第5話 美少女冒険者とお泊りする

「ここが俺の部屋だ。念のためもう一度聞くけど、本当に泊まるつもり……」

「あの……ブイルさん。早く休みたいので、中に入れてもらえると……」

「…………」


 間借りしている部屋の前に着いたとき、俺はもう一度ポレリーヌの意志を確かめようとした。しかし彼女はそんなことに構わず、さっさと部屋に入りたがる。仕方がないので俺はドアを開け、中へ招き入れた。


「分かったよ。それじゃ上がってくれ」

「はいっ! お邪魔します!」


 先に入り、ランプに明かりをともす。さして強くない光で部屋の中が照らされた。ベッドと戸棚、小さなテーブルがあるだけの、殺風景な部屋だ。


「へえー。結構片付いてるじゃないですか」

「まあ、適当にやってくれ……」


 俺はベッドに向かい、その縁に座った。腰を下ろすと、これまでの疲れが一気に押し寄せてきたような気分になる。とにかく今日は、いろいろあり過ぎた。


「ふうっ……」

「武器とか、この辺に置かせてもらいますね」

「ああ、どこでも……」


 ポレリーヌは弓を壁にたてかけた。それから装備を外していく。その様子をぼんやり眺めていると、やがて彼女は胸当てを外した。


 ぶるん


「っ!」


 思わず声が出てしまいそうになった。大きいのだ。それもやたらと。


 胸当ての膨らみでかなり大きいのは予想がついていたが、あれでもかなり押さえ付けていたようだ。確かにこれでは、胸当てで押さえないと邪魔でとても弓など使えないだろう。


「…………」

「ブイルさん、どうかしました?」

「!」


 視線を感じたのか、急にポレリーヌがこっちを向いてたずねてきたので、俺は慌てて目を反らした。


「べ、別に……」

「そうですか」


 何事もなかったかのように胸当てを壁際に置くポレリーヌ。幸い、俺が見ていたことには気付かなかったみたいだ。それとも、気付いていて気付かないふりをしているだけなのか……


「…………」


 いや、何で俺がこんなに気を使わないといけないんだ? こっちは泊めてやってる立場なのに。そう思ったとき、ポレリーヌが言った。


「あれ? ブイルさん、頭に何か付いてますよ?」

「えっ……?」


 どこかでゴミでも付いたか。手で髪をかき上げてみる。そうしているとポレリーヌは近寄ってきた。


「取ってあげますね」

「あ、ああ……」


 それじゃ頼むか。俺の前に立ち、前かがみになったポレリーヌは、何やら俺の髪を弄り出した。


 って、おい、ちょっと待て。この体勢は……


 俺の目の前、息がかかりそうなほど近くにポレリーヌの胸が迫ってきていた。白っぽいシャツは着ているものの、薄いから今にも透けそうだし、首回りがゆるいので谷間が丸見えになっている。


 正直言って、俺には刺激が強過ぎた。


「お、おい。ちょっと……」

「…………」


 呼びかけたが無視される。まあいい。少しの間の辛抱だ。すぐに終わる。


 ……と、最初は思っていたのだが、いつまで経っても終わらなかった。


「うーん。なかなか取れないですね……」


 ポレリーヌは苦戦しているらしく、しきりに俺の髪を撫でたり引っ張ったりしていた。彼女が少し動くたびに、俺の目の前で豊か過ぎる果実がユッサユッサ揺れ動く。


 いつまで続くんだ、これ……


「あ、あのさ……簡単に取れないんだったら無理には……」

「動かないでください! もうすぐ取れますから……」


 頭を後ろに引こうとした途端、俺はポレリーヌに怒鳴り付けられた。さらに、ものすごい力で頭を引き寄せられる。


「わ、悪い……」


 これではどうしようもない。俺はそのままの姿勢で、ポレリーヌがゴミを取るのを待つことにした。おのずと、目の前に迫った二つの巨大な膨らみと対面し続けることになる。


 おそらくポレリーヌは、こういうことは全く気にならない性分なのだろう。俺の方ばかり気になってしまっていて、全く情けない限りだ……


 いや、俺は馬鹿か。見るからいけないのだ。そっと目を閉じる。


「…………」


 そうだ。こうやって自らの視界を封じ、落ち着いて心を無にすれば、何も気になるようなことは……


 ぼふっ


「え……?」


 顔全体が、柔らかい感触に包まれていた。何が起きたか気付くまでに、数秒時間がかかる。ポレリーヌが一層前かがみになったので、俺が顔を突っ込む形になってしまったのだ。


「ぐふっ……」


 もう限界だった。俺は床に倒れ込むと、ダンゴムシのように体を丸める。ポレリーヌは驚いた様子でたずねてきた。


「ブイルさん! どうしたんですか!?」

「腹痛だ……急に腹が痛くなった。しばらくしたら勝手に治るから、このまま放置してくれ」

「そんな……こんなところで寝ちゃ駄目ですよ。ちゃんとベッドで横になってください!」


 出まかせを言ってやり過ごそうとする俺の手を、ポレリーヌが引いてベッドに上げようとする。俺は抵抗した。今立たせられたら、体の一部が活性化しているのが分かってしまうからだ。


「ま、待ってくれ。本当に大丈夫だから……」

「いけません! ちゃんとベッドに上がって楽な姿勢で休んでください!」


 仕方がない。俺は見られないように注意を払いながら中腰になり、ベッドの上に転がった。ポレリーヌに背中を向け、先程と同じくダンゴムシの構えを取る。


「こ、これでいいだろ……?」

「まあいいですけど……ブイルさん、どこかでお腹でも冷やしたんじゃないですか?」

「いや、俺、環境不問クマムシがあるから、周りがどんな寒くても冷やすとかはないんだけど……」

「これ以上冷えないように、さすってあげますね」

「えっ……?」


 聞き返す間もなく、ポレリーヌはベッドに上がると、俺におおいかぶさるように四つん這いになった。さらに片手を伸ばし、俺の腹をなで回し始める。


「うわあああああぁ!!」

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