第31話 ギルドマスターからの相談

「やあっ!」


 チウニサの剣が、ゴブリンの首筋を切り裂く。ゴブリンが血を流して倒れると、チウニサは別のゴブリンに向かっていった。


 俺とポレリーヌ、チウニサの3人は、Eランクパーティーとしてゴブリン退治の仕事を請け負っていた。ある村に夜な夜なゴブリンが現れて畑を荒らすので、討伐してほしいという依頼である。


 ゴブリンがねぐらにしている洞穴ほらあなを見つけた俺達は、入口で火を焚き煙を起こして彼らをいぶり出した。出て来たゴブリン達に、俺とチウニサが斬りかかる。ポレリーヌは後ろから弓矢で援護だ。


「えいっ!」

「やあっ!」


 程なくして、出て来たゴブリンは全て倒された。俺は洞穴の中に何発か攻撃魔法を放ち、中にゴブリンが残っていないことを確かめる。そしてチウニサの肩を叩いた。


「やったな……冒険者になって、初仕事達成だ」

「はいっ! ありがとうございます! 師匠のおかげです!」


 そう言うと、チウニサはまた俺に抱きついてきた。それを見たポレリーヌが、後ろから抱きついてくる。


「ちょっと、ブイルさん! 私だってがんばったんですからね!」

「あ、ああ……ポレリーヌの援護もすごかったよ。良くやってくれた」


 俺は慌ててポレリーヌをねぎらう。それを見てチウニサが言った。


「ゴリラ女さん! 師匠を絞め殺さないでください!」

「絞め殺さないわよ! ってか、いい加減に人の名前覚えなさい、このメスガキ!」

「覚えてないの、お互い様じゃないですか!」


 美少女二人が、俺を挟んで言い争う。また俺は慌てて、彼女達をなだめにかかったのだった。


 ☆


 ギルドに戻り、受付嬢に依頼達成の報告をする。それが終わってカウンターを離れようとしたとき、受付嬢が俺を呼び止めた。


「あ、ブイルさん」

「?」

「お戻りになって報告が済んだら、部屋まで来てほしいとマスターがおっしゃっていました」

「マスターが俺に……?」

「はい。ブイルさんにお話があるそうです」

「分かった」


 俺はポレリーヌとチウニサをその場に待たせ、ギルドマスターの部屋に向かった。階段を上がり、廊下を歩いて部屋のドアをノックすると、中から返事が聞こえる。


『入りなさい……』

「失礼します」


 中に入ると、ギルドマスターのセクレケンがソファーに座っていた。セクレケンは俺を見て声を上げる。


「おお、ブイル。呼び立てて済まんな」

「いえ……お話とは何でしょうか?」

「まあ、まずは座ってくれ」


 セクレケンは俺に、向かいのソファーを勧めた。お言葉に甘えて、俺はソファーに腰を下ろす。


「失礼します」

「うむ……ブイルよ。フガフガ家を知っておるな?」

「ええ、それはもちろん……」


 俺はうなずく。フガフガ家はこの国でも指折りの大富豪だ。鉱業や貿易などを手広く扱っていて、俺のような万年Dランク冒険者でもその名前は知っている。


「そのフガフガ家が、何か……?」

「先日、フガフガ家の所有する鉱山にSランクモンスターのアイアンゴーレムが現れた。当然、鉱夫達は避難し、操業は止まる。そこでフガフガ家は、ジルデンのSランクパーティーに討伐依頼を出した」

「ジルデンの……」


 俺は息をのんだ。ジルデンのSランクパーティーと言えば、レオルティ達“光輝ある頂上”以外に思い浮かばない。俺がいたときはまだAランクだったが、今はSランクに昇格しているはずだ。


「それで、どうなりましたか?」

「残念ながら、討伐は失敗に終わった。そのSランクパーティーはアイアンゴーレムに惨敗した上、装備の多くを失って逃げ帰ってきた。加えて、戦闘の余波で鉱山の設備には深刻な損害があったそうだ」

「何と……」


 アイアンゴーレムはミノタウロスキングほどのパワーはないが、全身が硬い金属でできていて致命傷を与えるのが難しい。レオルティ達には荷が重かったか……もしかするとSランクに昇格して、気が緩んでいたのかも知れない。


「討伐の失敗を受けて、フガフガ家からわしのところに内々の問い合わせが来た。もうジルデンの冒険者ギルドは当てにならん。ついてはソグラトの冒険者ギルドで、どうにかできぬか、とな……」

「そうでしたか。しかし……」

「その通りだ。我がギルドには、SランクのパーティーもSランクの冒険者もおらん。なので本来は受けられぬ仕事なのだが……フガフガ家には、このギルドも何かと世話になっておる。できることなら、どうにかしてやりたい」

「なるほど……」

「ブイルよ。お前にはミノタウロスキングを倒した実績がある。ジルデンにいたときはラーヴァドラゴンも倒したと聞いた。そこで忌憚きたんのない意見を聞きたい。アイアンゴーレムを倒す方法はあるだろうか?」

「…………」


 少し考えてから、俺は答えた。


「手がないことはありません。どうにかなるかも」

「本当か……?」


 身を乗り出すセクレケン。俺はうなずいた。


「はい。ただ……少し準備に時間をいただきたいと思います。それでも良ければ」

「分かった……前向きに調整しておるとフガフガ家には伝えよう。お前の準備ができたら、フガフガ家から正式に依頼を出してもらう」

「お願いします。ではこれで。早速準備に取りかかりますので」

「うむ。頼むぞ……」


 俺はギルドマスターの部屋を出て、ポレリーヌ、チウニサの下へと向かった。

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