第95話 同窓会④

「で、俺になんかしてほしいってわけ?」


 ベロンベロンに酔っ払った仮にも教師が、生徒達の頼みを値踏みした後、ほざいた言葉がこちらである。


「まぁコツと言うか、時間を渡る方法ってあるのかなって」

「簡単に言うな。つーか、俺のが時空系なのってアイテムバッグ関連だぞ? 中に入れた時を止めるくらいで、経過した時を戻すのは逆ベクトルすぎる」

「まぁそうですよね」


 じゃ、もう用はないと踵を返そうとしたところで肩に手を置かれた。何? まだなんか用が?


「まぁ、待て。アテがないわけじゃないんだ。ただ、その……分かるだろ?」


 手を何か寄越せと言わんばかりに開いて差し出してくる。

 交換条件ね、本当にこの人が教師でいいのか?

 まぁ誰に何を教えるつもりかは分からないけど、勤務時間を終えた後まで責任取れとまでは言えないか。

 卒業した覚えはないけど、学校はもうないし。

 俺たちもとっくに別の世界に就職してるしな。


 元教師だからってタダで働かせようだなんてムシが良すぎたか。

 じゃあなんで俺はタダ働きさせられてるのか?

 考えたら負けな気がして、思考を切り替える。


「何が欲しいんです?」

「転移優先権。恩師補助じゃ追っつかないくらいお前んとこの行列長くてさー」

「人の欲望は計り知れないですからね。で、融通するのは一回分でいいんです?」

「そこをなんとか5回! いや、フリーパスでなんとかしちゃくれねぇか!?」


 この人、ただ一つの思い当たる節を語るだけで世界中の人たちの予約よりも自分を優先しろと言いだしたぞ?

 これ、わざわざ聞く意味ある?


「流石に転移事業は本業なので俺個人で同行できる問題じゃないですよ。ただ、先生用の転移チケットは考えてあげてもいいかもしれません」

「よっし!」


 並行地球で学んだ技術応用だ。

 学んだ技術はなんでも取り込んでいく方針である。

 設定だけで勝手に運んでくれるなんてありがたいったらありゃしない。いずれ各世界に転移ポータル的なのを作って、紐付けして簡易化なんかもできそうだ。

 そのための実験台になってもらうぜ、先生?


「もちろん指定口座への入金を確認した後のご利用が想定されますので、お金はちゃんと出してくださいよ?」

「そこをなんとか初回はタダで!」


 この人、仮にも商人だろう? 

 なんでこんなに必死で値踏み交渉してるんだ? 

 そこに価値があるならいくらでも出すもんじゃないのか?

 よもや教え子になら頼み込めば無償でしてもらえると思ってたしないか?

 転移の優先順位低すぎない?


「まぁ、何に使うか分かりませんが紐付け作業で一枠開けとくくらいはしときますよ。俺もタダ働きは嫌なんで、きっちりお金はとります。商人なら当たり前ですよね?」

「流石だが磯貝。立派になったなぁ」

「恩人ツラはその辺にして、話の続きですが……」


 転移をいかに楽に入手するかで話を終えようとした桂木先生へ、さっきの話の続きは本当か? と尋ねる。

 よもやここまで融通聞かせて嘘とは言うまい。

 ただこの人、どこまで信用していいか分からないところがあるからな。


 先生はまるで何かを思い出すように語り出す。

 そんなに古い記憶に俺は吹っかけられたのかと、嫌な気分になりながら話を追っていくと、アトランザの古代遺跡で時空間転移の情報があったようだ。

 ただし、何かのエネルギーが足りないらしく。

 金目のものもないので諦めて帰ってきたらしい。


 それを聞いた城島さんが、美玲さんならなんとかできるんじゃないかと言ってきた。


「あたし?」

「ええ。あなたは過去にストリームのよく分からない古代兵装-アーティファクト-の充填作業もやってのけたじゃない?」

「うん、まあ補填対象に選べればだけど」

「たしかに笹島の能力ならいけるかもなぁ!」


 無責任に桂木先生が乗っかってくる。

 しかし、そこまでしなくてもいいとエイジ達は言う。

 生きてる頃に会うよりも、思い出として胸にしまっておきたいようだ。


 まぁ、活動理念半分はそっちでも、もう半分は金の匂いがしたからだ。

 根っからの商人なんだよな、俺は。

 あとダンジョンにも流用できそうだと思ったから。

 

 若返りダンジョンとか面白そうじゃない?

 若返るとその分知識は残るけど、貯めた熟練度とスキルそのもの消えるから宙ぶらりんになったマナを奪えるってね。

 スキル自体はそのエリアを抜ければ元に戻ってくるけど、熟練度は1のまま。

 その分報酬は美味しいものを用意する。

 お互いをWin-Winにしとけば通ってくれるだろう。


 まぁ、時間転移の能力かどう言うものかわからない限りは憶測でしかないんだけどさ。


 同窓会の三次会はアトランザの古代遺跡に決定した。

 場所はうろ覚えなのでめちゃくちゃ迷ったが、

 この間に転移した回数は数え切れないくらい。

 金を敢えて取ってないのは興味本位だからだ。


 クラスメイトには、せいぜい肉壁になってもらうつもり。

 ストリームの蛮族達に比べたらまだ余裕だろ?

 そう言いくるめて俺たちは前進した。


 いざ、時の間へ!


 謎のエネルギーは美玲さんの『補填』で解決!

 それっぽいヒントは城島さんの『鑑定』で解決!

 道中遅いくる守護者は岡戸達の『スキル暴力』で解決!

 トラップの呪いやら毒やらは吉田さんの『解呪』で解決!

 複数のコアを探すミッションは姫路さんの『複製』で解決!

 最後の扉と思われる場所に、俺と下野がそれぞれ転移、次元門を設置すれば、再度来るのに上記メンバーの力がなくても来れるって寸法だ。


 そこで俺たちは玉座に鎮座する毛玉と出会った。


「ワンワン!(訳:ここは時の間。我らが支配者イ=スの民にのみ許された場所。そこへ土足で侵入するとは万死に値する!)」


 何を言ってるのかさっぱり分からなかった。

 ずっとワンワン吠えているので、抱っこして頭を撫でてやると……


「キャウン!(訳:この波動は!? まさか貴方様は我が支配者イ=スの民なのですね?)」


 煩ッ。直接頭に呼びかけんなよ。

 イ=スってそもそも何?

 俺は磯貝章って名前があんの。勝手に勘違いしないでくれる?


「ワフン(訳:我を試したのですな。お人が悪い。イ=スの民は名称のどこかにそれと分かる識別を残すと言われています。貴方様はイ=ス・ガイ王族を示すアーキラ様なのでしょう?)」


 なんか勝手に解釈されてるんだが。

 つまりこうか?


 磯貝章

 イソガイ アキラ

 イ=ス・ガイ・アーキラ?


 無茶が過ぎるだろ。

 だったらウチの家族全員そのイ=スの民って事になるぞ?


「あっくん? このワンちゃんなんだって?」

「キャインキャイン!(訳:これ、よさぬか! 我は誇り高きティンダロスの末裔なるぞ!)」


 美玲さんが俺から毛玉を奪い取って抱っこする。

 すっごい嫌がられてるけど、彼女も磯貝だぞ?

 血筋が薄いからかすぐには馴染めないようだ。


 ちなみに時間を渡る術はこのティンダロスの名犬ポチ(美玲さ命名)に意識を伝えれば勝手にしてくれるそうだ。


 そんなわけで、磯貝家に新たな家族が誕生した瞬間である。

 これからよろしくな、ポチ?


 俺は異世界の他に過去と未来まで行き来する能力を得た。


 エイジはなんとも言えない顔で死んだ筈の仲間達と再会し、若い状態での生活を余儀なくされた。

 一度歳食ったあと若返ると、変に達観してあれこれ無理が生じるらしいが、まあ頑張れ!


 エルフになった俺たちだってこれから長い年月を過ごす羽目になるんだ。たまに遊びにいくからさ、それで勘弁してくれよ。



 第一部・完

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ここまでお読みいただきありがとうございます。

これにてお持ち帰り召喚士磯貝は第一部完結という形になります。

早いもので連載開始から27日も経つんですね。感慨深いなあ。


10万字を目標に描き続けてきました本作。

気がつけばとっくに超えて20万字を超えてなおアイディアがポンポン湧いてきまして収拾がつかなくなったので一度風呂敷を畳もうかと思います。


まだまだやり残した部分もありますが、それも含めて第二部のネタがまとまり次第連載再開となります。


それまではしばらくは休憩時間をください。

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お持ち帰り召喚士磯貝〜転移スキルで自由気まま異世界つまみ食い生活〜 双葉鳴🐟 @mei-futaba

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