第45話 使わない場所の有効利用

久しぶりに下野と話して、他のクラスメイトは今どこで何をしてるんだろうと気になり、実家に顔を出す。

美玲は早速アルバイトに勤しみ、下野のところで世話になっている。


長い長い新婚旅行。

一体何ヶ月新婚気分を味わうつもりだとかどやしつけられるんだろうか? そう思っているととーちゃんからの第一声は。


「もう帰ってきたのか。もっとゆっくりしてていいんだぞ? 会社は軌道に乗ってるし、お前も仕事を頑張ってくれてる。あと百年は働かなくても食っていけるほどの蓄えはあるぞ?」

「稼ぎすぎだって」

「別に俺だって稼ごうと思って稼いでるわけじゃないんだぞ? 仕事が向こうからやってきるんだ。お前も迅速に事に当たってくるから、ひっきりなしに仕事が舞い込んでな? お陰で母さんに寂しい思いをさせてしまっているよ」


だなんて言って、夫婦仲は相変わらずいいからとーちゃんも隅におけない。

ちなみにかーちゃんはご近所さんと他愛のない会話で盛り上がっている。どこどこの誰と誰がお付き合いしてるとか、付き合ったけど長く続かなそうとか概ね余計なお世話な内容である。


「全然悲しんでないようだけど?」

「お陰でこの若い肉体をハッスルし損ねてるんだ。お前も美玲ちゃんとできなくなったら嫌だろ?」

「嫌だな」

「とにかく女子はメンタルが強いからな。定期的にイケメンを摂取してれば案外大丈夫らしい」

「それ、男として傷つくやつ……」

「ああ、だがそれを認めてやらんと器の小ささを責められるぞ。奥さんには知らんうちに我慢をさせてるからな。ところで美玲ちゃんは一緒じゃないのか?」

「息抜きにクラスメイトの構えたお店にアルバイトに行かせてる。女子同士でしかできない会話ってあるじゃん? 俺と一緒にいる時は嬉しそうにしてくれてるけど、とーちゃんが言うように我慢させてたかなーと思ってさ」

「そこに気づけたんなら父さんが言うことは何もないな。しかしクラスメイトか。実際のところ高校とかもう機能してないだろ?」


痛いところを突く。

地球から異世界に引っ越ししてからと言うものの、勉強の大半が意味を無くした。勉強をしていい成績を収めれば、いい会社に入れる。

その神話が死んでいるのだ。


今はスキルを自分のものにして、それで自立さえできれば一人前扱い。この惑星クラセリアで探索者としてダンジョン潜ってもいいし、うちの実家の会社『異世界トラベル』を利用して自分に合う世界に渡って生活するのもいい。


最終的には地球への帰還だけど、今だに白い塔は健在。

送りつけたドラゴンは魔力やマナが尽きて死滅したようだ。

やっぱりドラゴンでも過酷だったか、地球。


「それはともかく、せっかく地元に帰ってきたんだ。ゆっくりしていきなさい。こっちの事業もどんどんと発展してきてるぞ?」


事業。地球においての会社は電気以外のエネルギー【マナ】を用いて技術体系を変えていった。

とーちゃん曰く、車やバイクの魔力利用が実現。

蒸気機関車の代替えとしてモノレールなどが街のあちこちに通っている。

まるで近未来みたいな街並みだ。

空に取り付けられたレールも謎だが、そのうち空すら飛びかねない。


ファンタジーぶち壊しなんだけど!?

まぁ日本人の技術者に代替えエネルギー渡せばそうなるってのはわかってた事だ。下野ですらああだし。


「俺の通ってた学校ってまだあるのかな?」

「ないぞ」

「ないの!?」

「魔法の破壊技術は革新的でな。バリア? と言うので囲えば内側の衝撃は吸収できるらしい。生徒の通わなくなった校舎なんて不要だろうと実験の第一候補になってたな」

「ここの人たち物騒すぎだろ! って言うかスキルの応用力が高すぎる……」

「技術者なんてそんなもんだぞ? マッドなことに使わなきゃ比較的賛同は得られるからな。邪魔な施設を撤去して、新しい施設を作った方がここで暮らす人たちのためになるだろうってな? 若い子達程アトランザに行きたがるだろう?」


スキルだけでも十分だが、ゲームに親しんだもの達ほどステータス割り振りの人生に憧れがあるのだろうか、たしかにアトランザ行きの転移依頼は多かった。


「少し散歩でもしてきたらどうだ? いろいろ街並みも変わってきてる。ご近所さんはどこかに乗り出す気はないし、ここで暮らすのに適応してからはここに骨を埋めるつもりだぞ。地球に戻れたら戻りたいが、こっちの生活に慣れたらこっちも天国だしな。マナのない生活に耐えられそうもない」


とーちゃんの言い分が最もだった。

俺には美玲が居るからマナの減少による弱体化には困らない。

けど、マナの枯渇はエルフの死を意味する。


千年樹の実を食べることによってエルフ化したのは、千年樹の世話をさせるためだと言われている。

その恩恵として千年樹はマナを放出し、世界はマナに満ちている。

魔法を使うことでマナは消費され、そのマナを作る千年樹の数が多ければ多いほど産出量が多くなる。


そう言う意味では日本は島国でありながらマナの産出量世界一位の実績を誇っている。

その為か、操ってないのにダンジョンがぽこぽこ湧くこと湧くこと。


敵に飢えてる行為探索者にカモられて、次々に消滅させられていってるようだ。


なんか魔王だかなんだかの幹部を名乗る相手が出てきても中ボスだろうからとサクッと葬られていた。

日本人にその手の情報を与えたのは不味かったよね。

探索者のほとんどが元廃人ゲーマーで締められてる。

ゲームが現実に侵攻してきたと聞いたら大喜びで張り込むに決まってる。その上一匹倒してもまだいるはずだと張り込まれて、リスポーンキルの洗礼を受けたりとダンジョンの湧くタイミングは日増しに減っていった。


人間の適応力の高さは思っていた以上に高かったようだ。

とーちゃんもそうだが、もう地球に帰らなくてもいいんじゃね? って思ってる層が想像以上に多い感じ。


もどるべき高校も無くなったし、俺も奥さんのところに戻りますかね、と転移で惑星アトランザへと旅立った。

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