ばれしプレイヤーの中からさらに選抜されたエリートなんですよ? もっとその自覚を持ってください!」


 プリプリと怒る使い魔のシャマルは、俺の顔の周りをひらひら飛んでは真夏の蚊の如く俺の不快指数を爆上げする。

 俺が嫌がるとわかっていてやるのだこいつは。


 ちなみにこいつは他のプレイヤー、つまりはシーカーから認識できない。

 つまりはダンジョンのサポーター的立ち位置を有している。

 ちなみに俺のダンジョンは今日も元気に営業中だ。

 もし協会から俺がダンジョン側の手先だとしられたら怒られるだけでは済まされないだろう。


 それくらいの違反行為。

 それ以前に搾取しようと矛先を向けられるのがオチだ。

 逆に俺以外のマスターの面を拝んでみたいものである。


 シャマルの言い分では、ダンジョンを攻略したプレイヤーに贈られるボーナスがダンジョンマスターの地位だと言うんだから、この世界は欺瞞に満ちている。

 ダンジョン側は明確な敵意を持ってこの地球を侵略しにきているのに、シーカー側がエネルギー資源の採掘ぐらいにしか対応していないのだ。


 その上でダンジョンコア達成者は悉くダンジョンに奪われる。

 これでは負のスパイラル。

 目の前に餌をちらつかされて喜んでる間に人類は着々と魔族によって支配されてしまうだろう。


 ま、悪の手先の俺が言っても説得力はないが。


「で、マスター会議だっけか? 出席しなくちゃいけないのか?」

「当然です。これからマスター達は人間をどの様に攻略するかで協力し合うんですから」

「協力ねぇ」


 果たして率先してシーカーになりたがる破滅主義者が足並み揃えて一緒に協力仕様だなんて言うだろうか?

 力を持つものの末路をいくつも見てきた俺は断言できるが、大体利用しようとするのが目に見えている。


 そう言う奴こそ饒舌に手の内を明かす様に命令してくる。

 俺は詳しいんだ。


 と、そうそう。

 シーカーにランクがあるように、ダンジョンにもレベルがあってランクもある。

 それらはダンジョンの難易度や、人間をどれほど効率的に始末するかでポイントを取得し、そのポイントを使ってレベルを上昇させるのだ。


 戦略によっては少ないレベルでも人間を殺す事はできるが、誰がそんな危険なダンジョンに好き好んで足を運ぶだろうか?

 そういう意味では効率を求めすぎるとポイントの入手手段が詰むのだ。


 ではどうするか?

 レベルの高いシーカーを少しづつ間引いてやれば良い。

 俺は転移でポイントを荒稼ぎしている。

 普通に稼ぐのは難しいが、ダンジョンポイント的に怪しいが、俺のダンジョンは不正対象者を厳罰に取り締まっている。

 先ほども転移チケットを密造して売り捌いていたとされる主犯グループを特定してお仕置き部屋送りにしたところだ。


 悪人は放っておくとつけあがるからな。

 そいつが力をつけると被害が拡大する。

 だから即座に処分してしまう。


 今のところ田中は尻尾を見せないが、あいつも捏造に一枚噛んでるっぽいんだよな。

 まず間違いなく。だが隠すのが上手いのか俺を警戒してるのか、友人を装って近づいてくる。


 俗物である事はお互い隠しもしないくせに。


 と、思考が逸れたな。


「聞いてますか、マスター?」

「聞いてる、聞いてるって。これから集まる場所では揺るぎない態度が必要なんだろ?」

「そうです! マスターは抜けてるから心配なんです! 上に掛け合って今からでも交代して欲しいくらいですよ!」

「まあそういうな。全て俺の掌の上だよ。どんな奴が来ても負けないから心配するな」

「その自信はどこからくるんですかー?」


 シャマルは心配性だなぁ。

 俺は案内された扉を開け、既に集まって腰掛けてる面々を一瞥すると、空いてる席に腰掛けた。

 わかっていたが全てが人を辞めている独特のフォルム。

 俺のように亜人として生きている奴はいないようだ。


 皆が悪魔的な特徴を頭、ないし背中、足元に持っている。


「揃ったか。ではこれよりマスター会議を始める。司会進行役は我が行う。良いな?」


 恰幅の良い、上半身がやたら分厚い一つ目の鬼が司会進行を請け負った。

 俺たちはお互いを牽制しながら誰を利用するべきか思案した。

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