第16話 (追放者Side)レオルティ達の最初の失態(後編)

 レオルティ達“光輝ある頂上”のメンバーがメッテリク子爵の屋敷に着くと、門の前で子爵自らが彼らを出迎えた。なかなかの歓迎ぶりである。レオルティ達は子爵の前にひざまずいた。


「“光輝ある頂上”、ただいま参上いたしました」

「おお、君達が“光輝ある頂上”かね。見るからに頼もしそうだな」


 レオルティは白銀に輝く鎧に身を包み、いかにも強者という雰囲気をただよわせていた。他のメンバーもそれぞれ、自身に満ちあふれた表情をしている。


「ありがとうございます。俺がリーダーのレオルティです」

「うむ。話は聞いていると思うが、我が領地にある村からオーク共を追い出してほしい。一刻も早く、村人達に元の生活を取り戻させたいのだ」

「お任せください。オークごとき、俺達“光輝ある頂上”にかかればスライムと大して変わりません。一瞬で蹴散らしてご覧に入れます」

「さすがはSランクパーティーだ。期待しているぞ」

「はいっ! 成功のあかつきには、俺達の社交界デビューを世話してほしいのですが……」

「それはまた、気の早い話だな。考えておこう。問題の村まで、家来に案内させる。早速向かってもらいたい」

「ははっ!」


 問題の村に着くと、依頼の通り、数十体のオークに占拠されていた。人間のような体に豚のような頭を持ったオークは、村の食料を次々にむさぼり喰っているようである。


「薄汚いやつらだ。さっさと片付けてやる」


 オークはレオルティ達が、今までに何度も討伐してきたモンスターだ。子爵の家来を村の外に残し、レオルティ達は一気に村に突入する。ブイルがいなくなったことで、彼の強化魔法や付与魔法の分自分達の力が落ちていることなど、夢にも思っていなかった。


「ブオッ!?」

「ブオオ!」


 攻撃に気付いたオーク達は、手にハンマーや斧、棍棒を持って立ち向かってくる。突入したレオルティ達は、武器を持って肉弾戦を行う前衛と魔法で援護する後衛に分かれ、オーク達との戦闘を繰り広げた。


「おらあっ!」

「うおおおおぉ!」

「くそっ!」

「「「ブオオオォ!」」」


 レオルティ達は手を抜くことなく必死に戦ったが、なかなか押し切れない。これはいつもと勝手が違うのではないか。メンバー達がそう感じたとき、一人が叫ぶ。


「オークキングだ!」


 普通のオークに比べて縦も横も2倍近くある、大きなオークが現れた。おそらく村長の家であろう、比較的立派な家から出てくると、巨大なハンマーを手に“光輝ある頂上”へ襲いかかってくる。


「ブオオオオオオォ!!」

「任せろ!」


 パーティーメンバーの一人ドルジスが、巨大な1枚の盾を両手に持っておどり出た。“防御”適性を持つ彼の役割は、前面に出てその盾で敵の攻撃を受け止め、あるいはいなすことである。敵の攻撃をドルジスが止めている間に、ドルジスに隠れた後衛が攻撃魔法を放って殲滅するのは“光輝ある頂上”のよく使う戦法の一つだった。


「頼むぞ、ドルジス!」

「しっかり止めてくれよ!」

「おおっ!」


 声援を受けて盾を構えるドルジスに、オークキングはハンマーを振り下ろす。


「ブオオオオォ!」

「ぐぎゃっ!」


 ドルジスはオークキングの攻撃を受け止めることも、いなすこともできなかった。ハンマーの重さに屈し、その場に押し倒されてしまう。これまで数多くのモンスターの攻撃を防いできた自慢の盾は、ぐしゃぐしゃにひしゃげていた。


「そ、そんな……」

「なんで……」


 思いがけない展開に、“光輝ある頂上”のメンバーはひるむ。そこへリーダーであるレオルティの指示が飛んだ。


「何をしている!? 攻撃、攻撃だ! 魔法で奴を攻撃しろ!」

「!」


 その声を聞き、我に返った別のメンバー、クロトーンが攻撃魔法を発動させる。


石弾ラピス・バレット!」


 周囲に落ちていた大きめの石がいくつも宙に浮き、オークキングめがけて飛ぶ。石の弾丸は次々にオークキングを直撃したものの、オークキングはうっとうしそうに左手で顔をおおっただけだった。さらにハンマーを一振りすると、石の一つがはね返されてクロトーンの腹に命中する。


「げぼっ!」


 クロトーンは一溜りもなくその場に崩れ落ちた。それを見てレオルティが声を上げる。


「ええい、情けない奴らだ! こうなったら俺が倒してやる!」


 レオルティは両手で剣を持って構えた。Sランク冒険者の持ち物にふさわしいものをと言って、鍛冶屋に大金を積んで特注した剣である。“剣術”適性を持つ自分がこの剣を振るえば、この世に斬れないものはないとレオルティは信じていた。


「行くぞ! はああああっ!」


 オークキングめがけて駆け出すレオルティ。剣を大きく振り上げ、真っ向から振り下ろす。オークキングは左腕を上げてこれを受け止めた。


「馬鹿が! 左腕はもらったぞ!」


 剣がオークキングの腕の肉に食い込んでいく。だが、骨までは断つことができず、そこで止まってしまった。


「なっ……!?」

「ブオオオォ!!」


 オークキングは、ハンマーを横薙ぎに振って反撃した。予想しなかった展開に反応の遅れたレオルティは、左の脇腹にハンマーの直撃を受けてしまう。


「ぐぎゃあああああああぁ!!」


 剣を手放し、口から胃液を吐き散らして吹き飛ばされるレオルティ。鎧のおかげで致命傷はまぬがれたものの、放物線を描いて地面に叩き付けられた彼は、起き上がることができなかった。


「ぐうっ……」

「レ、レオルティ!」

「ひいっ! もう駄目だ! 逃げろっ!」

「退却! 退却だっ!」


 リーダーが戦闘不能となったことで、“光輝ある頂上”のメンバーは戦意を喪失した。まだ動ける者は倒れた者を引きずり、必死に村からの脱出を図る。荷物持ちのポーウスは荷物を捨て、レオルティを抱えて走った。


「「「ブオオオオォ!」」」

「オークが追ってくるぞ!」

「速く、速く走れ!」


 武器を振り回し、攻撃魔法を放ち、彼らはようやく村から脱出する。その様子を、子爵の家来は全て目撃していた。後日、レオルティ達の醜態は、メッテリク子爵を通してジルデンの冒険者ギルドへと知らされることになる。


 一方その夜、村の食料を食べ尽くしたオークの群れは、“光輝ある頂上”の落としていった武器や道具を手に住処すみかである森へと戻っていった。同時に、メッテリク子爵からジルデンの冒険者ギルドに出されていた依頼も消滅する。後に残ったのは、“光輝ある頂上”が多数の武器、道具を失って依頼達成に失敗したという記録だけであった。

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