第25話 そのまま一緒に寝ることに……

「お前、女だったのかよ!」


 慌てふためく俺に向かって、チウニサは不思議そうに言った。


「えっ? そうですけど……もしかして師匠、僕のこと男だと思ってたんですか?」

「そ、そりゃあ、そんな髪型だし、服装も男っぽかったし……それにその……む、胸だって、服着てるときは全然……」

「ああ、これですか? 最近育ち過ぎちゃって……動くのに邪魔だから、いつもは布を巻いて押さえてるんです」


 そう言うと、むき出しのままの胸を見下ろすチウニサ。俺はそっちを見ないようにして言った。


「そうだったのか……でもお前、昼間言ってたよな? 付き合ってもいない男女が一緒に住むなんて、頭沸いてるって……」

「はい。言いました」

「だったら……俺もここにいるわけには行かないな。一応、男と女だし……」

「そんな! 師匠と弟子なら話は別ですよ!」

「えっ……?」

「師匠と弟子だったら、一緒に住んでも、おっぱい揉んだりしても、全然普通のことです! 気にすることありません!」

「…………」


 どうやら、俺の思う“普通”とチウニサが考える“普通”にはズレがあるようだった。ここはやはり師匠として、一言言っておかないといけないだろう。


「いや、それは違うぞ」

「はあ?」

「たとえ師匠と弟子でも、男と女だ。お前が言う通り、節度は守らないといけない。一緒に住むとか……増して胸を触るなんてもってのほかだ。さっきのは俺が悪かった」

「…………」

「今日は、俺は外で寝る。お前はこのまま、ここで休むといい。じゃあ、また明日な」


 そう言って、俺は体を起こし、ベッドを出ようとした。だがそのとき、チウニサが泣いているのに気付く。


「ひっく……えぐっ……」

「お、お前……」

「心細いって言ったのに……同じベッドで寝てくれるって言ったのに……」

「ううっ……」

「師匠、僕が女だから約束守ってくれないんですか? 男じゃなきゃ、師匠と約束もできないんですか……?」


 俺の顔をまっすぐ見て、涙をボロボロ流すチウニサ。言われてみれば……俺は自分の行動を振り返った。


 本当に男か疑問に思うことはあったし、確かめる機会はいくらでもあった。俺がそれとなくたずねれば、チウニサは正直に自分の性別を答えただろう。その手間を惜しんで同じ部屋に泊まることにしてしまったのは、俺のミスか……


「済まない。俺が間違ってた」

「えっ……?」

「お前が男か女か確かめなかったのは、俺に非がある。それなのに一方的に約束を破るなんて、勝手な話だよな」

「師匠……」

「約束通り、今夜は一緒に寝よう」

「本当、ですか……?」

「ああ……」

「わーい!」


 一瞬で泣き止んだチウニサは、俺に抱きついてきた。上半身裸のままで。


「うわああああああぁ!」


 そのままベッドに押し倒される俺。しかしもう逃げるわけに行かない。諦めて横になると、チウニサは上におおいかぶさってきた。


「師匠ーっ!」

「お、おい! くっつき過ぎだって! それにランプも消さないと……」

「はーい」


 ランプを消すために、チウニサは一度離れていく。とりあえずは一件落着か。俺はベッドに横たわり、ため息をついた。


「ふうっ……」


 そう言えば……一緒に温泉入るとかも約束しちまったぞ。さすがにあっちは勘弁してもらえるよな……?


 ☆


 明け方。激しく戸の叩かれる音で、俺達は目を覚ました。


 ドンドンドン! ドンドンドン!


『ブイルさん、起きてますか!? 迎えに来ましたよ!』


 ポレリーヌの声だった。まだ夜も明け切っていないというのに、俺を引き取りに来たらしい。体を起こそうとすると、チウニサに止められた。


「僕が出てきます。師匠は寝ていてください」

「あ、ああ……」


 シャツを着てドアを開けたチウニサは、ポレリーヌに言った。


「師匠はまだお休みです。あと3年ぐらいしたら来てください」

「3年も寝てるわけないじゃないですか! いいからさっさとブイルさんを……って、え!? お、女!?」


 チウニサの胸元を見たのだろう。ポレリーヌの驚く声が響き渡った。


 ☆


「……そういうわけで、女の子だったらしい」


 部屋に入り、椅子に座ったポレリーヌ。俺はベッドに腰かけて事情を説明した。ポレリーヌは無表情で聞いていたが、やがてぽつりと言う。


「最低……」

「えっ……?」

「つまり、ブイルさんを騙してまんまと部屋に誘ったってことですよね? このメスガキは」

「いや別に、騙されたわけじゃ……」

「そうです、騙してません! 誰が男だって言いましたか?」

「ブイルさん、このメスガキに何か変なことされませんでしたか!?」

「何もしてません!」


 俺が答えるより先に、チウニサが叫んだ。


「おっぱいなら師匠に揉まれましたけど、合意なので問題ないです!」

「お、おい……」

「なっ!?」


 焦る俺。ポレリーヌは表情を凍りつかせた。


「うそ……なんで……!? 私はまだなのに……」


 ポレリーヌは立ち上がり、俺に詰め寄ってくる。そこへチウニサが立ちふさがった。


「ゴリラ女さん! 師匠を喰い殺さないでください!」

「はあ!? 何を言って……」

「だっていつも師匠のこと、獲物を狙うモンスターみたいな目つきで後ろから見てるじゃないですか。いつ師匠が食べられちゃうかって、僕、心配で心配で……」

「殺すわよ、このメスガキ!」

「待て待て! その辺で……」


 俺は慌てて割って入った。何とか二人には、仲良くやってほしいのだが……

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