第4話 冒険者ギルドに戻って報告する

 ダンジョンの入口を抜けて地上に出ると、夕闇が迫っていた。俺達はその足でジルデンの町に向かう。着いたときにはすっかり夜になっていた。


 かなり遅い時間だったが、俺達は冒険者ギルドを訪れた。信じてもらえるかどうかは別にして、起きたことは報告しないといけない。


 俺達がギルドの建物に入るやいなや、夜勤の受付嬢が血相を変えて立ち上がった。


「ポレリーヌさん! ご無事だったんですかっ!?」

「どういうことだ……?」


 受付嬢の話によると、数時間前にポレリーヌのパーティーのメンバーが帰ってきたらしい。彼らは、『自分達が止めるのを聞かずに突っ込んだポレリーヌがラーヴァドラゴンに殺されたので、仕方なく引き揚げてきた』とギルドに報告していたのだ。


「そいつらの話は嘘だ。現にこうやって、ポレリーヌが生きているんだからな。パーティーのメンバーが怪我したポレリーヌを見捨てて逃げていくのを、はっきり見たよ」

「まさか、そんな……」

「間違いありません。ラーヴァドラゴンにはみんなで一斉に挑みました。それでも勝てなくて逃げ出して、殺されそうになったところをこのブイルさんに助けてもらったんです」

「…………」


 受付嬢はうなずいた。何しろポレリーヌが生きてここにいるという動かぬ証拠があるのだから、どちらの証言に信憑性があるか迷いようがない。


 ポレリーヌのパーティーメンバー達は、てっきりポレリーヌが死んだと思ったのだろう。そこで少しでも格好を付けるために、口裏を合わせたに違いない。彼らにとっての災難は、俺がしゃしゃり出てポレリーヌが助かってしまったことだった。まあ、こればかりは嘘をついた彼らが悪いのだから、諦めてもらうしかないが……


「……よく分かりました。モンスターからの逃走はともかく、ギルドに虚偽の報告をしたのは重大な規則違反です。あの人達には相応のペナルティが課されることになるでしょう」


 ちらりとポレリーヌの方を見る。彼女は感情のこもらない顔と声で、「よろしくお願いします」とだけ言った。


「そう言えば、ブイルさんはどうしてここへ? 確かレオルティさん達とダンジョン探索をしていたはずじゃ……?」

「ああ、それはな……」


 俺は受付嬢とポレリーヌに、レオルティ達からダンジョン内で見捨てられた話をした。


「ひどい! わざわざダンジョンまで連れて行ってから置き去りにするなんて! 死んでも構わないって言ってるようなものじゃないですか!」


 ポレリーヌがいきどおったので、俺は彼女をなだめた。


「まあまあ。実際俺は、“光輝ある頂上”では役立たずだったから仕方ないよ。それに、俺が追放されたおかげでポレリーヌを助けることができたじゃないか。レオルティを悪く言わないでやってくれ」

「……ブイルさんがそう言うなら」


 しぶしぶ、といった様子で怒りを収めるポレリーヌ。俺は受付嬢に言った。


「多分レオルティは、『ブイルが勝手にパーティーを抜けて行方不明になった』って報告すると思う。まあ、これに関してはどっちを信じるか、ギルドの判断に任せるよ」

「ブイルさん……」

「ああ、それからこれを頼む」


 俺は受付のカウンターの上に、ラーヴァドラゴンの牙と鱗を置いた。受付嬢が息を呑む。


「こ、これは! Sランクモンスターのラーヴァドラゴンの牙と額の鱗じゃないですか! ブイルさんがどうしてこれを!?」

「いや、その……」


 俺は口ごもった。Dランク冒険者の俺がSランクモンスターを倒したと言っても、簡単には信じてもらえないだろう。どう説明したものか迷っていると、ポレリーヌが口を挟んだ。


「ブイルさんが一人で倒したんです。私が見ていました」

「そ、そうですか……Aランク冒険者のポレリーヌさんが証言するなら討伐が認められると思いますが……後で目撃報告書にサインいただいても?」

「もちろんです」


 こうして俺達は、報告することを報告し終えた。念のためギルドの偉い人が呼ばれ、その人の立ち合いの元で正式な報告書を作ってから、俺達はギルドを後にする。


 並んで歩きながら、俺はポレリーヌに声をかけた。


「大丈夫か?」

「え? 何がですか?」

「いや、一度ならず二度までもパーティーの仲間に裏切られたわけだろ? 落ち込んでも不思議じゃないと思うんだが……」

「ああ、気にしないでください。同じ村の出身だからパーティー組んでただけで、大して信頼し合ってたわけでもないですから」


 強がりなのか、それとも本心か。どちらかは分からなかったが、ともかく俺はうなずいた。


「そうか……」

「それより、今夜はブイルさんの部屋に泊めてもらえませんか?」

「ええっ!?」


 急に思いがけないことをもちかけられ、俺は驚いた。


「な、なんで……?」

「実は私、パーティーの子の一人と一緒の部屋に住んでるんです。だから帰りづらくって」

「そりゃ大変だな……でもそれなら、宿でも取ったらどうだ? Aランク冒険者なんだから金はあるだろ?」

「お金があるからって無駄遣いしたくないんですよ。それとも、私がブイルさんの部屋に泊まったら何か問題ですか?」

「そりゃあ……」


 男と女が同じ部屋に泊まるなんて……と言おうとして、俺は思い止まった。平気で俺のところに泊まろうとするということは、ポレリーヌは俺を男として意識していないのだろう。だとしたら、俺の方だけ男と女がどうとか言うのは、いかにも馬鹿らしかった。


 ここは、当たりさわりのない理由で断るか……


「悪いんだけど、俺、一人暮らしでさ……部屋、かなり狭いんだよね。それにちらかってるから、もう一人泊めるような余裕はとても……」

「全然大丈夫です! 私、これでも冒険者ですよ。狭いところで寝るのなんか慣れてます! 雨風しのげれば十分ですから、早く行きましょう! ここでグダグダ言っていても時間の無駄です!」

「えぇ……」


 こうして俺は押し切られ、ポレリーヌを部屋に泊めることになってしまった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る