第18話 ポレリーヌの裸を見させられる

 セクレケンの用意した新しい試験官は、少年の剣技を見て合格の判定を下した。これで俺、ポレリーヌ、そして少年の3人とも、晴れてソグラトの冒険者ギルドで活動できるようになったというわけだ。


 別の町で経験のある俺やポレリーヌと違い、少年は初めて冒険者として活動を行うということで、いくつか簡単な講習を受けることになった。俺とポレリーヌは今日はこれまでということで、ギルドを出て街中を歩き始める。


「ふうっ……」


 息を一つ吐く。思わぬ立ち合いをすることになったが、最後にはみんな冒険者としてギルドに登録することができた。一安心である。


「住むところは明日探すとして……今日はとりあえず宿屋に泊まるか」

「そうですね。ブイルさんもお疲れだと思いますし、早く休みましょう」

「ああ……何しろ、“剣術”適性持ちとの剣術勝負だったからな……正直、ちょっと頭がくらくらしてるよ……」


 俺達は適当な宿屋を見つけると、一部屋取った。ソグラトに着くまでは、部屋を取るたびに本当に二人で一部屋でいいのかポレリーヌに確認していたのだが、毎回「当り前じゃないですか」と返されるので、もう俺は確認しないようになっていた。


 2階の部屋に通され、荷物を下ろす。小さなテーブルを挟んで椅子に座っていると、ポレリーヌが言った。


「何だか暑いですね。喉がかわきました。何か飲みたいです」

「そうだな……水でももらってこようか?」

「はい。お願いします」


 俺は部屋を出ると、下に降りて厨房に向かった。そこで水差しとコップ二つを借り、盆に乗せて階段を昇り、部屋に戻る。


 ドアを開けると、ポレリーヌが全裸で長い髪を櫛けずっていた。俺が入ってきたのを見て、彼女は小さく「きゃっ」と悲鳴を上げる。


「うわああああああぁ!!」


 俺は大声を上げてドアを閉めた。だがもう遅い。全体的に引き締まっていて、それでいて出るところは過激なほど出まくったポレリーヌの体を、上から下まで全部見てしまっていた。


 まさか、下に行って水をもらってくるまでのわずかな間に、こんなことになっていたなんて……


「はあっ……はあっ……」


 全身から汗が出て、息が荒くなる。背中をドアにもたれさせていると、中から声がした。


『あの……もう服着たんで、入ってもらっていいですか?』


 ☆


「ごめん。本当にごめん……」


 部屋に入った俺は、ポレリーヌの前にひざまずいて謝罪していた。下着姿で俺の前をうろついて平気な彼女といえども、さすがにこれは駄目だろう。考えてみれば、女性が一人でいる部屋なのだ。すぐ戻ったからと横着せず、ノックしてから入るぐらいの冷静さが俺にあったら……後悔してもし切れない。


「一発殴らせろって言うなら、それでもいい……とにかく、君の気が済むようにしてくれ……」


 下着姿で椅子に座っていたポレリーヌは、立ち上がってかがむと、俺の手を取って立たせた。


「そんなに謝らないでください。ブイルさん」

「いや、でも……」

「ブイルさんが戻ってくるのに脱いじゃった私も悪かったです……それに、一緒に住んでたら、お互いの裸をうっかり見ちゃうぐらい普通のことじゃないですか。そんなことで一々怒ったりしません。だからもうブイルさん、気にしないでください」

「あ、ありがとう……」


 許しを得た俺は、思わず涙ぐんでいた。


 一緒に暮らしていたら、お互いの裸をうっかり見るものなのかどうか知らないが、ぶん殴られても文句が言えないところを、水に流してくれた。ちょっと変わったところはあっても、根は優しい娘なのだ。


 ☆


 明かりを消してベッドに入ると、ポレリーヌはいつものように横からしがみついてきた。今までは眠るまでに一度か二度、離れるようにうながしていたのだが、今日はそういうわけに行かない。黙って人間抱き枕になり、彼女のやりたいようにさせてやる。


 ただ、やっぱりちょっと暑い。このままでは寝苦しくなりそうだ。


「なあ、暑くないか……?」

「少し暑いですけど、大丈夫です……」

「そうか……」


 やはり離れる気はないらしい。俺は環境不問クマムシ・弱を発動させた。俺だけ快適になるのは申し訳ないが、寝られなくなっては元も子もない。するとポレリーヌが言った。


「あっ……急に涼しくなりました」

「えっ……?」


 俺は驚いた。今までずっと、環境不問クマムシで快適になるのは術者である俺だけだと思っていた。


 最初にポレリーヌと泊まったとき、影響が俺以外にもおよぶ可能性をうすうす感じていたが、まさかそれが本当だったとは。


 試しに、環境不問クマムシ・弱を解除してみる。


「今はどうだ?」

「暑くなりました……」


 もう一度、環境不問クマムシ・弱を発動させる。


「今度は?」

「涼しいです……」


 どうやら、確定と言って良さそうだった。環境不問クマムシは俺だけではなく、俺の周囲にも影響を及ぼすのだ。


 思わぬところで得られた研究結果に愕然としながらも、俺はしばらくして、昼間の疲れから眠りに落ちたのだった。

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