第15話 (追放者Side)レオルティ達の最初の失態(前編)

 レオルティ達の冒険者パーティー“光輝ある頂上”が暫定Sランクに昇格してから数日後、彼らはギルドマスターに呼び出され、ギルドを訪れていた。


 ギルドマスターの部屋に入ると、部屋の主から早速用件を切り出される。


「急な話だが、君達“光輝ある頂上”にある依頼を引き受けてもらいたいと思っている」

「どんな依頼ですか?」

「うん。メッテリク子爵から、オーク討伐の依頼が来ているのだ。ぜひ君達“光輝ある頂上”に頼みたいとね」


 メッテリク子爵は、ジルデンから少し離れた場所に領地を持つ貴族である。レオルティは胸が高鳴るのを覚えた。


 さほど高位ではないとはいえ、子爵はれっきとした貴族である。その貴族が、自分達の存在を認知しているのだ。これまで積み重ねてきた功績のたまものに違いない。


 さらに、依頼を成功させればコネができ、上流社会で自分達の名声も今以上に広まるだろう。そしていずれは国王の知るところとなり、貴族の仲間入り……そんな皮算用が、レオルティの脳内をぐるぐると駆けめぐった。


「レオルティ君」

「…………」

「聞いているかね? レオルティ君」

「あっ……す、すみません! そのお話、詳しく聞かせてもらえますか?」

「……2、3日前、子爵の領地にある村の一つがオークの群れに襲われた。村人達はすぐに避難したが、オーク達は今も村に居座り、村人達は村に帰れない状態だ。知らせを受けて駆け付けた子爵の手勢も太刀打ちできない。そこで、つい先日暫定Sランクに昇格した君達“光輝ある頂上”に指名依頼が出されたというわけだ。群れの中にはオークキングがいたという情報もあるのだが、引き受けてもらえるかね?」

「はいっ、任せてください! オークの群れなんか一瞬で片付けてやります!」

「ほう。それは頼もしいね」

「それで……今回の依頼を達成したら、正式なSランクにしてもらえますよね?」


 レオルティが身を乗り出してたずねると、ギルドマスターが答える。


「……そうだな、“光輝ある頂上”もレオルティ君個人も、正式なSランクとしよう。むろん、あくまでも依頼を達成できたらの話だ」


 ギルドマスターの言葉には、わずかな不信感がにじんでいた。それを感じ取ったレオルティは、またギルドマスターにたずねる。


「……マスター、もしかして俺達が失敗するとか思ってるんですか?」

「いや、そんなことは思っていないがね。君達にとって、今回はブイル君が抜けてから受ける最初の依頼だ。実績のあるパーティーでも、メンバー構成が変わると調子が狂うことは多い。今まで通りの実力を発揮できるか、懸念けねんはないかね?」

「懸念なんかありませんよ。ソロで功績を上げたか何か知りませんけど、俺達のパーティーではブイルは役立たずだったんです。いなくなったところで何ともありません!」


 レオルティは力強く答える。彼にとって、“生存”適性しか持たない落ちこぼれのブイルが自分達の役に立っていたなど、あってはならないことだった。もしそうだったとしたら、彼を追い出した自分の判断が間違っていたことになってしまう。そんなことは、彼のプライドが決して許さなかった。


「しかし、ブイル君もメンバーに加わっていた以上、何もしていなかったということはあるまい。本当に大丈夫かね?」

「あいつがしてたのなんて、せいぜい荷物持ちぐらいですよ。それもこれから代わりのメンバーを入れます。強化魔法や付与魔法もやってたみたいですけど、適性のないあいつじゃ効果は高が知れてますし、俺達“光輝ある頂上”の戦力には、もう何の不安もないんです!」


 ギルドマスターはレオルティの答えを聞き、うなずく。


「そうか……それなら結構だ。メッテリク子爵には承諾の返事を出しておく。君達は準備ができ次第、子爵のところに向かってくれたまえ」

「「「はいっ!」」」


 そろって返事を返し、ギルドマスターの部屋を後にするレオルティ達。ブイルが十年、村を出る前を含めればそれ以上の期間、休みなく鍛錬を続けることで、自分達の想像以上の強化魔法、付与魔法を身に付けていたことなど、彼らには思いもよらなかった。


 ☆


 しばらくして、レオルティ達は酒場である男と合流した。レオルティが伝手をたどって探し出した、新しい荷物持ちの男である。


「お前が新しい荷物持ちか?」

「はいっ。ポーウスと言います。適性は“剛力”です。有名な“光輝ある頂上”入れていただけると聞き、今までのパーティーを抜けてきました」


 ポーウスは見上げるような長身で、筋骨隆々の大男だった。自己紹介を聞き、レオルティは満足そうにうなずく。


「それは正しい判断をした。俺達“光輝ある頂上”はこれからもっと高みへ昇る。他のどんなパーティーにいるよりも、将来が開けるぞ」

「はいっ。よろしくお願いします」

「分かっていると思うが、お前に預ける荷物は冒険に必要な道具だけじゃない。俺達の功績を証明する証拠の品も含まれているんだ。何があっても死ぬ気で守り通せよ」

「分かりました!」


 威勢の良い返事に、レオルティは大いに満足する。そして翌日、彼らは準備を整えてメッテリク子爵の領地へと出発したのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る