第17話 (追放者Side)問い詰められるレオルティ達2

「これは一体、どういうことかね?」


 ジルデンに帰還した翌日、レオルティ達“光輝ある頂上”のメンバーは冒険者ギルドのマスターに呼び出され、詰問を受けていた。


「数十体のオークに、一体のオークキング。今までの君達の実績を考えれば、決して討伐できない相手ではなかったと思う。そしてレオルティ君、君は今までの実力の発揮に懸念けねんはないと言った。にもかかわらず討伐は失敗に終わり、武器や道具を多数失っての逃亡。何か説明はあるかね?」

「そ、それは……」

「君達が逃げ出したあと、オーク達はすぐに村を去った。つまり、我がギルドが請け負った依頼は未達成に終わったということだ。メッテリク子爵には、違約金を支払うことになったよ」

「違約金、ですか……?」

「仕方あるまい。人里を襲う可能性のある危険なモンスターを、討伐できずに取り逃がしてしまったのだからな。村人達は村に戻れても、当分はオークの再襲撃におびえることになる」

「ううっ……」


 たじろぐレオルティ。ギルドマスターはさらに続けた。


「むろん、モンスター討伐はいつも計画通りに成功するわけではない。不測の事態でうまく行かないこともあるだろう。今回の失敗の原因は何か、レオルティ君、君の見解を聞きたい」

「…………」


 すぐには答えられず、レオルティは黙り込んだ。


 最初レオルティは、新しい荷物持ちのポーウスに責任を押し付けようと考えていた。ポーウスが臆病風に吹かれて逃げ出したため、戦えなくなったという筋書きにしようと思っていたのである。しかし、子爵の家来が戦闘の経過を全て見ていたため、それは不可能になった。自分達の醜態を前提に申し開きをするしかないのだ。


「何もないのかね?」

「こ、今回はたまたま調子が悪くて……」

「メンバー全員がかね? 一人や二人ではなく」

「そうです……」

「だったらなぜ、依頼を受ける前にそれを言わなかった? 君達が不調だと分かっていれば、複数のパーティーが合同で討伐に向かうという選択肢もあったのだよ」

「す、すみません。何とかなると思ってしまって……」

「…………」


 言い訳を聞き終えたギルドマスターは、少し間を置いてから言った。


「まあ、過ぎたことは仕方がない。だが、暫定とはいえSランクパーティーはギルドの顔だ。早急に戦力を立て直したまえ。分かっていると思うが、Sランク相当の実力がないとみなされれば降格する。そのつもりで今後は行動したまえ」

「はい……」


 レオルティ達が退室すると、入れ違いに受付嬢が入ってきた。


「マスター。功績認定関連の書類です。決裁をお願いします」

「ああ、御苦労。そこに置いておいてくれ」

「……レオルティさん達、大分しょげてましたね。かなり叱ったのですか?」

「まあ、な……」


 ギルドマスターはあいまいにうなずく。彼が依頼の達成に失敗した冒険者を責めるのは、普段あまりないことであった。暫定Sランクへの昇格は認めたものの、ブイル離脱のいきさつが未だに不透明であること、そして、自信満々の発言だったにもかかわらず今回の失態があったことから、ギルドマスターはレオルティ達に不信の念を抱き始めていた。


 ☆


「くそっ! ギルドマスターの奴、一回失敗したぐらいでガタガタ言いやがって!」


 ギルドを出たレオルティ達は、その足で高級酒場に向かい、飲み始めていた。Sランクパーティーのステータスを利用し、個室を用意させている。メッテリク子爵領での失態は、まだ一般には知られていなかった。


「本当だよな。ほかのパーティーが失敗してもそんなにうるさく言わないくせに」

「俺達がこの歳でSランクになったから、ひがんでるんじゃないのか?」


 レオルティの発言に、追従するパーティーメンバー達。そんな中、“防御”適性のドルジスが言った。


「でもさ……このままじゃまずいよな。何でか分からないけど、依頼達成に失敗したのは確かだし」

「「「…………」」」


 沈黙が流れる。しばらくしてクロトーンがぽつりと言う。


「もしかして、あのダンジョンに行ってから、本当に俺達の力落ちてるのかな……?」

「何だと? まさかブイルの奴が役に立ってて、追い出したのが悪いとでも言うつもりか!?」

「いや、そういうわけじゃ……」


 レオルティに怒鳴り付けられ、クロトーンはすごすごと引き下がる。そこへドルジスが言った。


「じゃあ、このまま特に何も変えずに次の依頼を受けるのか?」

「…………」


 レオルティは考える。やがて彼は口を開いた。


「ブイルの強化魔法バフや付与魔法は何の役にも立っていなかった。それは事実だ。でも、強化魔法バフや付与魔法自体はあっても悪くない」

「「「…………」」」

「新しく、強化術師と付与術師を入れよう。ブイルみたいな落ちこぼれじゃなくて、ちゃんと適性を持った奴をな。そうすれば俺達の戦力はさらに増す。Sランク、いや、それ以上のSSランクにも相当する働きができるようになるだろう」

「そうだな。それがいい」

「そうしよう」


 レオルティの提案に、パーティーメンバーは口々に賛同した。ブイルがいたことで得られた恩恵に、彼らはまだ気付いていなかった。

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