第33話 一夏の思い出
夏!
夏と言ったら海だろ!
プール? そんなのは既に行き飽きた。
と、言うわけで笹島さんを誘って海に来た。
地元は海に近くないので隣の県まで赴いた。
今じゃすっかり家族公認で、今日も作り過ぎてしまったお弁当を俺に分けるべく参上したところを海に誘ったのである。
「あたし、あんまりこういうとこ来ないから恥ずいんだよね」
人目を気にしてキョロキョロしてる笹島さんが可愛い。
「この人、俺の彼女です」つったら迷惑かな?
親公認とはいえ、俺から告白したわけでもなく、お互いにちょっと仲の良いクラスメイトの関係を保っている。
「大丈夫だって、俺なんて足ガックガクだぞ?」
なお、周囲から浮いてるのは彼女のみではなく俺の方もだ。
なんてったってこの現代日本でエルフ耳。
目立たない方が無理である。
例え木村の配信が全国区であると言ったって当然見ていない層も居る。と言うか休日海に来る層はまず配信なんかに興味はない。
きっとネットより現実を楽しんでるからな!(偏見)
「磯っち〜、それ説得力皆無なんだけど?」
「知ってる」
二人で恥ずかしがりながら貸し水着を選んで着る。
ちなみにかーちゃんから多めに小遣いを貰ってるので今日は豪遊予定である。
転移? 必要としない限り使う必要性はないな。
ダンジョンとかそういう危険なところでなら話は別だ。
だが現実でクソな所にはドンドン利用していこうと思う。
問題はこの人目だ。
これを避ける為になら躊躇わず俺は行使するだろう。
「笹島さん!」
「あっ」
腕を引く。そして人気の少ない場所へと転移した。
向こうの心音が腕を通して俺の方にも伝わってくる。
めっちゃドキドキしてるやん。俺もだけど。
つーか半分以上は俺のドキドキが占める。
「磯っち、余計目立ったんじゃない? めっちゃスマホ向けられたし」
つい先程のことだろうか?
なら気にする必要もないだろう。
エルフ化してるのは俺たちだけじゃない。
今はまだ、日本には少ないが一定数以上はいるんだ。
ならおっかなびっくりしてる方が返って目立つ。
「俺以上に目立つ奴を強制的に呼んだから大丈夫だ」
「磯っち以上に……誰?」
「木村」
「あー……」
当然木村もエルフなのでより注目されている。
しかしあいつは転んでもタダで起きる男ではない。
逆にその場で配信を始めて周囲の注目を金に変える様な行動を示すだろう。
今までなら他者でいられたパパラッチがが、一転して自分たちが注目を浴びるとしたら? そう、プライバシーの侵害を訴えるに違いない。先程までの自分を棚に上げてな。
「ってわけで俺たちは楽しもうぜ。さっきパラソル借りてきたんだ」
なお、一旦その場に放置したパラソルを転移で取り寄せてから設置した。持ち込んだシートを敷き、ちょっと小休止。
せっかくに海に来たのに、すぐに海に入らないのは単純に海の中に魔物が潜んでいるらしいとの噂があるからだ。
木村ならこのチャンスを逃す筈はないと踏んでいる。
「せっかく海に連れてきてくれたのに、海に入れなくて残念だね?」
「そうでもないよ」
今、めっちゃ楽しいし。
それに笹島さんの水着姿も見れたしな。
今ではプールの授業も男子と女子で分かれてる為、こうやって女子の水着姿を拝むことってないのだ。
それを言ったら笹島さんもなんだけど、なぜかそっぽを向かれてしまってる。照れてるのかな?
「磯っち、意外と筋肉あるんだね?」
「え、そうかな?」
クラス男子の基準では平均くらいだとは思ってるが、女子から見たら多少はあるのかも?
俺も笹島さんの水着姿にドキドキだ。
こう、前屈みにならざるを得ないというかね?
察してください。
もしここに吉田さんもいたなら、俺は二度と立ち上がることはできなかっただろう。そんな事を考えていると、少しムッとした笹島さんが俺の横顔を覗いている。
「ちょっと磯っち〜? 今他の子のこと考えてたでしょ?」
「そんな事ないよ?」
「目が泳いでるんですけどー?」
鋭い!
確かに笹島さんと居るのに他の女子のことを想像するのは失礼だよな。それもデート先でやることじゃないと反省する。
そしてせっかく海に来たのに海に浸れないんじゃ寂しいと、海の中から該当する存在を異世界に転移させて浅瀬を楽しんだ。
「磯っち、スキルに頼りすぎ〜」
「笹島さんこそ、結構垂れ流しだよね?」
「その言い方やめてよー。気にしてるんだからね?」
ポカポカと叩かれた。
痛くはない、けれど痛がれば満足する。
どうだ、参ったかと言いたげに踏ん反り返る姿も可愛い。
なんなのこの可愛い生き物は?
マッサージの時も感じたけど力があんまりないのも好感が持てる。
別に非力な女子が好きとかってわけでもないが、なんとなく?
そんな楽しいひとときはあっという間に過ぎ去り、他愛もないやりとりが思い出に加わった。
海から地元に帰ればそこはエルフの里かと言わんばかりにエルフが溢れかえっている。と言うよりは学校が近いので部活帰りの学生がほとんどだ。
「なんか帰ってきたーって感じするよね?」
「だなぁ」
「やっぱりこの見た目が目立ちすぎるんだよね。奇異の目? ってなんか嫌」
「慣れろ、っていうのも違うしね」
「うん。じゃああたしの家こっちだから」
「送るよ」
「いいの?」
駅で別れようとする笹島さんを引き留め、俺は家の前まで彼女を送った。
毎日通ってくるからてっきり近いのかと思ってたけど、家の真反対じゃん?
まさかそのことをすられたくなくて帰ろうとしてた?
だとしたらちょっと傷つくなー。言ってくれれば全然送るのに。
「今度から一緒に通う?」
「えっと……いいの?」
「準備できたらメールくれれば家の前に
「あの、じゃあお願いしようかな?」
「よろしく!」
そう言って笹島さんの自宅前を転移先に追加して俺は帰宅する。
もちろん家に入るのを見届けてからな。
ただ、かーちゃんから貰った大金はほとんど使うことはなかった。
高校生が豪遊するには大金すぎたんだ。
つーかほぼ転移でショートカットしたからあまり使わなかったと言うのが本音である。
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