第9話 (追放者Side)レオルティ達の錯覚

 冒険者ギルドにて、ブイルがラーヴァドラゴン討伐の賞金を受け取っていた頃――


 レオルティ達“光輝ある頂上”のメンバーは、ダンジョン探索を終えていた。入口から外に出たものの既に夜になっていたため、すぐにジルデンに帰ることは断念する。しばらく徒歩で移動し、平らな場所がみつかったのでそこで野宿と決めた。


 彼らは車座になり、火を囲んで食事をとる。食べ終わったとき、リーダーのレオルティが言った。


「みんな、御苦労だった。今回の探索の結果を持ち返れば、俺達“光輝ある頂上”のSランク昇格は間違いないだろう」

「「「おお!」」」


 パーティーメンバー達が賛同の声を上げる中、レオルティは心の中で付け加えた。


(それから、俺個人のSランク昇格もな……)


 レオルティは得意になっていた。故郷の村を出てから十年あまり、ついに自分も、自分の率いるパーティーも、頂点であるSランクに登りつめるのだ。Sより上のランクも一応存在はするが、そこに上がる者はほとんどいないので、Sが実質的な頂点と言えた。


 メンバーの一人が、レオルティにたずねる。


「Sランクになったら、もっと難易度の高い依頼を受けられるんだよな?」

「そうだ。報酬が今までよりもっと増えるぞ。それに、他の町の冒険者ギルドから依頼が回ってくるかも知れない。Sランクのパーティーがいる冒険者ギルドは、そうないからな。自分達のところでこなせない依頼が来たら、俺達を頼るしかないってわけだ」

「ということは、俺達“光輝ある頂上”がもっと有名になるな……」

「そういうことだ。これからはジルデンの町だけじゃない。この地方一帯に俺達の名前がとどろくことになるぞ」

「「「おおっ……」」」


 歓呼するメンバー達。レオルティはさらに言った。


「だから俺は、今回の探索を終えるまでにブイルの奴を追い出すと決めてたんだ。分かるだろ? これから始まる俺達の伝説に、あんな使えない奴は必要ない。最強の冒険者パーティー“光輝ある頂上”は一騎当千の強者ぞろいじゃないとな」

「そうだ、そうだ。追い出して正解だった」

「まったくだ。生き残るしかできないとか、冒険者として恥ずかしい」

「“生存”しか適性がないくせに、剣術だの回復魔法だの、ずっと修行して往生際が悪いんだよな。何やったって上達するわけないだろ」


 ひとしきりブイルへの悪口が出そろったとき、一人がぽつりと言った。


「ブイルの奴、どうなったのかな……」

「適性が“生存”と言っても不死身ってわけじゃない。魔力が尽きた後は普通にダメージを受けるんだ。今頃はモンスターの腹の中だろうぜ」

「レオルティ……」

「俺達だって、あんなに苦労してダンジョンから抜けて来たじゃないか。一人であれだけのモンスターの群れを潜り抜けて帰ってくるなんてできっこない」

「やっぱり、死んだんだな……」

「ああ。無能の分際で、ずっと俺達の足を引っ張ってきた報いだ。あの場で斬り捨てずに生きて帰るチャンスをやっただけ、感謝してもらいたいもんだ」


 レオルティの言葉に、一同はうなずいた。


「でも、そう言えば確かに、今回は後半きつかったよな……」


 ふと、一人が探索を振り返った。他のメンバーも同調する。


「そうそう。後半からモンスターがだんだん強くなったよな。攻撃しても効かなくなってったし」

「撃ってくる炎や氷の威力も、段違いに上がってたよな。同じモンスターのはずなのに」

「あのダンジョン、一体どうなってるんだ……?」


 ブイルを追い出すまで、彼らのダンジョン探索は至って順調だった。遭遇するモンスターを次々に討伐し、証拠の品を稼いでいった。それがブイルを追い出してから、苦戦することが徐々に増えたのである。とりわけモンスターの放つ火炎魔法や氷結魔法の威力は、急激に上がったように感じられた。


 そのために後半、特に最後の方はほとんど討伐ができず、彼らはモンスターから逃れてダンジョンから戻ってくるのが精一杯だった。体力や魔力の回復に使うポーションはほとんど使い果たし、賞金が出ても赤字が予想されるほどだ。


「もしかして、途中でブイルを追い出したせいかな……?」


 メンバーの一人がつぶやく。ブイルが強化魔法や付与魔法も修行し、パーティーメンバーの力や道具の耐久性を底上げしていたことは全員が知っていた。


 自分達がブイルを置き去りにしたとき、ブイルは自分達にかけた強化魔法、付与魔法を解かなかった。だが、強化魔法、付与魔法はかけ直さない限りだんだん効果が薄れていく。ブイルの強化魔法、付与魔法の効果が薄れるにつれて自分達の力が落ちたと考えると、後半の苦戦はつじつまが合った。


 しかし、レオルティはメンバーの言い分を一笑に付す。


「おいおい、何を言ってるんだ? あいつの適性は“生存”しかないんだぞ。いくら修業したって、そんな奴の強化魔法や付与魔法が大した威力になるわけないじゃないか。なくなったところで俺達の戦力には何の変わりもないはずだ」

「それもそうか」

「まあ、強いて言うなら、あいつに運ばせてた荷物を俺達が自分で運ぶことになったからな。荷物が重い分、動きが鈍くなって体力も削られてたのかも知れない。ジルデンに戻ったら、荷物持ちだけは新しく入れよう。そうすれば俺達“光輝ある頂上”の戦力はまた元通りだ」

「ああ……」

「そうだな……」


 一同はレオルティの説明に納得し、それ以上深く考えることはしなかった。その後も、自分達の不調とブイルの追放を結び付ける者はいなかったのである。

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