第32話 ブイルパーティーとアイアンゴーレムの激突

 数日後。俺とポレリーヌ、チウニサの3人は、フガフガ家の所有する鉱山を目指していた。


 Eランクパーティーである俺達がSランクモンスターの討伐を受注することは、本当ならできない。そこでギルドマスターのセクレケンがフガフガ家に話を通し、ソグラトの冒険者ギルドに偽の討伐依頼を出してもらった。鉱山のふもと近くにゴブリンが出没して山への出入りが妨げられるので、追い払ってほしいという内容だ。それを受注した俺達がゴブリン達を追って山に入ったら、アイアンゴーレムと遭遇したので戦う……という筋書きである。


「ブイルパーティーの皆様。お待ちしておりました」


 鉱山が見えてきたところで、フガフガ家の派遣した案内人が俺達を出迎えた。パーティーを代表して俺があいさつする。


「俺がリーダーのブイルです。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお頼み申し上げます。あれに見えますのが、今回モンスターの出ました、当家所有の鉱山でございます」


 案内人が鉱山を指差す。そして俺達は案内人を先頭に、鉱山へと向かっていった。


「これはひどいな……」


 鉱山のふもとにさしかかったとき、道を見て俺はあきれた。大小たくさんの石が道に転がっている。人間はどうにか歩けないこともないが、荷車なんかはこの石を取り除かないと通れないだろう。これがセクレケンの言っていた、戦闘の余波というやつだろうか。


「道が悪くて申し訳ございません。ジルデンの暫定Sランクパーティーのリーダーがモンスターに吹き飛ばされて次々に落石を起こしながらふもとまで転がり……ご覧の通りの有様でございます」

「俺達は大丈夫です。二人とも、見ての通りだ。石につまずいたり、蹴って下に転がしたりしないように気を付けろよ」

「「はいっ」」


 言わずもがなのことではあるが、一応ポレリーヌ、チウニサに注意をうながす。二人はうなずいた。


 さらに進むと、小川にかかった橋が大きな岩に押し潰されて落ちていた。


「たびたび申し訳ございません。こちらへ……」


 案内人は道を外れ、河原を歩いていく。そして浅瀬で川に入ったので、俺達もそれに続く。俺達は冒険者だからいいが、鉱夫達はこの橋が直るまで仕事場に入るのも一苦労だろう。


「依頼主の山をこんなにめちゃめちゃにするなんて、無能なSランクパーティーもあったものですね」

「仰る通りでございます。この地域では唯一の暫定Sランクパーティーということで当家の主も期待を寄せていたのでございますが、ふたを開けてみれば全くの見掛け倒し。モンスターの討伐どころか鉱山の被害おびただしく、当家ではジルデンの冒険者ギルドに損害賠償の請求も考えております」

「…………」


 チウニサと案内人のやり取りを、俺は黙って聞いていた。“光輝ある頂上”からは見殺し同然に追い出されたが、ジルデンの冒険者ギルドは、俺が十年以上世話になった古巣のギルドである。“光輝ある頂上”のせいで評判を落とし、損害賠償請求までされるかも知れないと思うと、何ともやり切れない気分になった。


 ☆


「ご覧ください。あの場所でジルデンの暫定Sランクパーティーがモンスターと戦ったのでございます」


 少し開けた場所の手前で、俺達はヤブに身を潜めていた。その開けた場所には壊れた小屋や荷車、木材の破片と思しきものが散乱している。


「ありがとうございます。ここまでの道は分かりました。これ以上は危険なので、山を下りて待っていてください。ふもとまでお送りします」

「はっ、はいっ……」


 下りの道でいきなりアイアンゴーレムが出てこないとも限らないので、案内人を一人で帰らせるわけには行かなかった。俺達は一度、来た道を戻る。ふもとで案内人と別れ、また登り始めるが、アイアンゴーレムにはなかなか遭遇しなかった。


 レオルティ達が戦った場所の近くに、今もいるのかも知れない。そんな風に思いながら登るうちに、またあの開けた場所に出た。しばらく3人でうろついていると、ついにアイアンゴーレムのうなり声が聞こえてきた。


「ヴヴヴヴヴ……」

「来たか……二人とも、作戦通りに頼むぞ」

「「はいっ!」」


 俺は自分とポレリーヌ、チウニサの合計三人に強化魔法バフをかけた。それが終わると、ポレリーヌとチウニサはヤブの中へと走っていく。


 ガシャン……ガシャン……


 耳障りな金属音を響かせ、アイアンゴーレムが歩いてきた。背丈は人間の2倍ほど。2本の足で歩き、全身が黒光りしている。腕や足は大木のように太く、胴はまるで巨大な石臼だ。


「まずは俺が相手だ。せいぜいどつき合おうぜ」


 俺は武器を取り出した。今日は剣ではない。あまりするどく研いでいない、分厚い頭の斧だ。アイアンゴーレム相手に剣だと、たとえ付与魔法をかけても、打ち合ううちにどうしても刃が欠けてしまう。


「ヴヴヴヴ!」


 ガシャンガシャンガシャン!


 アイアンゴーレムは俺に駆け寄り、拳を振り下ろしてきた。左に跳んでそれを避けた俺は、相手の胴体に横から斧を叩き付ける。


 ガァン!


「!」


 大きな音が響き、アイアンゴーレムの動きが一瞬止まった。そのとき、ヤブの中から矢が飛んでくる。飛んできた矢は狙いを誤らず、アイアンゴーレムの右足に当たった。


 ガアァン!

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