第28話 (追放者Side)レオルティ達の大失敗再び(前編)

 “光輝ある頂上”が受けた依頼は、とある鉱山に現れたSランクモンスター、アイアンゴーレムを討伐してほしいというものだった。依頼主は鉱山を所有している大富豪だ。アイアンゴーレムが鉱山を占拠しているせいで採掘が出来ないため、破格の報酬が示されると共に、一日も早い討伐をという希望が出されていた。


 前回同様、メンバー構成が変わった直後の戦闘をギルドマスターは危ぶんだ。だが、自分達が究極の力を手に入れたと信じて疑わないレオルティ達は、ギルドマスターの心配を一蹴して依頼人指定の場所へ赴いたのである。


「あの山でございます」


 大富豪の部下である案内人がレオルティ達を出迎え、鉱山へと案内した。


「アイアンゴーレムは山のどこかにいます。坑道を出たり入ったりしているようです」

「ふん。何をやっているのか知らないが、アイアンゴーレムごとき、今の俺達にかかればウジ虫のようなものだ。一息に踏み潰してくれる」

「さすが、Sランクパーティーの皆様です。実にお強そうでいらっしゃる……」

「!」


“暫定”という言葉を聞き、レオルティは案内人を後ろからにらみつけた。真のSランクではないと突き付けられた気持ちになったからだ。だが、すぐに元の表情に戻る。


(気にすることはない。この依頼を達成すれば、どうせ“暫定”は消えるんだ……)


 鉱山に入ったレオルティ達は、アイアンゴーレムの姿を求めて探し回る。いくらもたたないうちに、メンバーの一人が叫んだ。


「いたぞ!」


 全員が、メンバーの指さす方を見る。そこには人の背丈の2倍ほどの身長がある、二足歩行のモンスターがいた。全身が黒い光沢におおわれ、いかにも堅そうだ。腕や足は大木のように太く、胴は巨大な石臼のようであった。


「ヴヴヴヴヴ……」


“光輝ある頂上”のメンバー達を見て、不気味な唸り声を上げるアイアンゴーレム。すでにコンショニアによって、全員の武器に付与魔法がかけられていた。レオルティが叫ぶ。


「エンパ、強化魔法バフだ! 強化魔法をかけろ!」

「はい……ではまず、中級の強化魔法をかけます。それで小手調べを」

「馬鹿野郎! 上級の強化魔法に決まってるだろうが! 最大のパワーで一気に決めるんだよ!」

「しかし、いきなりそれでは……」

「いいから早くしろ! 殺すぞ!」


 レオルティに剣を突きつけられ、エンパは強化魔法を発動させた。


「どうなっても知りませんよ……上級強化アドバンスドバフ!」

「うおおおおっ! 力が湧いてきたぜっ!」

「今なら誰でも倒せそうだ!」

「覚悟しろよ、アイアンゴーレム!」


 力を増幅されたメンバー達は気分まで大きくなり、口々に気勢を上げた。彼らの中から、“防御”適性持ちのドルジスが前に出る。


「行くぞ!」


 ドルジスは、前回の依頼でモンスターに倒されたうちの一人である。今回はいいところを見せて名誉挽回しようと気負っていた。


「ヴヴヴヴヴ!」


 アイアンゴーレムが唸り声を上げ、右手でドルジスを払いのけようとする。ドルジスは両手に持った盾で、アイアンゴーレムの手をしっかり受け止めた。


 ガンッ!


「よっしゃあ! 前とは違うぜ!」


 次にアイアンゴーレムは、力をこめてパンチを繰り出す。今までのドルジスであれば受け流していた攻撃だったが、今の彼は自分の力に酔っていた。受け流すことなく、真正面から盾でパンチを受け止める。


 ドガアァン!


「はははっ! どうした、そんなもんか!?」


 ドルジスは前進した。パーティーメンバーとの連携も何もあったものではない。彼は一人でアイアンゴーレムを倒そうと、盾で押し始めた。


「おらおらおらっ! 押し潰してやるぜっ!」


 アイアンゴーレムはパンチを次々に繰り出すものの、ドルジスの盾に防がれてなかなか有効打を与えられない。ドルジスはさらに調子に乗った。


「ひゃはははっ! ソロでSランクモンスターを討伐だ! これで俺もSランク冒険者だ!」

「ドルジス! 行き過ぎだ! 下がれ!」


 レオルティの制止の声が飛ぶが、ドルジスは止まらない。しかし、立て続けにアイアンゴーレムのパンチを受けるうちに、盾にヒビが入り始めた。


 ピシッ……


 それに気付かないドルジスは、もう一発、アイアンゴーレムのパンチを盾で受けてしまう。


「おらっ! 来いやっ!」


 バギャアアアァン!!


 大きな音と共にドルジスの盾は砕け、その後ろにいたドルジスも吹き飛ばされた。


「うぎゃあああああああああああああああああぁ!」


 コンショニアの付与魔法によって、ドルジスの盾は強度を増していた。しかし、エンパの強化魔法で力を増したドルジスが、無茶な使い方をしても壊れないほどの強化ではなかったのである。


 今まではブイルが、パーティーメンバーの力量を見て武器を壊さないよう、強化魔法と付与魔法をバランスを取ってかけていた。それが急に、強化魔法と付与魔法の使い手が別々になり、しかも調整の期間が全くない。強過ぎる強化魔法が付与魔法の限界を越えてしまい、武器が壊れたとしても不思議ではなかった。エンパはそれを恐れて中級の強化魔法をかけようとしたが、レオルティには理解できなかったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る