第29話 (追放者Side)レオルティ達の大失敗再び(後編)

「うぎゃあああああああああああああああああぁ!」


 前回と同じように盾を壊され、吹き飛ばされるドルジス。そんな彼の姿を、レオルティ達は呆気に取られて眺めていた。


 新しい強化魔術師の参加で、自分達の力は圧倒的に増したはず。現にドルジスは、さっきまでアイアンゴーレムと互角以上に戦っていた。それなのになぜだ?


 ドシャアアアアアアアァン!


 飛んでいったドルジスが、物置か何かの小屋に突っ込む。小屋は柱が折れて倒壊した。瓦礫に埋もれたドルジスは、気を失って動かない。アイアンゴーレムはドルジスを放置し、レオルティ達の方に歩み寄ってきた。


「ヴヴヴヴヴ……」

「情けないな、ドルジスの奴は! 俺がやってやるぜ!」


 踏み出したのは魔道士のクロトーンだった。彼は魔法発動用の杖をアイアンゴーレムに向け、攻撃魔法を発動させる。


石弾ラピス・バレット!」


 周囲にあった、大人の頭ほどの石がいくつも浮かび上がった。次の瞬間、それらの石は凄まじい速さで飛翔し、アイアンゴーレムの体に次々と命中する。


 ガン! ガガガがガッ! ガガンッ!


「ヴヴヴヴ……」


 衝撃によろめくアイアンゴーレム。勢いに乗るクロトーンは、攻撃を続けた。


「おらっ! おらおらおらっ! おらっ」

「ヴヴヴ……」


 そのうちに、アイアンゴーレムの足下に石が一つ転がった。その石を踏み付けたアイアンゴーレムは、バランスを崩して転倒する。


「ひゃはははははっ! 見たかモンスターめ! 俺の勝ちだ!」


 クロトーンは、魔法の杖を大きな岩に向ける。その岩を持ち上げ、アイアンゴーレムを押し潰そうというのだ。


岩弾サクス・バレット!」

「お、おい! 一人で勝手に止めを刺すな! こういうときは慎重にみんなで……」


 手柄を独り占めされそうになったレオルティが、慌ててクロトーンを止めようとした。今までのクロトーンであれば、レオルティの指示に従っていただろう。しかし、エンパの強化魔術で大きく力を増していたクロトーンは、気が大きくなりリーダーの言葉にも聞く耳を持たなくなっていた。彼は杖に魔力を集中させ、大岩を少しずつ浮かせていく。


「行くぜえええぇ! Sランクモンスターをソロ討伐だぁ! Sランク冒険者の座は、俺がいただくぜ! はあああぁ!!」


 さらに魔力を集中させるクロトーン。浮き上がった岩が、アイアンゴーレムめがけて飛翔していく。だが次の瞬間、クロトーンの杖は大音響とともに爆発した。


 ドガアアァン!!


「うぎゃあああああああああああああああああぁ!」


 爆風をまともに受け、悲鳴とともに吹き飛ばされるクロトーン。飛んでいった岩はアイアンゴーレムには当たらず、放置されていた荷車や木材を木っ端みじんにした。


 クロトーンの杖はコンショニアの付与魔法によって強度が増していたが、エンパによる魔法の増幅はそれ以上だった。杖の限界を超えて魔力を集中したため、耐え切れなくなって破裂したのである。


 ドサッ


 クロトーンは黒焦げになって倒れる。それを見たメンバー達の胸に、疑いの気持ちが芽生えた。今回は勝てると思っていたが、もしかすると駄目なのではないか……?


「怯むな!」


 だが、そんな中にあって、一人戦意を失わない者がいた。リーダーのレオルティである。彼は大金をはたいて新しく買った剣をかざし、メンバー達を叱りつけた。


「今のはドルジスとクロトーンがだらしなかっただけだ! 俺達は無敵のSランクパーティー! あんなモンスターなんか屁でもない!」

「で、でも、レオルティ……」

「見ていろ! こうなったらリーダーの俺が直々にあのモンスターを仕留めてやる! 明日から“光輝ある頂上”は暫定じゃない、正真正銘のSランクパーティーだ!」


 アイアンゴーレムが起き上がり、レオルティに向かって歩き出す。駆け出したレオルティは剣を大きく振りかぶって跳躍すると、アイアンゴーレムの肩に向かって斜めに斬り付けた。


「喰らえ!」


 ドカッ!


 剣は確かに、アイアンゴーレムの肩に食い込んだ。それどころか剣身の幅の倍以上切り進む。レオルティの顔に、笑みが浮かんだ。


「どうだモンスターめ! このまま体を真っ二つに……うっ!?」


 だが、レオルティの余裕もそこまでだった。アイアンゴーレムの体に切り込んだまま、剣が動かないのだ。普段であれば体の硬いモンスターに深く切り込んで剣が抜けなくなるようなヘマはしないのだが、下手にパワーが上昇していたため、一刀両断できると過信して深く剣を喰い込ませてしまっていた。


「くっ……このっ!」


 レオルティは剣をどうにか動かそうと空中で足をジタバタさせたが、深く食い込んだ剣は斬り進めることも抜くこともできなかった。そのうちにアイアンゴーレムが手で剣を叩くと、限界以上の力で曲げられた剣はあっさり折れた。レオルティは地面に落下する。


「あっ……あっ……あっ……」


 立ち上がったものの、武器を失って茫然とするレオルティ。アイアンゴーレムは容赦なく追撃をかけた。その拳がレオルティの腹に食い込むと、レオルティは口から胃液をまき散らしつつ空中に吹っ飛んでいく。


「うぎゃあああああああああああああああああぁ!」


 落下したレオルティの体が石に触れ、石は下に転がっていく。その落石がまた別の落石を呼び、大量の石が鉱山のふもとへと転がっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る