第39話 元Sランク冒険者と削り合う
また間が開いて申し訳ありません。少しずつ執筆していますのでよろしくお願いします。
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「……王都の冒険者の名誉のために、戦うって言うのか?」
俺はメルフィウスの方に向き直った。
「残念だが、今から俺を倒したところで、それが回復されるとは思えないな。俺はたまたま年長だったからパーティーのリーダーってことになってるが、実態はこの前やっとCランクに昇進したばかりの、万年Dランクの落ちこぼれでね。ちなみにあの弓使いの女はSランク、もう一人はこの前冒険者になったばっかりなのに、もうDランクまで昇進した有望株だ。これだけ言えば、どっちがパーティーの
「何が言いてえ?」
「お前はあの二人から逃げた。その時点で、名誉回復できる希望もなくなったんだよ。俺みたいな落ちこぼれ一人やっつけて粋がったところで、誰も認めてはくれないぞ。お前はこれ以上、何のために戦うつもりだ?」
「…………」
メルフィウスは、何かを考えている様子だった。彼も本気で王都の冒険者の名誉を心配しているわけではないだろう。そういうことを気にするなら、そもそも当主の意向に背いて俺達を攻撃するような無法を働くはずがない。
なので、俺の説得に心を動かす可能性は低いわけだが、できることなら、これ以上やり合わずに終わらせたい。わずかな望みに賭け、俺はあえて自分を
さあどうする、メルフィウス?
しばらくして、答えは返ってきた。
「うるせえ」
「…………」
「ゴチャゴチャゴチャゴチャ、
「!?」
思いがけないことを聞き、俺は耳を疑った。俺がフガフガ家の警備隊幹部になる? どこからそんな話が出た?
「お前、誰からそんな話を……?」
「大人しく帰ってりゃ、痛い目見ないで済んだのによ……もうこうなったら仕方がねえ! 俺も罰を受けるかも知れねえが、てめえも道連れだ! 木っ端微塵の肉片にしてやる!」
メルフィウスは金属製の籠手を取り出すと、両手にはめた。あれもオリハルコン製か。そして彼は、魔力をどんどん高めていく。
「はああああああああああああぁっ! 行くぞ!!」
勢いを付けて突っ込んでくるメルフィウス。残念だが、話し合いはここまでか。どうしてもやり合わなくてはならないようだ。相手は“俊敏”の適性持ちなので、逃げようにも逃げ切れない。
「
俺は魔法を発動させた。次の瞬間、目の前に迫ったメルフィウスが右拳を放つ。
「
ドガッッ!!
拳が腹に当たり、俺は後ろに吹き飛ばされた。そのまま俺の体は水平に飛び、木を何本か薙ぎ倒して地面に転がる。
「…………」
「確かに硬いな。評判通り、生き残ることだけは上手じゃねえか。だが、てめえにできるのはそれだけだ。あの女やガキがいない限り、てめえ一人じゃどうやっても俺にダメージを与えることはできねえ」
「…………」
「まだあるぜ。てめえのその硬さも、いつまでもは続かねえ。打撃を受けるたびに魔力を消耗するはずだ。いずれ魔力が尽きれば、てめえの体は生身に戻る。そうなれば俺の拳で、てめえは粉々だ。つまり、俺が勝つのは時間の問題で、てめえの敗北は約束されてるってわけだ」
「そうか……」
俺はもう一度、
「おらおらっ! おらおらおらっ!」
ドガガッ! ドがガガガがガガガッ!
俺を木の幹に押し付けた状態で、メルフィウスは拳を乱打した。一発一発は、最初の一撃ほどの重さではない。かなり手加減している。
強めに殴ると、一発撃つたびに俺がどこかに吹き飛んでしまい、追わなくてはならない。それが面倒なのだろう。俺を木に固定して、その木が折れない程度の力で殴れば、移動せずに済むというわけだ。
「おらおらっ! どうした!? 生き残るだけの雑魚野郎! 反撃してみやがれ!」
もちろん俺は、何の反応も示さない。
「言っとくが、俺の魔力切れを期待するなよ! 王都のエリートである俺の魔力量は、田舎の落ちこぼれのてめえよりずっと多いんだ! こうやって魔力を削り合ってりゃ、必ずてめえの方が先に尽きるんだよ!」
そうだ。その通りだ。お前の取っている戦法は正しいよ、メルフィウス。一撃ではどうやっても倒せない俺を葬るのに、実に合理的なやり方だ。
まあ、それでもお前は、俺を倒し切れずに負けるんだけどな。
メルフィウスは二つ、思い違いをしていた。
確かに、俺一人でメルフィウスにダメージを与えるのは難しいだろう。だが、この場にいるのは俺一人ではない。俺のほかにもう一人、メルフィウス、お前がいる。
そしてもう一つ。メルフィウスはこの戦いを、魔力の削り合いだと思い込んでいる。もしそうなら俺に勝ち目はないところだが、実際は違うのだ。
「おらおらおらっ! どうだ!? この生き残るだけの無能野郎め!」
ドガガガッ! ドガガガガガガッ!
さあメルフィウス、俺の魔力を削れ。
俺はお前の、心を削る。
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