第30話 (追放者Side)問い詰められるレオルティ達3

「それでは、説明を聞こうか」

「「「…………」」」


 ジルデンに帰りついた“光輝ある頂上”のメンバー達は、前回と同じようにギルドマスターの詰問を受けていた。


 メンバーのうちレオルティ、クロトーン、ドルジスの3人が瀕死の重傷を負った“光輝ある頂上”は、命からがら鉱山から逃亡した。彼らは数日後ジルデンに戻り、負傷者は冒険者ギルドに所属する回復術師の治療を受ける。傷が癒えた彼らは、早速ギルドマスターに呼び出されたのである。


「モンスターの討伐に失敗したのみならず、鉱山の道具や設備、資材を多数損壊。特に大量の落石によってふもとの道は埋まり橋は壊れ、原状復帰だけでも多大な時間と費用がかかる見通しだそうだ。依頼主のフガフガ家からは、どういうことだと問い合わせが来ているよ。事と次第によっては、損害賠償の請求も辞さないつもりらしい」

「「「…………」」」


 何も話さない“光輝ある頂上”のメンバー達。ギルドマスターはさらに続けた。


「首尾よくモンスターを討伐したのであれば、多少の損害もどうにか誤魔化せるのだが……肝心のモンスターが健在では、何とも言い訳のしようがない。レオルティ君、私は前にも言ったはずだね? メンバーが変わった直後の戦闘には気を付けたまえと」

「は、はい……」

「何度念を押しても君は、『問題ない』の一点張りだった。それを信用して送り出した私にも責任があるが……パーティーリーダーの君にも、説明はしてもらう必要がある。今回の失敗の原因は何かね?」

「それは……」

「それは?」

「こ、こいつがいけないんです!」


 そう言ってレオルティが指差したのは、付与術師のコンショニアだった。


「こいつの付与魔法がヘボだから、ドルジスの盾やクロトーンの杖が壊れたんです! こいつがしっかりした付与魔法さえ使えれば、アイアンゴーレムをやっつけられたのに……」


 アイアンゴーレムに吹き飛ばされたレオルティは、大量の落石を引き起こしながら山を転がり落ちていった。普通であれば全身打撲で死んでいてもおかしくなかったが、コンショニアの付与魔法によって鎧の耐久性が上がっていたため、辛うじて一命を取り止めていた。にもかかわらず、失敗の責任をコンショニアに押し付けようとしたのである。


 コンショニアはすかさず反論する。


「いくら上級の付与魔法でも、効果は無限じゃありません。強度が上がったからって無茶な使い方したら、道具は壊れるに決まってるじゃないですか!」

「何だと! 俺達の戦い方がまずかったとでも言うつもりか!?」

「ドルジスさんとクロトーンさんが前に出過ぎたとき、レオルティさんは止めてましたよね? 二人の戦い方がまずかったからじゃないんですか!?」

「うっ、それは……」


 レオルティがドルジスとクロトーンを止めようとしたのは事実である。そこを突かれては反論のしようがなかった。そこでレオルティは矛先を変える。


「そうだ! エンパだ! エンパが悪いんだ! エンパの強化魔法バフがもっとしっかりしていたら、俺の剣でアイアンゴーレムを一刀両断に……」

「無理なことを言わないでください」


 エンパも黙ってはいなかった。


「どんなに優れた強化魔法師バフマスターでも、今のあなたにアイアンゴーレムを両断する力なんて与えられませんよ。それに、両断する力がないのに無理に斬り込んだのは、レオルティさんの判断ではありませんか?」

「なっ、何っ!?」

「もういい。たくさんだ」


 見かねたギルドマスターが、彼らの口論を止めた。


「レオルティ君」

「は、はい……」

「エンパ君とコンショニア君の技量に不満があるなら、二人を元のパーティーに戻してやってはどうかね?」

「えっ……?」

「二人がいたパーティーから、それぞれランク返上の申し出があったよ。エンパ君、コンショニア君がいなくなった以上、今までの働きはもうできないとね。断腸の思いだったが、私はそれを受理せざるを得なかった……」

「「…………」」


 エンパとコンショニアがうつむく。レオルティは何も答えなかった。


 しばしの沈黙が流れた後、ギルドマスターはまた口を開いた。


「……まあいい。どのパーティーに属するかは君達が決めることだ。ただ、いずれにしても、君達にSランクの称号はまだ早過ぎたようだね。“光輝ある頂上”のパーティランク、並びにレオルティ君の個人ランクはAに戻す。また地道に実績を積み重ねたまえ」

「そ、そんなっ!」


 降格と聞いたレオルティは、この世の終わりが訪れたかのような顔をする。冒険者になって十年。最高峰のSランクとなり、周囲の羨望と称賛を受けることだけを夢見て、彼はここまでやってきた。その念願のSランクが、はかなくもてのひらからこぼれ落ちてしまったのである。


「待ってください! 俺達はこの辺の地域で唯一のSランクじゃないですか! Sランクパーティーを抱えてるってことで、ジルデンの冒険者ギルドはほかの町のギルドに大きい顔ができるはずなんだ! それなのに降格しちまって、よそのギルドから笑われてもいいんですか!?」


 喰ってかかるレオルティに、ギルドマスターは落ち着いて答えた。


「実力のないパーティーにSランクの称号を名乗らせる方が、よほど笑いものになるだろう。レオルティ君も知っての通り、冒険者の業界は実力が全てだ。張りぼてのSランクになど、何の意味もない」

「うっ……ううっ……」

「またSランクの称号を得られるかは君達次第だ。チャンスは十分にある。初心に戻ってやり直したまえ」

「うわあああああああぁ!!」


 レオルティの耳に、ギルドマスターの言葉はもう届いていなかった。ずっと夢見てきたSランクからAランクへの降格という屈辱を受け止め切れず、彼はその場に崩れ落ちた。

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