第65話 自由時間④

小腹を満たしに冒険者ギルドに併設されている酒場へと寄ると、そこで妙な噂を聞くことになる。


それが“モンスターパレード”が近隣で起こる予兆を示す報告書の張り出し。丁度俺達の向かった先もその範囲に含まれた。

厳戒態勢が敷かれるとの事で、遠征中の冒険者への呼び出しが声かけされていた。


「なんだか大変な現場に居合わせてたんだなぁ、俺ら?」


他人事の様にガガーランが肉を頬張りつつ口を開く。


「本当にね」


リサもどこか他人事だ。冒険者ってもっと他人との連携を尊ぶものだと思っていたんだが、顔見知り以外にかける情は案外薄いのか?


「道理でやたらと上位のモンスターと出くわすわけだわ」


オリヴィアも出会ってきたモンスターの豊富さに辟易しつつ、サラダを頬張る。逆に今から納品額が楽しみだわと皮算用を始めていた。


「これ、アークさんが僕たちのパーティにいなかったらと思うとゾッとしますね」


コルトも俺が居て良かったと思う反面で、それ以外にはご愁傷様と言わんばかりにナッツを口に運んでいた。

なんて薄情な奴らだ、と思いつつ俺も下野特製エールで喉を潤す。

現地のエール? 飲めたもんじゃないわ。


まぁ俺も情で動かされる時は多分にあるが、こちらの世界の問題はこちらの世界の人間に解決してもらいたい限りではある。

以前良かれと思って助けた奴らが手のひらクルーで粘着してきた時は流石に殺意を覚えたからな。

それ以降頼られても依頼でのみ受け付ける様にしてる。

人間味を占めると強欲になるからな。今回も別件で仕事を受けない限りは動く気はない。

最悪モンスターの方をどこかに避難するくらいはしてやるが、労働に対して割りに合わないんだよなぁ。


そこは勇者君の出番でしょ。良かったじゃん? 世界に売名する事件が起きて。俺はこのパーティで悠々自適させて貰うわ。


上位の冒険者が呼びかけられる横で俺たちはどこか自分本位で行動し、一部を換金しながらギルド側に直接納品を送り届ける手続きをする事にした。俺はが逐一ギルドに持って行ってもいいが、楽を覚えたあいつらが俺のオート防衛システムを手放すとも思えん。

それに俺の周囲のどのくらいまで効果が適用するかの検証もあるので、あまり離れられないというのもあるんだ。

ちなみに半径500メートル離れていても余裕で効果があった。


流石に街から現地まで250kmはあるのでそこまで有効範囲は広げられないが、どこまで効果が通用するかの検証用に設定を書き換える。


パーティメンバーの部分を冒険者ギルドエクステバル王国城下町支部メンバー一同に書き直して実験開始。

メンバーなら問答無用で今回に限り無双できるってわけだ。

転移のメリットはガガーランのパーティ『ガーランド』しか受けられないが、カウンター転移の効果範囲をこれで知ることができる。

そもそも俺の雇用条件はそこだしな。


一つは道具屋前、ひとつは酒場前。もう一つはどこにしようか? が今の酒の肴としての話題か。

転移は“狩場”からの直通で、適用者は俺と『ガーランド』のみ。

薄情な彼らが最後の一つをどう役立てるか見ものである。


そこでエイジ達と出くわすが、彼らもパーティと一緒にいる俺を見てどこか懐かしさを覚える一方で、同時に邪魔しちゃいけないと気を遣ってくれたのか見て見ぬふりをしてくれた。

なんか知らんが周囲の取り巻きの人数増えてない?

幼馴染の他にクラスメイト1、2。

後何故かこの国の王女様まで引き連れている。


と、その王女様が冒険者達に伝令をしていた。

どうやら今回のモンスターパレードは国にとっても非常に迷惑だという事で、解決に赴いてくれたパーティには国から報酬が出る様だ。

そして大物を討伐するメンバーとして紹介されたのがエイジ達。


彼らは異世界から呼び出した勇者で、普段は住民として振る舞っているが緊急時にはその力を振る舞うとの約束が交わされていたそうだ。


え、俺聞いてないよ?

まぁ脱走犯だしここに長居する気もないし無償で働くのはちょっとな。

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