第2話 逃した魚は大きい

あれから1週間が経った。

激動の1週間だったと言っても差し支えない。


なんせ武装した騎士団に俺たちは囚われていた様に見えるのだ。

包囲網を敷いた警察部隊が発砲するも、金属鎧がそれを弾いたりと膠着状態が続いたが、それを担任の桂木先生が説明をする事で双方武装解除することになった。


方や誘拐犯と被害者一同。

たとえ自分たちの命の危機であろうと、よその世界から年端のいかない子供を誘拐するなんて倫理的にどうなのかとテレビとかで議論されていた。


レグゼル王宮側の言い分はまるで無視し、言論で糾弾する姿は安全地帯からテレビの向こう側で物申すコメンテーターの如く危機感の足りないものだった。


その日は学級閉鎖と言うことでうちのクラスは解散となったが、帰り道に押し寄せたテレビの報道や記者達にもみくちゃにされたのはいい思い出だ。

中には「異世界に連れて行かれてどうだった?」だなんて答えにくいものもあったが、パパラッチなんて人の心を持ってたらやっていけない連中だと聞く。俺は適当に流して、スキルのことも当然言わなかった。


しかし口の軽い者はいるもので、よほど嬉しかったのだろう。

まるで小説の主人公の様に自分が手に入れたスキルを自慢するクラスメイト。


やはりその手の記事は受けがいいのか、ネットなどで取り上げられては他のクラスメイトはどうだ? だなんて根も葉もない噂が広まった。

俺は何も受け取ってないで押し通ったが、やはりクラスのみんなは誰が情報を漏らしたか、又は自分以外の能力が気になる様だった。


「磯貝君はなんのスキル貰ったの?」


クラス一の秀才、岡戸が自分のスキルが上等だったからと値踏みする様に俺に問う。


普段なら俺の様なボッチに聞いてくることはないんだが、それくらい格付けが気になる様だった。

すでにバラしたものも多いらしく、それぞれ表情は十人十色だ。


「僕は全属性魔法適正ってやつでね、もしこっちに帰ってくることがなかったらさぞ頼られていただろうなって思ってるよ」


身振り手振りが大仰で非常にうざったい。

そして現代では魔法の素が一切ないから使えないので無用の長物であると自分で白状している様なものだった。


「岡戸君はまたあの世界に行けるなら行きたい感じなの?」

「そりゃ一度くらいは使ってみておきたいけどさ。でも実際はすぐに帰って来れて心底安堵してるよ。冒険とかはゲームでお腹いっぱいさ。命までかけるもんじゃない」

「そりゃそうか。来年は受験だし、そんなものにかまけてる時間ないもんね」

「そうなんだけど、って話を逸らすなよ。それで、磯貝君のスキルは?」

「転移だな。ちなみに一度使ったら1週間は経過しないと戻って来れないけど、使うなら使うぞ?」

「「「は???」」」


俺のセリフにクラス中の声が一斉に止む。

それは予想していなかったと言う顔だ。

もし自分より格下のスキルなら詰ってやろうと言う気分だったクラスメイトが一斉に目を剥く。


「ん? どうした?」

「いや、どうしたも何も転移って言ったか!?」

「言ったな」

「磯貝君、もしかして私達を無事日本に連れ帰ってくれたのって磯貝君だったりするの?」


一週間前、人目に晒してはいけない姿を見せまくっていたクラスのマドンナ赤城さんが一二にもなく食いついた。


「実は俺もよく使い方を知らないんだよね。あれは偶然というか、誤作動というか。しかも再使用まで地味に一週間かかるんだぞ? 岡戸君みたいにポンポン使えるもんじゃないし、一番使えないまであるから黙ってた」


そんな俺の言い分に、確かに再使用時間が懸念かとクラスのみんなが渋り始める。もしこれが再使用無制限だったものなら、俺をめぐっての利権争いが起こっていたことだろう。

そう思えば面倒臭いくらいでちょうどいいな、これ。


「じゃあ僕は週一で魔法使いになれるのか!?」


岡戸の目が本気だ。

そんなになりたかったのかよ、魔法使い。

って言うか、帰って来れる前提ならドキドキファンタジーに憧れるのも無理はないか。


「岡戸君の気持ちも分からなくはないけど、多分次行くとしてもこの学校単位で飛ぶぞ? その時の責任をお前は取れるか?」

「いや……僕だけとかある程度人数を絞って送れないか?」

「無理だな。実は前回もな、こっそり俺一人だけ帰ろうとしてたんだ」

「何!? お前そんなに薄情なやつだったのか!?」

「モノの例えだよ。で、その結果はどうだった?」


岡戸君に引っ張られて騒ぎ始めたクラスメイト達が、規模を思い返して口を噤む。


「城ごと帰ってきたな」

「だろ?」


俺は肩を竦めた。岡戸は諦めきれない様に席に着く。

彼はそんなに日常を捨て去って荒唐無稽に憧れていたのだろうか?

俺は人は見た目じゃわからないんだなと始業のベルがなるのと同時に教科書を開いた。

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