並行世界にやって来た!

第77話 交換留学生

「喜べ章。向こうとの話がついたぞ。交換留学という形でお互いに友好を深めようという事で決着がついたぞ」


家でくつろいでる俺に、藪から棒にとーちゃんが宣言する。

そう言えば並行世界の日本にデートしに行ってたもんな。

かーちゃんはちょくちょく帰ってきてたけど。

つーか、だいぶ掛かったよな。


エルフだとずいぶん騒がれただろうに。


「しかしこの姿は非常に目立つ!」

「だろうな」

「だからこういうものを用意した!」


テーブルに置かれたのはつけ耳だった。

エルフの特徴である長い耳の上に被せる事で、側から見ると人間の耳に見える様にしたらしい。

あとはカラースプレーとカラーコンタクト。

要はこれで日本人に戻れとのお達だ。


そんなわけで事情に詳しい俺と、美玲さんが交換留学生として選抜された。向こう側の代表は、何かの科学者らしい。

帰還方法は下野の次元門に任せとけばいいな。


俺はほら、学生生活で忙しいから。


◇◆◇◆


「そういう訳で今日から数ヶ月間、こちらで引き受けることになった磯貝君と笹島さんだ。彼らの事情は政府の方から強く圧力がかかっていて詳しく話せないが、交換留学という形で来ていただいた要人だ。くれぐれも失礼のない様にして欲しい」

「磯貝章だ。よろしくな!」

「笹島美玲です、皆さんお願いしますね?」

「言っとくけど美玲は俺のだから! ナンパ厳禁な?」

「もー、あっくんったら」


なんだよ、カップルかよと呆れた声がクラス中で湧き上がる。

女子からの声より、美玲さんに向けた残念そうな声が多いのはそういう事だ。俺はフツメンだからな。エルフ化しても、そんな変わんなかった悲しい事実は置いといて!


席に案内されてからも質問攻めにあったが、担任の教師が始業のベルがなるタイミングまで見計らって教室を出て行った。


とは言え、要人の割にあまりに一般人すぎる俺ら。

クラスの連中は高校三年生。

ここでは俺たちのおくれなかった高校三年生を過ごせるという条件で来ていた。


「磯貝君って何者なの? 政府から圧力かけられるなんてヤバくない?」

「実はとあるプランに一枚噛んでるんだよ。みんなは異世界って知ってるか?」

「は、それって小説とかアニメでの話だろ?」


俺の言葉にクラスの連中が困惑する。


「実はね、私達その異世界から来てるんだよ。あ、これ内緒ね」

「笹島産、その話が本当なの?」

「俺たちも異世界に行けるのか?」

「それは政府の発表次第かな? 俺たちはそれまで動けないんだ。ま、異世界に行ってたって証拠は見せられるぞ。美玲」

「うん、水の魔法とか」


美玲さんの手のひらから水がボール状になってシャボン玉の様に教室に浮き上がる。

その景色にクラスが震えるほどの騒ぎになった。


「うぉおおお!! 磯貝、お前も魔法使えんのか?」

「勿論、と言いたいが事業が先だ。放課後見せてやるよ」

「絶対だぞ!」

「任せとけ。でも学校行けなかったから、勉強教えてな?」

「それくらいなら、お安い御用よ」


そして授業を終えて、放課後。

俺の魔法を披露することになる。


「みろ! これが俺の魔法だ!」


俺の力の意思により、校庭が耕されていく。

だが、その微妙な能力に美玲さんの時の様なざわめきは起きなかった。


「……え、これだけか?」

「もっと派手なのは?」

「残念ながら俺の素質は土だけでな。もう一つはメタルソナー。なんか金属とかわかるぞ。あ、妖精も出せるぞ。見たい人」


はい、はーいと声が上がるので俺は満更でもないように頷き、そして召喚して見せれば……


「え、何これ?」

「コボルドだ」

「コボルドって犬だろ? どこに犬の要素が?」

「ただの手乗りおっさんやん」

「もふもふは? 俺のもふもふはどこに行ったぁーー!!」


突如暴徒と化したクラスメイト。

俺は襟を掴まれ、持ち上げられた。

ぐえー。


「ちょ、こいつ意外と役に立つんだって! な? コボルド?」

「ワンワン!」

「鳴き真似だけは犬に似てるのが地味にムカつくな」

「しかしそれ以外が全部アウトだ!」

「そんな事ないよ、あっくんはすごいもん」

「美玲、いいんだ。俺の凄さは美玲だけ知っててくれたら」

「うん」


残念な事に俺の魔法がクラスメイトの気を引くことはなかった。

そもそもスタイルで気を引けなかった時点で、終わりだったのに、アースシェイクとコボルド使役はトドメをさしただけだった。

正直、転移の方は政府から口止めされてるからな。

美玲さんも充填の方は口止め案件。

でもそれ以外が優秀だから持て囃されてるって訳だ。


学校が終われば帰りにコンビニに寄る。買い食いだ。

学校帰りの買い食いなんていつぶりだろうか?


「なんかこういうところ寄るのも久しぶりだな〜。異世界はもっと退化してるから」

「へ〜、そういう話もっと聞かせてよ」

「まぁ、俺にはそれしかないもんなー」

「異世界ってどんなところ?」

「お菓子奢ってくれたらいいぜ? 小遣いもらってるけど、上限あるから無駄遣い出来なくてさ」

「じゃあこれとこれでどうだ?」

「なんでもありがたいぜ。俺の知ってる世界と微妙に違うから楽しみだ」

「そうなのか?」

「おう。俺の世界だとゴリゴリ君のコーンポタージュ味とかあったけど、スルメ味は見なかったもんな」

「コーンポタージュ味のがねーよ!」


だ、なんて会話で盛り上がる。

正直人気はなかったぞ、コーンポタージュ。

スルメもねーっちゃねーけど、こういう違いもあるんだな。

似てる様でどこか違う日常に、ちょっとモニョる俺たちだった。

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