第35話 産まれて初めての王都

 間隔が開いて申し訳ありません。少しずつ更新していきます。


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 数日後、フガフガ家の馬車が迎えに来るということで、俺達は長屋で待っていた。昼頃になり、外で車の音がしたので出てみると、小型の馬車が長屋の前に停まったところだった。御者を務めているのは、身なりの良い中年の男性だ。


「ブイル様でいらっしゃいますか?」

「そうです。フガフガ家の方でしょうか?」

「はい。ブイル様御一行をお迎えに上がりました」


 男性は御者台から降りると、俺に一礼した。


「お初にお目にかかります。フガフガ家の使用人、ラウトバと申します。お見知りおきを」

「これはご丁寧に……」

「このたびは当家の依頼をお聞き届けいただき、感謝いたしております。旦那様のご命令により、ブイル様御一行の王都までの旅をお世話させていただますので、どうぞよろしく」

「こちらこそよろしくお願いします。今、メンバーを呼んできます」


 ポレリーヌ、チウニサを呼び、三人で馬車に乗り込む。ラウトバは御者台に上った。


「それではブイル様、出発いたします」

「はい。お願いします」


 馬車は動き出す。やがてソグラトの町を出ると、王都のある西へと進んでいく。


 途中の食事や宿の手配は、全部フガフガ家が前もってやっていた。さすがは王国でも指折りの豪商だ。万事抜かりがない。


 ☆


 何日か乗り続け、王都に近づくと、道は広くなり人通りも増えてきた。街道沿いに立ち並ぶ店も、多くなってきたようだ。


 冒険者をしていると、依頼によっては少し離れた場所まで行くことはある。ただ、基本的には拠点の町からそれほど遠くに行くことはない。俺も、ここまで西に来たのは産まれて初めてだった。物珍しさで、しきりに窓の外をうかがう。ポレリーヌとチウニサも、外の景色が気になっている様子だった。


 そして五日目の午後、ラウトバが御者台から声をかけてくる。


「ブイル様、見えて参りました。あれが王都ドロイエングルツでございます」

「おおお……」


 窓越しにラウトバの指差す方を見ると、城壁に囲まれた大きな都市が見えていた。あれが俺達の国、アケミナタ王国の王都か……


 さらに近づくと、その大きさがよく分かった。高い城壁が二重に全体を囲んでいる。ジルデンやソグラトにも城壁はあるが、高さはずっと低い。広さについても、この王都はジルデンやソグラトの何十倍もありそうだ。


「さすが王都。大したもんだな……」


 思わずつぶやく。ポレリーヌとチウニサも、王都の大きさ、豪華さに圧倒されているようだった。


「私、こんな大きい町を初めて見ました……」

「僕もです。町なんてソグラトぐらいしか見たことなかったし……」


 馬車は正面の門から王都に入り、町の真ん中を貫く大通りを進む。脇道に逸れると、やがて大きな屋敷が見えてきた。おそらく元々は白いだろう壁が、夕焼けに赤く染まっている。


「あれが……」

「はい。フガフガ家の本宅でございます。間もなく到着いたします」


 その言葉通り、程なくして馬車は屋敷の門の前に着いた。門が開けられ、中に進んでいく。そして建物の入口の前で止まり、ラウトバは御者台を降りて俺達の乗る客室の扉を開けた。


「長旅お疲れ様でございました。まずはお部屋でおくつろぎください。旦那様は、夜にはお戻りになりますので」

「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて……」


 俺達も馬車から降りる。そしてラウトバについて屋敷に入ろうとしたとき、誰かから呼び止められた。


「待て!」

「?」


 振り向くと、見上げるような長身の男が立っていた。髭面で、鉄の鎧を着けている。兵士か、それとも冒険者か。


「お前達か? ソグラトから来たという冒険者は」

「そうだが……誰だ、お前は?」

「俺はメルフィウスという者だ。元Sランク冒険者で、今はフガフガ家私設警備隊に勤めている。お前達の話は聞いた。まぐれでSランクモンスターを倒したからといって、調子に乗っているようだな」

「…………」


 何だいきなり? 歓迎されているのかと思ったら、急に感じの悪いのが出てきた。俺は前に出て答える。


「別に、調子に乗った覚えはないんだが」

「あのSランクモンスターは、元々俺が倒す予定だった。別のモンスター討伐があって鉱山に向かえず、お前達に手柄を譲ることになったがな」

「そいつは御立派だな。で、俺に何の用だ?」

「フガフガ家の警備隊員として、実力もよく分からない低ランク冒険者を旦那様に会わせるわけにはいかん。旦那様に会う資格があるかどうか、この俺がお前の実力を試してやる。ついて来い」


 そう言うと、メルフィウスと名乗った男は建物の裏手の方を向いてあごをしゃくる。ラウトバは慌てた様子で割って入ってきた。


「待て待て! そのような話は聞いていないぞ! こちらのお三方は旦那様がお招きになった客! お前の出る幕ではない! 下がれ!」

「黙れ! 屋敷の防犯に関わることなら我々警備隊の管轄だ! どこの馬の骨とも知れない雑魚冒険者を屋敷に入れては我々の責任問題になる。引っこんでいてもらおうか」

「何だと……」


 メルフィウスという男、ずいぶん無茶苦茶なことを言う。ポレリーヌとチウニサが、不安そうに俺に声をかけてきた。


「ブイルさん……」

「師匠……」


 さて、どうするか。考えてみる。結論が出るのにさほど時間はかからなかった。振り返って二人に言う。


「よし。帰ろう」

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