第54話 ハーレム勇者とモブ⑧

例の世界に向かうと、早速カモられたエイジ達を発見する。

一見して物乞いには見えないが、どうせ道案内と称して報酬狙いだろう。ああいうのが一定数湧く時点で国民の民度は低そうだ。


俺はそれを遠くから見守りつつ、屋台で買ったホットドックを頬張りながら木村へと連絡を入れた。


「お前今どこ?」

「牢屋」

「なーに捕まってるんですかねぇ。上位スペックでしょ、チミィ。俺TUEEE無双が呆れますよ」

「うるせぇ、非戦闘員の俺がソロで戦闘のプロに立ち向かえるとでも?」

「ビビリ乙」

「良いから早く助けろ」

「ま、お前に死なれちゃ俺も困る。助けるよ。でもまだ今は無理。どれぐらい持ちそう?」

「30秒」

「クソ短くて草」

「昨日の晩からだぞ? ひもじくて死ぬわ!」

「りょーかい。適当に宿取って拾うわ。少し待て」

「早くな? 昨日から晒し上げされてて辛いんだ」


知らん、自業自得だろ。

無言で通話を切った。

しかし、オーバースペックとはいえステータスを上回る相手を捕まえる手管が巧み過ぎる。この世界はステータスだけ強くたってダメみたいだな?

アトランザの下位互換とバカにしてたら痛い目見そうだ。


「おばちゃん、宿一泊。二名平気?」

「一人に見えるけど、もう一人は?」

「後から来るんだ。俺は先に場所取りでさ」

「そうかい、一人一泊銀貨一枚だよ」

「ずいぶんお高いね?」

「ウチは湯のサービスがつくからね。3食もつく。それならお得だろ?」

「普通はそういう余剰分は外すもんじゃない? サービスっつって」

「ここは冬は冷え込むからね。常連さんが多いんだよ。嫌なら別に泊まらなくったって良いさね」

「別に嫌だなんて言ってないだろ?」


手元から銀貨10枚をカウンターへ並べる。


「取り敢えず五泊。大丈夫?」

「こいつが部屋の鍵だよ。とはいえ、壁は薄い。ハッスルされたら丸聞こえだよ?」

「もう一人は男だよ」

「そっちの趣味なのかい?」

「ただの冒険者仲間だよ。これはチップ、余計は詮索はしないでくれると助かるね?」

「貰えるもん貰えばこっちも得は気にしないさ。あんた、分かってる客だね?」


渡したチップは銀貨。

一泊分損したが、この手の住人はゴシップに飢えている。

うちの近所もそうだが、人の下世話な話で盛り上がりたいらしい。

下町特有の風習というか、そういうのは人間がいる限り消えてなくなりはしないようだ。


鍵を投げて寄越され、キャッチ。

すぐに部屋へ乗り込み木村を召喚。

室内に裸の男が現れる。

オーノー。これは近所のゴシップ好きおばさま達の餌食になりかねん。

俺は嫌だぞ? こいつと噂が立つの。


「一度アトランザに帰すから、着替えてこい。飯はこれで足りるか?」


買い置きのホットドッグを渡すと、案の定わがままを言い出した。


「お前、数時間飲まず食わずの俺にこんなパサパサしたもん食わせるとか鬼か?」

「嫌なら別に食わなくて良いよ。じゃあ先にエール出すか?」

「下野の?」

「俺が下野以外のエールに靡くと思うか?」

「ないな」

「だろ?」


実際それで昨日ハメを外したのでこいつのSOSに気づかなかったのもある。これ、完全に俺が悪いやつじゃんね?


「ん? このホットドッグ意外にうまいじゃん。どこの?」

「表通りの赤い屋根の前に出してる露店で」

「非常に抽象的なイメージをありがとよ」


腹ごしらえを済ませ、木村を送り出す。

すぐに電波障害を起こすが、木村が居ないとこれが平常だ。

ネットワークがなきゃスマホなんてただの板切れ。

なんの役にも立ちやしない。


さて、エイジ達と合流しますかね。

向こうも今はメール打ってる暇もないだろ。

冒険者の斡旋ぐらいは融通してやっか。

宝払いで。ゲーム要素さえ満たせばあいつも稼ぐのもわけないだろ。

今はそれすらできずにカモられ続けてる。同じ……ではないが地球、日本の高校生として見ちゃいらんねぇよ。


「いよっ、エイジ。元気だった」

「アキラ……外に出てきていいのか?」

「あんま良くねぇな。俺からはちょいと伝言をな。と、またハーレム増やしたんか? お盛んだねー」


新しく増えてるメンツを見据え、茶化す。

もちろんエイジがそういうやつではないと知ってるが、これはポーズだ。エイジと知り合いだと相手に解らせればいい。


「誰よ貴方」

「こいつとは同郷でね」

「おい、アキラ」

「良いから、合わせろ。そこのに付き纏われてんだろ?」

「!」


ひそひそ話をしたら、わかりやすいくらいに顔に出る。

お前、ポーカー絶対やんなよ?

ギャンブルむかなすぎて将来性ないわ。


「エイジ、本当?」

「ああ、こいつと知り合いだというのは本当だ。エリーシャ、紹介するよ、アキラだ」

「ちっす、磯貝アキラって言うんだ。よろしくな、お嬢ちゃん」

「年下に見られるのは心外だわ。こう見えて私は18なんだから!」


ふむ。

俺は顎をさすり、本当かどうかエイジに視線で尋ねる。

しかし年齢を聞いたのは初めてみたいな態度になった。

はい、カモ決定、

こいつはケツの毛まで抜かれてようやく詐欺に騙されて怒りに震えるタイプだと判明した。


女の方も、こっちが先に目をつけたんだからねと言いたげだ。


「そっか、そりゃ失礼したレディ。しかしエリーシャさんだっけ?」

「ええ!」

「セイクリッド聖教院は下々への施しに賃金を求めることは原則禁止されてるはずだ。けれどあんたはエイジの彼女に嘘の提示をして取り入った。違うか?」

「ちょっと、適当言わないで!」

「適当じゃないんだなー、これが」


俺は酒場で仲良くなった生臭坊主からの紹介状と、商人としての身分証明書、ついでに冒険者としての立場を示すライセンスをテーブルの上に出した。


少女の目が驚きで丸くなる。そしてだんだん青くなっていく。

情勢が悪いと見たのかプルプル震え、若干泣き顔だ。

エイジがちょろかったから俺も騙せると踏んでいたようだ。

俺はそこまで甘くねーぜ? こう見えていくつもの世界を渡り歩いた男だからな!


「アキラ、これはどこで?」

「そりゃ堅実に足で稼いできたのよ」

「そうか……これが僕と君の差というわけか」


なに勝手に落ち込んでんのこいつ?

ここは助けてくれてありがとうって言うところでしょ。

これだから自意識過剰君はさー。


「こいつは俺の大事なダチだ。これ以上関わるんなら出るとこでたって良いぞ? 俺には手強いバックがいるんだ」

「チッ、あんたみたいなできる奴が居るなんて聞いてなかったわよ! バーーカ!!」


捨て台詞を吐いて、少女はエイジをターゲットにするのを諦めたようだ。ただ、それ以外にもマーキングされてるようだ。周囲から俺という強敵が現れたことによる警戒がされ始める。

どう見たってカモだもんなぁこいつら。

囮にするにしたって、ここでカモられてちゃ話が進みやしない。


「つーわけでお前ら、冒険者やんねぇ?」

「冒険者?」

「そ、初回限定で俺がサービスしてやるよ。まずなにをするにも金だろ? 金さえあればお前らでも平気だ。違うか?」

「ああ、でも。僕達だってその道は考えた。だが冒険者になるのにもお金が必要だ」

「それ、どこ情報だ?」

「え? 親切な冒険者が教えてくれて……まさか、違うのか?」


俺は肩をすくめて首を横に振った。

エイジや幼馴染、クラスメイト1号2号の表情が強張った。


こいつら揃いも揃って人が良すぎでしょ。

社会に出たらどうやって暮らすつもりだったの?

詐欺に騙されて路頭に迷う姿が見えんぜ。


「今回は俺が世話してやる。ただ、借金を背負う覚悟はしとけ。ギルドはそういうシステムもあるんだよ。奨学金制度みたいな、貧乏人にも冒険者になるチャンスをくれる制度がさ」


これは本当。

だが裏技中の裏技で、これを執行するのにはそれなりの立場からの推薦が必須だった。その推薦状を俺がかき集めてきた。

これで世話してやる形だ。


「その、ここまで世話してもらってなんて言ったら良いか……」

「あの、ありがとうございます。私、貴方のことずっと勘違いしていたようです」

「ええ、意外と紳士なのですわね。あなた」

「見直したぞ!」


こいつらはいちいち上から目線で話さなきゃ気が済まないのだろうか?

ま、手を貸すのはこれきりだ。

これ以上世話かかるようだったらさっさと元の世界に帰したほうがいいや。

囮をやってもらうにも、ある程度のスペックは必要だしな。

こんな時間稼ぎどころか世話しかかけない奴、居ないほうがいいまであるしな。

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