第6話 環境不問(クマムシ)の効果
ベッドの上で俺におおいかぶさり、腹をさすってくるポレリーヌ。このままでは遅かれ早かれ、俺の体のちょっと言いにくい部分が元気になっているのが分かってしまうだろう。
そうなっては気まずい。とりあえず俺は頼んでみた。
「ポレリーヌ……そこまでしてくれなくていいから、ちょっと離れてくれないかな……?」
「そんな……気を使わないでください。お腹冷やしてるんですから、しっかり
「…………」
やめてくれる気配はなかった。普通に頼んでも無理なようだ。
どうすればいい? そうだ……
「あ、あのさ……」
「今度は何ですか? あまりしゃべらないで、楽にしていた方が……」
「い、いや、違うんだ。油がもったいないから、ランプの火を消したいんだけど……」
「あっ、はい……分かりました」
ポレリーヌは俺から離れると、ベッドを降りてランプの火を消した。これで、明かりは窓から入ってくる月明かりだけだ。部屋の中が一気に暗くなり、よく見えなくなる。
これでもう大丈夫だ。起き上がってもバレる心配はない。俺は体を起こし、ベッドを降りた。
「あれ? ブイルさん、お腹が痛いのに起きて大丈夫なんですか?」
「問題ない。たった今全快した。俺は床で寝るから、君はベッドを使ってくれ」
「えーっ。私、泊めてもらう方なのに、部屋の主のブイルさんにそんなことさせられませんよ。一人用のベッドですけど、何とか二人寝られるんじゃないですか?」
どうやらポレリーヌは、俺と同じベッドで寝ることも、何とも思わないらしい。だがもちろん、そうするわけにはいかない。こっちが全然寝られなくなってしまう。
「い、いや……実は俺、ベッドより床で寝る方が好きなんだ。このベッドも最近使ってなかったぐらいでさ。だから遠慮なく一人で使っていいぞ」
「はあ、まあ、ブイルさんがそう言うなら」
どうにか誤魔化すと、ポレリーヌはやっと納得してベッドに横たわった。一時はどうなることかと思ったが、これでやっと無事に寝られそうだ。俺も床に寝転がる。
うわっ、冷たっ!
先ほど腹痛を装ったときはそれどころではなく気にならなかったが、改めて床で横になってみると、背中や尻に冷たさを感じた。布でも敷けば多少マシになるのだろうが、たった今ポレリーヌに強がって見せた手前、そうするわけにも行かない。
「ふうっ……」
仕方がない。俺は目を閉じると、快適に眠れるように魔法を発動させた。
「
ラーヴァドラゴンと戦ったときに使った
「…………」
リラックスすると、いろいろなことが頭をかけめぐる。
レオルティ達は、まだダンジョンの探索をしているだろうか。パーティーがSランクに昇格したら、俺のことなんてすぐ忘れてしまうんだろうな。
俺は……どこか別の町で、ソロで冒険者稼業をやっていこう。この部屋も明日には引き払う。そうしたら、ポレリーヌに住んでもらってもいい。
いや、Aランク冒険者のポレリーヌがこんな狭苦しい部屋には住まないか。暗がりの中で俺は苦笑する。
そんなことをしているうちに、俺は眠りに落ちた。
…………………………………………
………………………………
……………………
…………
朝になり、俺は目を覚ました。
「…………」
意識がはっきりしてくるに従って、俺は違和感を覚え始めた。後頭部と背中に柔らかい感触がある。確か床の上で寝たはずなのに、今はベッドの上に横たわっているのだ。
「……?」
さらに、体の左側に重みを感じる。見ると、ポレリーヌが俺に抱きついていた。顔と顔が、今にもくっつきそうな近さだ。
「おわああああああああああぁ!!」
思わず大声を上げると、ポレリーヌは目を覚ました。
「あ……ブイルさん、おはようございます……お休みなさい……」
「おい、二度寝するな! 起きろ! 何で俺、ベッドの上にいるんだ!?」
もしかしたら、自分でも気付かないうちに起き上がり、ポレリーヌのいるベッドに潜り込んでしまったのではないだろうか。俺の全身から、冷や汗が滝のように流れ出した。
「ああ……夜中に目が覚めてちょっと肌寒かったんで、試しにブイルさんの隣で寝てみたんです」
「床で寝たのかよ……冷たかっただろ?」
「それが全然冷たくなくて、とっても快適でした。なのでそのまま寝ようと思ったんですけど……」
「…………」
「床だと背中にゴツゴツ当たってきてちょっと嫌じゃないですか? だからブイルさんをベッドに運んで、一緒に寝ることにしたんです」
「俺は抱き枕か!? いや待て。元の場所に戻ったんだよな? それだとまた寒くなったんじゃないか?」
「いいえ。ブイルさんが隣にいたら、やっぱり快適でした。良かったらこれから毎晩、一緒に寝てくれませんか?」
「いや、それはちょっと……」
さすがに腰が引ける俺。しかし、俺が隣にいるだけで快適だったとは。単に俺の体温のおかげで寒くなかっただけなのか。それとももしかして、
そのとき、俺はポレリーヌが下着姿なのに気付いた。いつの間にかスカートは脱いでいたらしい。さらに彼女の太腿が、俺の脚の間に入っている。おまけに俺の下腹部の方がまた盛んになっていて……
これは、まずい……
内心の動揺を悟られないよう、俺はさりげなく体を右にずらし、ポレリーヌから離れた。
「そろそろ、起きるか……」
「え? あ、はい……」
特に何か気にする様子でもなく、うなずくポレリーヌ。気付いてはいなかったようだ。気付いてはいなかったかも知れない。気付いていなかったらいいなあ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます