第5話 異世界再び

「先生! なんかレベル上がりました!」

「何!? どんなだ?」


先生より早く駆けつけたのは木村だった。またお前俺の情報を拡散する気だろう? そうは問屋が卸さないからな?


「落ち着けよ木村。早く日本に帰ってお前のチャンネルがどれだけバズったか確認したい気持ちもわかる。けど俺の新しいスキルはお前を選択から外すこともできるんだぜ? 口の聞き方には気をつけるんだな」

「磯貝、そうやってクラスメイトを脅すとは呆れたやつだな」

「先生だってあの規模のマスコミが自宅前に押しかければ俺の気持ちがわかりますよ。朝からカメラの音とインターホンの音がうるさくて近所迷惑も甚だしいし、かーちゃんなんてノイローゼになってましたよ。俺の情報をマスコミにリークしたのは情報拡散能力の高いこいつじゃないかって踏んでるんです」

「そんな事があったのか。お前の情報には幾度か助けられてるが、それをクラスメイトに向けちゃダメだろ。反省しなさい!」

「反省してまーす」

「ヨシ!」


ヨシじゃねーよ。全然反省の色が見えねーんだけど、そいつ。


「それよりも磯貝君、君の転移スキルは画期的だな! 僕はお前はやるやつだって思ってたよ!」


岡戸が調子の良いことを言っている。

魔法が使えるのがそんなに嬉しいか。そうか。


「じゃあ俺たちは一旦学校に帰るから、残りたい連中は手を挙げて」


クラスメイトの半分以上が手を挙げる。後先生も。

って先生もそっち側かよ!

さては岡戸と同じく魔法スキルとか手に入れてたクチだな?


「桂木先生ー、授業は?」

「これは仕方のないことなんだ」

「まぁ良いっすけど。じゃあまた来週来ますね。帰るかどうかはその時決めてください」


なんだかんだで、帰れる手段があるのなら異世界に俄然興味を抱く連中が多かったってことだ。よもやクラスメイトの殆どが異世界に残りたいというとは思いもしなかったぜ。


「磯貝、俺はもちろん帰るぜ?」


木村である。お前は帰ってもろくなことしないからダメ。


俺はルームの選択肢に『木村翔吾以外の日本に帰りたい学校関係者』『学校』を指定して学校跡地へと帰還した。


俺が即座に元の世界に帰るとは思ってもみなかったマスコミ達?

さぁ、それは俺の預かり知らぬことだし。好き勝手やった連中なんだし、少しは異世界で反省すれば良いんじゃないか?


なお、授業は担任の桂木が時大したので自習となった。

帰ってきたクラスメイト達は総じてハズレスキルを受け取った様で、俺の転移スキルをありがたがっていた。


「磯貝君って、やるときはやるんだね? 今まで同じクラスだったのに全然目立たなかったから意外」


帰還者の1人、笹島美玲は俺の席の右斜め後ろ。

普段ぼっちの俺に話しかけてくることなんてまずなかったのに、何度か転移スキルを使用したらこうして話しかけてくる様になった。


「あー、あんまり目立つの好きじゃないからね、俺」

「えー、そんなド派手なスキルもらっておいて?」

「それは俺の都合じゃないし」

「あはは、言えてるー」

「笹島さんは何もらったの?」

「え、それ聞いちゃうー?」

「俺にだけ聞いておいて隠すのはズルくない?」


ほぼ半分以上のクラスが異世界に残った為、教室は閑散としていた。

ここではパパラッチ紛いの木村もいなければ、不良の鮫島、カースト上位の金谷も不在。目立つ様な存在は総じて異世界に置いてきた。

居残りたいと挙手をしたので邪魔するやつはいなかった。


まさかこのスキルが俺に春を告げてくれるなんて思いもしなかった。

つって、距離が縮もうと恋人なんかになったわけでもなく、ただのクラスメイトからは脱却できてないんだけどさ。

ほんのちょっと、学校に楽しさが見出せた気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る