第81話 ダンジョン内通貨

「チケット一枚、いや二枚くれ!」

「こっちは初級ポーションを二本だ」

「はいはい、毎度」

「大好評だね、あっくん」

「そりゃそうだ。誰だって先の見えないダンジョンでは真っ先に身の安全を確保するもんだ」


両手を上げて喜ぶ美玲さんに、俺は得意げに鼻を伸ばす。

が、喜んでばかりもいられない。

その理由は、俺の店でしか使えない通貨を流通させた問題にある。


これの価値は単にこの店でしか使えないという他に、ダンジョン協会や日本政府に対する宣戦布告。

というのも、この通貨に税金はかからないという点にある。

何とかして住民からの稼ぎを掠め取りたい政府はこのダンジョン貨幣の登場には頭を悩ませていた。

なんせ生活費以外はこれに変えてしまえばいいからだ。

銀行も入らず、盗んでもシーカー以外には何の価値もない。

ダンジョン内でしか使えないので一般人にはただのゴミクズ。


しかしシーカーにとっては値千金の価値がある。

ダンジョン協会からは違法スレスレのグレーゾーンだと言われたが、俺は営業時間を縛ることで協会の売り上げに貢献した。


「それにしても専用の通貨なんてよく考えたね?」

「このアイディアは下野の提案だよ。俺達が稼いでもこっちの世界に税金持ってかれるのって面白くないよなって」

「それもそっか。今はこっちに住んでないもんね」


そう、並行世界の住民でもやっていけると分かってからはクラセリアに帰還して、そこからダンジョンに直通に転移していた。


協会でも取得したアイテムをお金に換金する仕組みはできつつあるが、今はまだ魔石にのみに偏っている。

新たなレアメタルの発掘にも興味は向けられるが、それ以外への興味は薄い。

シーカーとしては全ての取得物に等しく価値をつけて欲しいのだ。

そこに目をつけた俺がやってきたというわけだ。


協会ではゴミと判断されたものの中にはモンスターのイラストが描かれたカードと言うものがある。

詳しい用途は不明だが、その場で破ると封じ込められた特定のステータスが一分間付与されるというものだ。

なんのためにあるのかわからぬが、一分間得られる僅かな恩恵より、レベルの上昇で上がる永続ステータスの方が価値があるとしてシーカーからもゴミクズのように扱われていた。


俺はそれを専用通貨で買い取ることで、新人シーカーの背中を押してるわけである。

モンスターのドロップのうち、カードは40%。

魔石に至っては5%。

換金率は後者の方が高いが、カードによって得られる効果はバカにできないものがある。


レベルが簡単に上がる時は見向きもされないが、これはきっとレベルアップが遠くなったときに喉から手が出るものに違いない。

その前に買い占めようって腹づもりだ。


それ以前に下野も興味を持ったようで、別件で依頼を受けていた。

持っていけばエールのストックを補充してくれる。

流石に飲んだ分のエールは美玲さんでも充填できない。

出来ないよな? にこにこと返されたので多分出来ないんだと思う。


そしてバカに出来ないカードの上昇効果。

今現在確認されてるのはグレーの一種。

それで+1と言うことは、他の色で+2、またはステータス二種が+1の可能性もあるのだ。


カードは1枚500Is。

なお、MP充電機付きスマホ+チケットの値段は500万Is〜とお高くなっているが、それのあるなしで安心度が段違いである。

Isはうちの貨幣の通称な? 磯貝だからIs。

わかりやすいくらいでいいんだよ。側がエルフだからそれっぽい謎の単位だと思われてっけど、それ造語だから。


カードだけで購入するなら1万枚。

不可能ではないが、駆け出しには遠い道のり。

それでも買い取ってくれるのはウチくらいなので、渋々交換していくのだ。


まぁそれ以外にも異世界の武器やらポーションやら置いているので損はしないぞ? 

その分ズブズブにうちの世話になってくってわけだ。

上得意様になってくれればいいが、大体は魔石回収に奔走していく。

カード回収班は俺の仕事になりつつあった。

まあ“カウンター転移”をカードに設定しておけば勝手に回収されるんだけどな。


そんなボロ儲けしてる俺の売り場へ、意気揚々とスキップしてくる男がいた。


「いっそがいくーん」


誰であろう、田中である。

高校最後の三年生時代を共に過ごした生徒で、俺にゴリゴリ君スルメ味を奢って親友ポジションとして居座った男。

それ以外にもあるが、兎にも角にも俺のところに来るたびに親友割引で購入して稼ぎを蓄えてるって噂の新進気鋭のシーカーだ。

高校卒業から二週間ばかりでFランクからDランクまで駆け上がった腕前を持つ。

そんな男がまた値引き交渉か?


「よう、田中。最近羽振りがいいそうじゃないか。たまには値切らずに定額で買い物してってくれよ。そっちはいつまでも友情値段で他のシーカーに示しがつかんだろ?」

「ちょっ、俺と磯貝の仲じゃねーか」

「ゴリゴリくん奢ってもらった程度の、な? それを知ったら他のシーカーは誰でも友達になりにくると思うが?」

「ちょ、それは言わない約束!」


その話を真に受けたシーカー達がそうなのか? と田中に熱視線を寄せる。良かったじゃないか、モテモテで。

俺にたかるバチが当たったんだ、と連れ去られていく田中を見送り、重い腰を上げる。


「それじゃ、休憩時間の立て札かけておくね?」

「おう、じゃあいっちょ行きますか!」


どこへ?

それは勿論、採掘だ。

せっかくダンジョンに来てるんだからな。

ダンジョンの壁はレアメタルの方子なのだ。

ダンジョン協会は見向きもしないので、人目につかないところでこっそりする必要がある。どうせ昼前は客足が遠のくからな。

こっちも暇だし都合がいいのだ。


レアメタルは下野が高く買い取ってくれる。

お互いにWin-Winなのだ。

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