第10話 (追放者Side)問い詰められるレオルティ達

 野宿したレオルティ達“光輝ある頂上”は、翌朝ジルデンに向かって移動し始めた。


 昼過ぎにジルデンに着いた彼らは、まっすぐギルドには向かわなかった。Sランク昇格の前祝いと称し、陽の高いうちから酒場で酒盛りを始める。そして夕暮れ時になり、酔いがめてからようやく報告のためにギルドを訪れたのである。


 彼らが上機嫌でギルドの建物に入ったとき、受付嬢は気が付かない様子で書類に目を落としていた。レオルティは大声で呼びかける。


「おい、次期Sランクパーティー“光輝ある頂上”の帰還だぞ! ボケっとすんな!」


 受付嬢は顔を上げ、素っ気ない口調で言う。


「そんなに大声を出さなくても聞こえます。お疲れ様でした。モンスター討伐の証拠を置いたら、ギルドマスターの部屋に行ってください」

「えっ? ギルドマスターがまだ残ってるのか?」

「はい。あなた方が帰ってくるのを待っていました」

「へえ……」


 次期Sランクパーティーともなると、ギルドマスターが直々に労をねぎらうというわけだな……そう思ったレオルティは、ますます愉快な気分になった。


 二階に上がってギルドマスターの部屋の扉をノックすると、中から返事が聞こえる。


『入りたまえ』

「失礼します」


 レオルティ達が部屋に入ると、ギルドマスターは自分の席に座っていた。ギルドマスターは日焼けした大柄な中年の男性である。元はジルデンで名を馳せた冒険者であり、顔に刻まれた多数の傷跡と、未だ衰えないたくましい体つきが、その戦歴を物語っていた。


「…………」


 ギルドマスターは、けわしい顔つきでレオルティ達を見すえている。期待していた歓迎ムードと違うのに気付き、レオルティ達は戸惑った。


「あ、あの……」

「御苦労だった。探索の方は順調だったかね?」

「はい……モンスターを多数討伐しました。たった今、下で証拠の提出を……」


 レオルティが答えると、ギルドマスターはうなずいた。


「そうか。それは何よりだ」

「あ、ありがとうございます……」


 どうやら、当たりさわりのない話で終わりそうだ。レオルティ達が安心しかけたとき、不意にギルドマスターが質問した。


「ところで、メンバーが一人足りないようだが、ブイル君はどうしたのかね?」

「あっ! そ、それは……」


 聞かれたレオルティは、慌てて答える。


「じ、実はブイルの奴、ダンジョンの中で急に、『お前達にはもうついていけない』とか訳の分からないこと言い出して、勝手にどこかに行ってしまったんです……」

「ほう。それは困った話だね」

「そうなんです。一人消えたからと言って探索を途中で止めるわけにも行きませんし、残ったメンバーで続行しました」

「なるほど」

「前からあいつは無能な上に自分勝手な奴で、俺達は足を引っ張られてきたんです。どこに行ったか知りませんけど、もうあいつはパーティーから除名します」

「そうか」


 レオルティ達に言うだけ言わせた後、ギルドマスターはひどく静かな口調でたずねた。


「……それで、君達の話を裏付ける者はいるのかね?」

「へ……?」

「実はね、ブイル君本人は全く違う話をしているのだよ。彼の証言によると、ダンジョンの中で君達に置き去りにされたそうだが」

「え……? ブ、ブイルが戻ってきたんですか!?」

「そうだ。あいにく私は会っていないが、受付嬢やギルドの幹部が面会して、証言を記録している」

「あ、あいつの言っていることはでたらめです! 俺達をおとしいれようとして嘘を……」

「それを判断するのは私だ。そのために証明する者がいないか聞いたのだが、どうやらいないようだね」

「……あ、あいつは今、どこに……?」

「ブイル君の居場所を聞いて、どうしようというのかね?」

「そ、それは……」

「彼はもう、このジルデンにはいないとだけ言っておこう。ギルドとしては全くもって、手痛い損失だよ。Sランクモンスターをソロで討伐するような実力者に、みすみす脱退されてしまったのだからね」

「!?」


 信じられない言葉を耳にして、レオルティは思わず聞き返した。


「マスター、今何て!?」

「ああ、君達はまだ知らなかったのだね。ブイル君は君達と別れた後、Sランクモンスターのラーヴァドラゴンを一人で倒したのだよ」

「う、嘘です! そんなことはありえません! あいつは万年Dランクの落ちこぼれで、攻撃力はてんで雑魚ザコなんですよ! それでどうやってSランクモンスターを倒すっていうんですか!?」

「“生存”適性を生かして敵の攻撃を無効化しながら、時間をかけて少しずつ斬り付け、最後に倒したそうだ。君達から見れば雑魚かも知れないが、適性がないなりに十年以上磨き続けた剣術が彼にはある。Sランクモンスターに通用しても不思議ではないと、私は思うがね」

「し、しかし……」

「ブイル君が討伐したことに間違いはないという、Aランク冒険者の目撃証言もある。ギルドは彼の功績を、正式に認定したよ」

「そんな馬鹿な……」

「それは、ギルドの功績認定に対する異議申し立てと受け取って良いのかな? ブイル君の功績を否定する根拠がまだあるなら、聞こうじゃないか」

「い、いえ……」


 レオルティはうつむく。それ以上は何も言えなかった。


 少し間を置いた後で、ギルドマスターは言う。


「……君達がブイル君を置き去りにしたのか、それともブイル君が勝手に去ったのか。どちらの証言も裏が取れない以上、今回の件は保留とする。しかし、仮に君の証言が正しいとしても、レオルティ君、君はメンバーの統率が取れていなかったということになる。私としては大いに遺憾だ」

「…………」

「今回の探索の成果はそのまま受理し、ランクアップの判断材料としよう。しかし、今後またメンバーの統率が取れないようなことが起きれば、降格もありえる。その点は肝に銘じておきたまえ。話は以上だ」

「は、はい……」


 レオルティ達は、うなだれてギルドマスターの部屋を出た。


 数日後、“光輝ある頂上”は暫定Sランクに昇格し、レオルティも暫定Sランク冒険者の称号を得た。ギルドマスターに手厳しく釘を刺され、また、自分達が蔑んでいたブイルの功績を聞かされて落ち込んでいた彼らは、ひとまず歓喜する。それが自分達の最後の栄光であることを、このとき彼らは知るよしもなかった。

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