第7話 一人で町を去るはずが……
俺は体を起こし、ベッドの縁に腰かけた。
ポレリーヌはほとんど俺とくっつくような近さで、右側に並んで腰かける。目を覚ましたときと変わらず、上は胸の谷間全開の短い袖なしのシャツ、下はパンツだけという、何とも目のやり場に困る格好だ。彼女としては俺に見られたところで、痛くもかゆくもないのだろうが……
「あ、あのさ……」
「はい。何ですか?」
「服、着なくていいのか……?」
「あっ、このままで全然大丈夫です。今、寒くありませんから」
「……じゃあせめて、胸当てだけでも……」
「えー? どうして部屋の中であんなの着けないといけないんですか? あれ着けると胸がすごく窮屈なんです。嫌ですよ」
「…………」
相変わらず、ポレリーヌは俺の頼みごとを歯牙にもかけない。仕方がないのでなるべく彼女の方を見ないようにしていると、彼女が話かけてきた。
「ところでブイルさん、これからどうしますか?」
「え? ああ……それなんだけど、この町を離れようと思ってるんだ」
「それって……どこか別の町の冒険者ギルドに移籍するってことですか?」
「そうだ。やましいところがあるわけじゃないけど、この町にいたらまたレオルティ達と顔を合わせることになる。そうなったらどうにも気まずいだろうと思ってさ。この機会に拠点を変えて、一からやり直そうと思うんだ」
「それがいいですね……行き先ってもう決まってるんですか?」
「そうだな……」
俺は天井を見上げて、少し考えた。昨日まで移籍など考えてもみなかったから、考えをまとめるのに少し時間がかかる。
「……ソグラトにするか。ソグラトなら腕利きの冒険者も少ないだろうから、俺みたいな奴でも役に立てるかも知れない」
ソグラトは、ここから南に歩いて二日ほどの町だ。ジルデンに比べると人口は少なく、にぎわっているとは言い難い。しかしそれだけに落ち着いた雰囲気の町であり、俺には合っているような気がした。
「ソグラトですか……分かりました。いつ出発しますか?」
「すぐにでも……と言いたいところだが、この部屋の整理をしないといけないからな。それに、剣術や魔法の先生とか、この町でお世話になった人が何人かいる。一通りあいさつ回りも済ませるとなると、今夜はどこかに宿を取って、出発は明日の昼頃ってところかな」
「そうですね……その宿ってどこにします?」
「…………」
このときになって、俺は違和感を覚え始めていた。俺とポレリーヌの考えていることに、食い違いがあるような気がしたのだ。
「……ポレリーヌ、君はどうするんだ?」
「えっ? ああ、はい。今夜は宿屋に泊まって、明日のお昼にソグラトに向かって出発ですよね? 私も今日中に、今住んでる部屋を片付けようと思ってますけど」
「……まさかとは思うけど、俺についてくるわけじゃないよな?」
「えっ……? ブイルさん、急にどうしちゃったんですか? ついていくに決まってるじゃないですか」
「えっ?」
「えっ?」
そういうことか。やっと違和感の正体が分かった。俺は一人でこの町を去るつもりだったが、ポレリーヌはついてくる気だったのだ。慌てて説得する。
「いやいや! この町でせっかくAランクまで登りつめたのに、もったいないだろ! 別の町のギルドに移籍したら、またFランクからやり直しだぞ。元々Dランクの俺はともかく……」
「私もブイルさんと同じです。元のパーティーのメンバー達とできるだけ顔合わせたくないんですよ。それにランクなんてすぐ上がりますし」
「あっ……」
そういうことか。この若さでAランクまで上がっているポレリーヌにしてみれば、ランクなどいつでもどうにでもできるものなのだろう。十年以上かけてDランクまでしか上がらなかった俺とは、次元が違うのだ。
「そうだな……ポレリーヌならFランクからやり直しても、すぐにAランク、いや、Sランクまで上がれるだろうな……」
「何言ってるんですか! ブイルさんだってSランクのモンスターをソロで討伐できるんですから、その気になればすぐランクアップできますよ!」
「ああ……だといいけどな……」
俺はあいまいにうなずいた。ポレリーヌは立ち上がって言う。
「じゃあ私、部屋を片付けてきます。夜になったらギルドで落ち合って、一緒に脱退の手続きをしましょう」
「あ、ああ。そうだな……」
「その後は宿に泊まって、明日のお昼に出発ですね」
「あ、ああ……」
しまった。ランクの話に気を取られて、説得を忘れてしまった。気が付いたら、俺はすっかりポレリーヌに押し切られてしまっていた。こうなったら、ソグラトの町までは一緒に行くしかないか……
☆
夜になり、俺とポレリーヌは冒険者ギルドを訪れた。入って中を見渡したが、レオルティ達“光輝ある頂上”のメンバーやポレリーヌの元パーティーメンバーはいなかった。絶対に遭いたくないというほどではないが、いざこざの種になりかねないので、顔を合わせないに越したことはない。
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