第24話 チウニサの適性と、夜中にヤバいものに触れた件

 俺達は必要なものを一通り買いそろえ、長屋の部屋に運び込んだ。まだ夕食には早かったので、ギルドの裏の広場に行って修練を行うことにする。これからは、自分の鍛錬だけではない。師匠を引き受けたからには、チウニサに稽古を付けてやる必要がある。


 修練を始める前に、俺はチウニサにたずねた。


「そう言えば、お前の適性って何なんだ? やっぱり剣術か?」

「いいえ。僕の適性は“魔力量”なんです」

「“魔力量”……? それって、魔力が人より多いってことか?」

「はい……お見せしましょうか?」

「ああ、そうだな。頼む」

「じゃあ、ちょっと離れててください」

「ああ……」


 言われた通り、俺とポレリーヌは下がってチウニサから距離を取った。チウニサは一度目を閉じると、2、3回呼吸してから目を見開き、気合を入れる。


「はあっ!」


 すぐに、チウニサの体内で魔力が高まっていくのが感じられた。普通の上昇ではない。明らかに異常で、爆発的な高まりだ。


「うおっ!?」


 思わず声を上げてしまった。そのうちに、チウニサの体が光を帯び始める。あまりに強い魔力は光として見えると聞いたことはあったが、実際に目にするのは初めてだった。


「くっ……」


 強過ぎる魔力の圧力を受け、体を吹き飛ばされそうになる。横目で見ると、ポレリーヌも嫌そうな顔をしていた。広場には俺達以外の冒険者も何人かいたが、遠くからでも凶悪な雰囲気が感じ取れたのだろう。早々に逃げ散っていた。


 しばらくして、光は収まった。同時にチウニサの魔力が下がっていく。やがて元の状態に戻ると、チウニサは肩で息をした。


「はあっ、はあっ……」

「大丈夫か?」


 かなり体力を消耗したのだろう。声をかけると、チウニサはうなずく。


「はい、大丈夫です……見てもらえましたか?」

「ああ、見たぞ。すごい魔力じゃないか。それだけ魔力があれば、どんな魔法を使ってもかなりの威力に……」


 そこまで言ってから、ふと疑問に思った。これほどの魔力を持っていながら、チウニサはどうして剣術で登録試験を受けていたのだろうか。剣術を選ばず、何かの魔法で試験を受けていれば、ゴールガングに打ちのめされることもなかったのに。


 俺の心を見透かしたかのように、チウニサは言った。


「僕、魔力は多くても制御が駄目なんです。何か魔法を使おうとすると、いつも魔力が暴走してしまって回りが大変なことに……それで、剣術で試験を受けました」

「そうだったのか……」


 どうやらチウニサも、俺と同じく適性のせいで苦労しているらしい。その日は剣術の稽古だけをして、俺達は修練を終えた。


 ☆


 夕食をとった俺達は長屋に戻る。それぞれの部屋に分かれて休む前に、ポレリーヌが念を押してきた。


「一晩だけですよ。本当に一晩だけですからね? 明日になったら、ちゃんとこっちに戻ってきてくださいよ、ブイルさん」

「あ、ああ……分かってるよ」


 俺がうなずいて見せると、ポレリーヌはチウニサをにらみつけてから自分の部屋に入った。一方チウニサはというと、ポレリーヌを気にする様子は全くなく、俺の手を取って自分の部屋に引っ張っていく。


「さあさあ、どうぞ、師匠」

「おいおい。そんなに引っ張らなくてもちゃんと入るって」


 中に入ってドアを閉めると、チウニサは言った。


「あの……僕、村から出て来たばっかりで、すっごく心細くて死にそうなんで、師匠と同じベッドで寝てもいいですか?」

「えっ……?」


 そこまで頼りにしてくれているのか。甘えられるのはあまり柄ではないが、俺も人の子だ。慕われて悪い気はしない。


「あ、ああ、いいぞ……」

「やったあ! じゃあ僕、服脱いでから行きますから、師匠は先にベッドで寝て待っててください」

「あ、ああ……」


 言われるまま、先にベッドに横たわって待つ。何だ、この状況……?


 これで相手が女性だったら、間違いなくいかがわしいことになりそうな雰囲気である。まあ、相手は男だからそういうことはないが……


 目を閉じていると、シュルシュルという衣ずれの音が聞こえてくる。チウニサが服を脱いでいるのだ。それが終わると、ランプの灯りが消される気配がした。目を開けると、暗がりの中でチウニサがベッドに入ってくる。


「お前も、適性のおかげで大変だな……」

「ええ……でも、冒険者になるのが憧れでしたから。再試験を受けさせてもらって、師匠には感謝しています」

「別に、大したことはしてないがな……」

「いつか、僕の産まれた村に来てください。温泉がありますから、そこでおもてなししますよ。一緒に入りましょう」

「そうか……それは楽しみだ」


 そんな話をしているうちに、俺達は眠りに落ちた。


 ☆


「…………」


 夜中にふと、俺は目を覚ました。何だか寝苦しい。


 暗くてよく分からないが、右側からチウニサがおおいかぶさってきているらしい。その体重のせいで寝苦しいのだ。


 さすがにくっつき過ぎだろう。俺は左手を動かし、チウニサの体をおしのけようとした。その瞬間、てのひらに異様な感触を覚える。


 むにっ


「……?」


 なんだろう? ずいぶん柔らかい。寝ぼけまなこではっきりしない頭のまま触っていると、チウニサが目を覚ました。


「あっ……師匠……」

「え……あ……その……」

「いいですよ……どうぞ……」


 何がいいんだろうか? そんな風に思ううちに、少しずつ頭がはっきりしてくる。今、俺は何を触っているのか。この位置、もしかして……


 ようやく察しが付いた俺は、次の瞬間、大声を上げていた。


「うわあああああああぁ!」

「師匠!? 大丈夫ですか!?」


 チウニサは飛び起きると、ベッドを出てランプをつけた。そしてこっちに戻ってくる。


「師匠、どうしたんですか!?」

「…………」


 ランプの光の中に、チウニサの、何も着けていない上半身が浮かび上がっている。胸には俺が予想していなかった、しかもかなりの大きさのものが左右に二つ、しっかりと付いていた。


「お、お、お、お前……」

「師匠?」

「お前、女だったのかよ!」

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