第10話 スキル暴露

岡戸の腕輪が気になったので話すを聞こうとしたところで城島さんが訝しんだ瞳を岡戸へと向けていた。

相変わらずメガネの奥の瞳が怪しく光る。


「岡戸君、それ。呪われてるわよ。吉田さん、解呪してあげて」

「え、なんで私がそのスキル持ってるって知ってるの?」

「私のスキル、鑑定なの。それ一本で生きてく自信がないから向こうにはいかなかったわ」

「そうなんだ。って言うか、バレされちゃった私の立場考えてよね!」


吉田さんは悔しげに言う。

彼女も城島さん同様、日常に戻ってきた組だった。

普段一緒に行動してるカーストトップ組から「そうなのか?」みたいな瞳を向けられている。

周囲が冒険者生活の過酷さを語っているそこへ『解呪』一本で食っていけるかと考えると怪しいもんな。

城島さんの理由もよくわかるけど、今度はその能力を利用する輩に狙われるんじゃ……とも思うわけで。


「はい、これで大丈夫だと思うわ」

「……うん」


岡戸はまだ重苦しい雰囲気のまま、ナターシャさんのことが気になっていた様だった。


「あれ、なんなんだろうね。幻惑と思考制限、思考誘導、隷属魔法が複数行使されてた後があったわよ。もうしかしてあのお姫様ってヤバい子だったりした?」


解呪を施した吉田さんがげんなりとした表情で腕輪にかけられた術式の中身を暴露する。


「エミリーさん? 多分磯貝君のスキルがなかったら私たち全員あの子のおもちゃにされていたと思うわ」


城島さんが恐ろしいことを述べた。

それも鑑定で調べた結果なの?

交換留学生の様にやってきたあの子の裏側にそんな意図があったなんて、流石の俺でも見抜けないぞ?


「じゃあ磯貝君のスキルはナイスな状況で発動したのね?」

「多分だけど間違いないわ。王国側は私たちのスキルを必死に探ろうとしていたもの。あの子に接近された子はスキルを丸裸にされたそうよ。ね、岡戸君?」


そうなのか、岡戸?

岡戸はただ答えず机に伏して項垂れたままである。


「多分岡戸君は真っ先に狙われたのね。あの国は魔法適性の高い相手を集めているみたいだったわ」

「そんなことまでわかるんだ。だから異世界に残らなかった?」

「ええ。私、命は大事にするタイプだもの」


それを今この場で言い渡された現地滞在組はゾッとした様に身を震わせた。


「じゃあ俺らのスキルがまるで相手にされなかったのって?」


カースト上位組の伊藤、田所、麻生が揃って声を上げる。


「剣聖、竜騎士、火炎騎士ならゴミみたいな扱い方されると思うわ」

「マジかー」

「ちょ、城島さん。知ってたんなら先に言ってくれたって」

「目を覚ますには身を以て体験してからのほうがいいと思ったの。実際にその能力でならやっていけると思ってたあなたたちに、王女様が怪しいから気をつけてと言って受け入れてくれたかしら?」


城島さんの言葉に、二の句を告げずにいる三人組。


「だから俺が突撃取材した時邪険にしたのな」


そこで満を辞してクソパパラッチの木村が参上する。

テメーネットに嘘八百書き込みやがって、ゼッテーゆるさねーからな!


「それより木村。お前、どうやって向こう側からこっちのネットに書き込みなんて離れ業やってのけたんだよ。おかげでこっちはひどい迷惑被ったんだぞ!」

「あーうるせーうるせー。こちとら帰還希望だったのに妄想拗らせて俺にあらぬ濡れ衣被せたの忘れてねーんだからな?」

「じゃあお前以外の誰が、俺の能力をネットに拡散したんだよ! お陰でうちのかーちゃん寝込んじまってるんだぞ!」


嘘だ。ネットの風評被害程度で落ち込むほど柔い人生を送っちゃいない。日々押しかけるマスコミを異世界送りにしてるおかげで転移のスキルレベルを上昇させるいい経験値稼ぎになっていたよ。

おかげで週に3回までなら向こうに転移できる様になってる。

みんなには内緒だけどな。


「それは本当に悪いと思ってる。でも俺がビッグになる為には尊い犠牲かなって……」


やっぱりお前が原因じゃねーか!


「まぁそこはいいよ。マスコミの対処法が確立できたからな。それで? 木村は向こうで何してたんだよ。配信? ネットに書き込みできるんならできてたと思うんだけどよ」

「詳しくは俺の口からはいえないが、あの国真っ黒だぜ。アーカイブ化したデータがネットにあるから詳しくはチャンネルを登録してくれい!」


こいつ、クラスメイトまでリスナーに仕立て上げるつもりか?

本当に転んでもタダじゃ起きないやつだ。


「そういや先生は?」

「あー、呼び出すのクラスメイトで設定してた。マスコミと先生はまだ向こうだ」

「磯貝君、それはそれで倫理的にどうなの? せめて先生だけでも連れ戻しなさいよ」

「へーい。いや、俺が直接飛べば色々巻き込むじゃん? もうあの国とは関わり合いになりたくないって気持ちが強くてさ」

「それはわかるけど、知り合いが亡くなってたらと思うとゾッとしないわ」

「まぁ『教室』転移にはまだストックがあるからいいけど。じゃあ桂木先生を教室に転移!」


俺がストックという言葉を放った直後、木村が興味深そうに俺を見たが無視。

そして昼間っから随分とお酒の回った泥酔気味でほとんど衣服を着ていないクラス担任の桂木先生が現れる。


どうやら随分と出来上がってる様だ。


「先生、昼間っから何してるんですか?」

「あれ? エルフのお姉さん達は?」

「ここ、教室ですから」

「クソ……戻すなら戻すって先に連絡くれよ!」


桂木先生は羞恥心に顔を染めつつ、俺に泣き言を浴びせた。

泣きたいのはこっちだぜ。中年男性の裸を見せつけられたんだからな。

心なしかクラスの女子からの視線が痛いのはきっと気のせいじゃないはずだ。

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